しりーず | ナノ



「そろそろか」

今日は年に一度の体育祭の日だ。うちの学校では招待されていない者は入れないようになっているが勝手に入ってくる輩がいるようなので、こうして風紀委員が定時的に見回りをしている。見分けるのは簡単で、家族や親族は名札。招待された友人や知り合い等は招待用のシールを分かりやすいところに貼っている。
それが無い場合は風紀委員や先生達が対処することになっているのだ。

集合場所に向かうにもチェックは忘れない。
その時だった。


「は?なに?ちゃんと招待されてるから」
「いいえ、貴方が言う招待された方はこの学校にはいらっしゃいませんでした。お引き取りください」
「ほら、シール貼るのやだったからほっといたらなくなっちゃったんだよ」
「それなら招待券を提示ください。私が再発行しますので」
「あんた、めんどいなぁ!」

凛とした態度で芥子色のジャージに風紀と書かれた腕章。名字だ。

彼女は今許可無しにこの学校に入ったと思われる同じ歳ぐらいの化粧をした女達に1人で注意していた。

俺が見ている限り名字は正しい対応をしていた。いや、しているのだ。それが気に障ったのか女達はギラギラと光る石をつけたケバい爪がある手を大きく挙げた。それに対応出来ずにバインダーをぎゅう、と抱えている名字を見て先程競技をした後の暑さとは違う熱を感じた。

自分の意思がわからなくなるような、強い熱だった。


「いったい!なに!?」

ヒステリックに叫ぶ女はまた醜さを増したように思う。

「お引き取り願おう」
「なによ、、、!こんなとこ来るんじゃなかった!」

行こ、とヒステリックな女が一言言うと女達はズラズラと門の方に歩いていく。傍迷惑な奴等だ。


「大丈夫か?」

ハッと今の状況を理解したのか俺の顔を見て名字は泣きそうに顔を歪める。お、俺は何か彼女を傷付ける事を言ったのだろうか…


「さ、なだく、」
「移動、するぞ」

ここで泣かれては俺が泣かしていると思われる。それは委員としても、男としても、困るのだ。

校舎の裏は立ち入り禁止になってはいるが委員の見回りとしては立ち入りを許可されている。委員長という権力に頼るのはみすぼらしい気もするが、今はそれに感謝している。


「どうした、何かされたか?」
「真田くんに、めいわ、く、かけた」

ポロポロと目から大粒の涙が流れ落ちる。それを綺麗だと、見惚れてしまうほど、綺麗だと思ってしまったのが憎い。たるんでいるな、

こういう時、俺は何をすれば良いのかがわからない。幸村や蓮二なら、わかるだろうか。

泣いている名字を見るとぎゅうと胸を締め付けられるような痛みに襲われる。

それと同時に俺の手は彼女の頭の上に置く。


「さなだ、くん…?」
「お前は、強く美しかった。奴等は手を出そうとしたのだ、たるんでいる証拠だ」
「あ、で、でも、」
「言い訳は聞かんぞ」

力加減はわからない。だが出来るだけ優しく撫でてやる。彼女の行動はとても素晴らしいもので、俺が委員に求めるものだったからだ。

「…へへ、褒められるとは思わなかったなあ、」
「そうか?」
「うん、ありがとね」

にこり、とさっきの表情とは変わっていつもの可愛らしい笑顔で、安心した。

俺は彼女には笑顔が似合うと、再確認した。


君の泣き顔を見るのは苦しいから
(その表情をさせた相手を、ただでは済ませないだろう)


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