「いーててて!!痛てェよ!!」
「はいはーい。大人しくしてくださーい」
「テメェ、ワザとやってんだろ」
「あ、バレた?」
「···の、ヤロォ」
「乱暴な言葉を吐く口は閉じましょうね」
「いっテェ!?」
今、私は保健室で浦飯幽助の手当をしていた。あくまで保健委員として。学校に来るやいなや既にボロボロ。朝から猫のように喧嘩したに違いない。乱暴な言葉を吐く幽助の頬っぺたに、消毒液を染み込ませた脱脂綿をピンセットでちょこんとあててあげた。
「もう。喧嘩するのは止めないけれど、あまりに傷だらけになると、螢子が心配するよ」
「···アイツは関係ぇ、ねェ」
罰が悪そうに視線を反らした幽助の態度にため息をついた。桑原くんと言い幽助と言い、本当に血の気が濃いのか若気の至りなのか。両想いになって付き合ったら、少しは丸くなるのかしら。
「はーい、手当終了。あ、螢子呼んどいたから、一緒に教室戻って。じゃ」
「はぁ!?何勝手に」
幽助が慌てる中、私とすれ違いざまに螢子が幽助に駆け寄っていた。幽助は少しは反省するべきだと思うの。螢子だって、いっぱい幽助の事心配してるんだって。
「はるか、幽助はどこ!」
保健室の扉を開けて、息を切らして来た螢子。
「こちらに···」
私は体をずらして、メイドのような仕草をした。
「幽助!!全く、アンタってば···心配したじゃない」
2人のやり取りを見送り、私は後ろ手に保健室の扉を閉めた。ふふふ、螢子にしっかり怒られればいいのよ。好きな人の力って、偉大よね。
2人の姿を想像しては、ルンルン気分で歩いていると、前から岩本が歩いて来た。正直、この先生好きじゃない。
「こんにちは」
「おや、君は。あんな不良とつるんでいると、君の内申書に傷が付くぞ」
ん?傷?何で幽助とつるんでいたら傷が付くの?あぁ、脅しかな。てか、生徒が挨拶しているのに、貴方はしないの?生徒に対しての高圧的な態度に、それですらイライラする。
「先生、私は保健委員としての仕事をしたまでですよ。それに···お言葉ですが、先生からのお言葉は、脅迫と受け取られる可能性があるのでは?」
「な、何を屁理屈を」
「先生、ご心配ありがとうございます」
「でわ」と、一礼して私は踵を返した。
幼なじみをバカにされた報いは、受けて頂きますが。それに、私の担任は竹中先生だから、心配ご無用だ。大きなお世話だっつーの。
放課後、何でもバケツの水をかけられたらしい岩本の話が耳に入って来た。ちなみに幽助は私と螢子といたから白である。何か言いたげな顔をしていたけれど、ざまぁみろだ。と心の中でほくそ微笑んでいたら、螢子から気持ち悪がられた。
「何その気持ちの悪い笑い方」
「えー、ひどーい···」
にししと笑って見せた。
窓の外を見れば日は沈みかけ、オレンジ色の夕焼けが広がっていた。
「さ、て、と。私は先に帰るわ」
「え?」
「幽助と、仲良く帰ってね!」
「ちょ、ちょっとはるか!?」
うわ、螢子顔真っ赤。
可愛いなぁ···もう。
にやけそうな顔に力を入れて、カバンを机のフックから拾い上げて、バイバイと手を振った。
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