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「で、お前さんはどうすんだい?」

彼女が山に入った所で、幻海さんはオレに問いかけて来た。昨夜ここに来たのは、彼女の成長ぶりを確認するため。もともと強い霊力の持ち主の彼女の事だ。学校の成績もそんなに悪くはない事から、頭の回転もそこそこいいだろうし、要領を掴めば成長も早いだろうと思う。

「オレも山に入ります。昨夜ここに来たのは、彼女がどれくらい成長出来ているのか確認するためですから」

「そうかい。あの子は飲み込みが早い。もっときちんと教えてやれば、最強の使い手にもなれそうさね」

そう言いながら、口元に弧を書いて笑う玄関さんは、どこか楽しそうでもあった。

「オレも、そう思います」

「だが、あの子はそこまでは望まないだろうて。あの子は優しい一面を持っている。故意に人を傷付ける事は望まないだろう」

彼女が消えた山を見ながら、独り言を呟くように言う幻海さんは、後継を探しているようなそんな気がした。残念そうな感情が混じる声に。

「残念、ですか?」と問いかければ、先程浮かべた笑みをして「いや」と答えた。元々彼女は、自分の身を守る術を見つけるために、ここに来たのだ。幻海さんも重々承知だろう。

「ほれ、そんな事より早く行って見て来な」

「はい。じゃあ、オレも行ってきますね」

軽いやり取りの後で、オレも山の中に入った。彼女の霊気を追って、気が付かれない位置に移動し、太い木の幹の上に上がり様子を伺う事にした。丁度彼女が弓を弾く所だった。付け焼き刃だろうが、弓を弾く様は形になっている。弓の弦をギリギリまで引いて放てば、シュッと一直線に綺麗に飛んで行ったみたいだけれど、鬼には当たっていなかった。

彼女の攻撃により、彼女に気がついた鬼は即座に襲いかかろうと、熊のような猛烈な勢いで襲いかかろうとする。

(さて···どう対処する?)

鬼に気が付かれた彼女は焦りの表情を浮かべつつ、片膝を地面に付けて低い姿勢から鬼に的を当てた。コレを外したら後は無い。止めなけれ大怪我は必至。しかし至近距離から放たれた矢は、運良くもあっさりと鬼の足を傷付けて、鬼の背後にある木に刺さって消えた。今の彼女の矢は、完璧に具現化されていない。いわば霊力の塊の弓のような物だ。

けれど、彼女は4日目にして鬼に当てて見せた。まぐれだろうが当てた事には違いない。こんなにあっさり終わるとは思っても見なかったけれど。オレは2人の鬼ごっこを止めさせるべく下に降りた。

「そこまで!」

「み、南野くん!?」

オレが急に上から落ちて来た事に、彼女は驚いた顔をして、口をあんぐりと開けていた。彼女を見れば、想像していた以上に鬼ごっこをしていたらしく、上から下までボロボロだった。ジャージや靴の至る所に泥が沢山着いていた。なるほど、霊力に満ちているこの山で、これだけ泥だらけになって駆けずり回っていれば、基礎体力や霊力も爆発的に上がるだろう。

「実は上から見させてもらっていたんです。橘さんが攻撃した際に鬼に1発当てたので、鬼との鬼ごっこは今をもって終了とします」

「え、でも···、あれはまぐれで」

「橘さん。この課題の意味は霊力、基礎体力の向上だったんです。鬼ごっこをして1発当たるまではこのままと言ったのは、敵に対して君がどのように対処出来るか、ちょっと拝見してみたかったんですよ」

「え、そうだったんだ」

「さて、本題はここからです。まず橘さんのその霊力の塊のままの弓を具現化、それから本物の弓を使って的に当てる練習をしてもらいます。固定された的に命中する事ができたら、次は動く的に100%命中するまで、弓の練習をしてもらいます」

「···もしかして、鬼ごっこは準備体操みたいな物だったりする?」

「えぇ、そう受け取ってもらって構いませんよ。メインは霊力と基礎体力の向上、弓の具現化と練習ですから」

「あ、それから明日からは午前中は鬼ごっこ。午後からは弓の具現化と実技の練習を行って行きますから。ある程度は覚悟しておいてくださいね」

「な、なんつースパルタ···」

引きつった彼女の意外な顔。
霊力が格段に上がった彼女は、必ず妖怪達に狙われる確率が高い。だからこそ、オレは彼女が1人でも戦える術を教えなければ。


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