しりーず | ナノ



今日は定期的な委員会の日。今は委員長である真田くんの放送を聞いて学校指定のカバンを持って委員会を行う教室に同じクラスの柳生君と向かっているところ。


「名字さん、知っていますか?」
「なにが?」

にこりと笑いながら話しかけてくれる柳生君は本当に紳士で、私が退屈しないようにとの話題だろう。彼の優しさは同学年とは思えない。


「今日、真田くんの誕生日なんですよ」

「え、?そうなの?」
「委員会の終わりに一言言ってあげてください」
「それだけで、いいのかな、、」

真田くんにはいろんなところでお世話になっているし、おめでとうの一言だけではきっと感謝しきれない。

「柳生君、」
「なんでしょう?」
「シャーペンとかだったら喜んでくれると思う?」
「真田くんがですか?もちろん喜びますよ。少なくともお菓子やケーキ等よりは。真田くんの誕生日知ってたんですか?」
「ううん。さっき柳生君から聞いたのが初めて。だけど昨日買ったシャーペン、まだ開けてないから」


また、にこりと柳生君が笑う。確か私のカバンには昨日買ったそのシャーペンは愛用のシャーペンと同じタイプのもの。この前潰してしまって新しいのを購入したのだ。
しかも、前のシャーペンはピンクのシャーペンだったけど、今回は気分で黒を買っていた。これだったらきっとプレゼントとして渡せる。


「とてもいいと思いますよ。委員会が終わった時に渡してはいかがですか?」
「う、うん、そうする」


ガラリと教室のドアを開けると真田君が教卓のところに立って先生から渡されたであろうプリントをあの鋭い目で見て見ていた。

音に気付いた真田くんはこちらを見るとふと微笑んだような雰囲気を纏った。


「やはりお前たちが一番か、」
「ええ、もちろんです」


そんな会話をしているとぞろぞろと他クラスの人や下級生が集まってくる。さっきまで柔らかい雰囲気があった真田くんと柳生くんがの雰囲気が変わるのがわかって、彼等は本当に真面目な人達だと、思った。


***

「以上だ。各自クラスにさっきのプリントを掲示してくれ。解散」

トクトクと心音が大きくなる。ほ、本当に喜んでくれるのだろうかとか、迷惑じゃないだろうか、とかいろんな不安はある。

「名字さん、」
「う、ん」

委員会が終わると、私と柳生くんと真田くんの3人で教室に戻るのは恒例になっていて、教室の入り口に近い教卓で真田くんが私達を待つ形になる。そのときに、渡せばいいのよ、わたしっ!頑張れわたしっ!


「さ、真田くん!」
「どうした名字。」

声をかけたはいいが一言が出てこない。助けを求める為に柳生くんをちらりと見るとさあ、と言わんばかりのドヤ顔をしている。やっぱり前言撤回。柳生くんは紳士なんかじゃない。

すぅ、と息を吸い込んで、

「誕生日、おめでとう!」

包装紙も何もない、しかも袋に値段も書いてある。
そんなプレゼントでいいのか、悩んだけれど感謝の気持ちと祝いたい気持ちは伝わると思う。


「、俺にか?」
「真田くん失礼ですよ!」
「い、いや、そう言う意味ではないのだ、ありがとう」

ふわり、と少し微笑んだかわからないくらいの笑みを浮かべるから急に恥ずかしくなって話を反らす。この癖、治したい。

「え、と、これから部活でしょ?」
「ああ、」
「頑張ってね。柳生くんも、」
「無論だ。」
「ありがとうございます」


廊下を3人で並んで歩く。その空気はどこか柔らかい感じで、心地良かった。

来年も、祝えたら、いいな。



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