#05#
「···はぁ」

これで何度目だろうか。
切原くんは、朝からため息をついていた。
授業中もどこか上の空だし、何だかいつにも増して力が抜けて怠そうにしているし。

仲が良い訳ではないから、ほおっておいてはいるけれど、具合でも悪いのだろうか。だとしたらほおってはおけない。1度気になってしまうと、気になって仕方ない。きっと切原くんにとっては余計なお世話だと思うし···。

「···、はぁー···」

「···。切原くん、具合悪いの?」

「···。んなんじゃねぇよ」

態度はいつも通りだけれど、弱々しい返事が返って来た。まぁ、理由は何であれ具合が悪くないのならいっか。そんな感じで放置しておいたら、昼休みに先生から呼び出しがかかった。···、私、転入早々なんかしたっけ?

「急に呼び出してすまない。五十嵐さん。以前、入院している先輩がいると言ったね」

「はい」

「実は、このプリントを幸村精市くんに届けてもらいたいんだ」

なぜ、私何だろう。
3年なら3年の先輩のクラスの委員長にでも、頼めば良いと思うのに。

「いつもならばテニス部のレギュラーの子達に頼んでいるんだが、この間、気がたっていたのか幸村くんに部屋を追い出されてしまったらしくてね」

うわぁ。
余計に行きたくない。
同時に、切原くんがどうして元気がないのかがわかった。先輩のお見舞いに行って追い出されたんじゃ、そりゃ落ち込むよね。

「わかりました。それじゃあ、行きずらいですよね。放課後、幸村先輩の所に行って来ます」

「本来なら同級生に頼むのが筋なんだろうが、幸村くんはどこか潔癖な所があるから」

「いえ。それじゃあ失礼しました」

透明なファイルに入れられたプリントを持って、教室に戻ると知世ちゃんに声をかけられた。

「あおい何かやらかしたの?」

「失礼だなー。違うよ、何かテニス部の幸村先輩にプリント持っててくれーって、頼まれた」

ガタッ!!

「···」

「何?」

「何でもねぇ」

幸村先輩の名前を出した途端、勢い良く起き上がった切原くんは私をジッと見て来た。気に食わない。そんな顔で。

「切原くん、放課後幸村先輩の入院先の病院に行く事になったんだけど、幸村先輩の好きな物って何?」

「そんな事聞いてどうすんだよ」

「いくら知らない先輩とはいえ、プリントだけ持って行くのもどうかと思うのよ。だから聞いて見たんだけど···。わかった。答えるのが嫌なら他の先輩に聞きに行くわ」

席を立とうとすれば、切原くんから小さな声で「花」と聞こえた。

「花?何の花?」

「そこまでは知らねぇーけど···」

焦れったいなぁ···。
何だか言いたそうにする切原くん。
幸村先輩が大好きなんだろうなぁ。

「ん、ありがとう!わかった。それと伝えとく」

「はぁ!?何をだよ」

「切原くんの伝えたい事?何となく」

「意味がわかんねー」

「良かったじゃない赤也!あおいに伝えて貰いなさいよ」

「あ?」

そんなこんなで、花、何がいいんだろう。
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