#07#
最近、良くも悪くも人に呼び出される事が多くなった気がする。今日は人気の全くない校舎の裏側(こんな所初めて知った)に呼び出された。
隣の席の切原くんに。
別に隣なのだから、そのまま話してくれればいいのに、何でわざわざこんな所に呼び出されたのか皆目見当もつかない。
ここ数日切原くんの様子を見れば、幸村先輩と仲直り出来たんだなーとか、良かったねとか思っていたけれど。
「お前さ、幸村先輩に何言ったわけ?」
不機嫌全開でギロリと睨まれた。
「···はい?」
あれ。私、何か疑われてる?
何か言ったっけ。
何も変な言葉は言ってはいないはずだけれど。
「すっとぼけんなよ。俺の事何喋ったんだよ?」
“俺の事”とは?
うわぁ。
目がマジで怒ってる。
幸村先輩に相談···と言うか幸村先輩の話を聞いて、何か話したような気はするけれど···。思い当たるとしたら、もしかしてアレかな。「切原くんは幸村先輩の事が大好きみたいですから」みたいな事を、確かに話したかも知れない。
(あー···もしかして、それだったりするのかな)
「あぁ。えっと···確か“切原くんは、幸村先輩の事が大好きみたいですから”とは伝えといた」
「はぁ!?」
「んだよそれ!!」と切原くんは片手で自分の顔を覆った。よく見れば、微かに耳が赤い気がしなくもない。
「え、だってこの間凄く沈んでたじゃない。だから、それ程幸村先輩の事が好きなら、伝えるべきかなって思って。幸村先輩も相当気にしてたみたいだし···」
切原くんはどこかショックを受けた様に体を強ばらせてしまった。もしかして、自分で伝えたかったのかな。余計なお世話だったかもしれない。
だとしたら、非常にまずい事をしてしまったかも知れない。なら、怒って当然よね。もっと、切原くんの気持ちを尊重するべきだった。
「ご、ごめんなさい。そうよね、直接伝えたかったよね」
「あぁもう!!余計な事すんじゃねーよ!!」
「···!!」
切原くんは怒鳴るように声を荒げた。
どうしよう。マジで怒らせてしまった。
人をあまり怒らせた事が無い私は、ただあたふたするだけで。切原くんは私に背を向けて走って行ってしまった。
「ごめんなさい、切原くん!」
* * *
「はぁー···」
(あ、こんな所に枯れた葉が···)
今度は私がため息をつく羽目になってしまった。校庭の花壇にジョウロで水を撒き、片隅に座った。取り除いたはずなのに、取り切れていなかった葉に手を伸ばし、プツンと取り除いた。
ふと目に入った矢車草の青は、幸村先輩の髪色に似ていた。ちょっと癖のある花びらも。
「どうした、具合が悪いのか?」
どこかで聞いた事のある声に、私は立ち上がって人物を見た。黒い帽子にカラシ色のジャージ、手首には黒いリストバンドとテニスラケットが握られていた。
(あれ?この人···)
この間、柳先輩と病院に来ていた···。
「む?お前は、あの時の」
声をかけられてハッとした。
「あ、すみません。ご心配お掛けしました。私は大丈夫です。美化委員の活動で花に水をあげていただけですから」
「そうか。なら、良かった」
「あの、幸村先輩とはあれから···」
何となくはわかってはいたけれど、何となく質問してみた。
「あの時は世話になったな。幸村とは無事に仲直りが出来た。礼を言う」
「そうですか。お役に立てたのなら、良かったです」
「幸村もほっとしたようで喜んでいた。お前にはよろしく伝えてくれと、ことずけをもらった」
「い、いえ。私はそんなに大した事はしていませんよ。ただ、私も入院した事があったから、ただ何となく···入院中は気も滅入りますし、幸村先輩も本心から行ったわけでは無いと思ったので」
「そうだったのか」
「私はもう治りましたから、私も幸村先輩の全快を思っています」
「もし、お前さえよければ、これからも幸村の見舞いに行ってやってはもらえないだろうか?」
「···はい?」
何故に?
「無理にとは言わん。ただ、···」
「ただ?」
「お前と会った日、珍しく幸村が晴れた顔をしていたのだ」
おこがましい事だけれど、こんな私でも役に立てたのならよかった。
「わかりました。機会がありましたら、またいずれ」
その後、名前を呼ばれた先輩はテニスコートに戻って行った。
後に知った事なのだけれど、彼はテニス部の副部長であり、幸村先輩とは仲が良いらしい。名前は真田弦一郎先輩だそう。