12
どこまでも続く森の中、いや山の中をひたすら駆け巡っていた。こんなに走ったのは生まれて初めてかも知れない。

「はぁ、はぁ、はぁ···」

いくら山の中で涼しいとはいえ、夏真っ只中。
額から落ちてくる汗と、背中からじわりと流れる汗と泥で、ドロドロ状態。手の甲で拭っても拭い切れずに地面に落ちて行く。

(玄海さんの土地の敷地面積が明らかにおかしいよ!!)

見渡すかぎりの山が敷地だなんておかしすぎる。8月中旬と言うこともあり夏休みも限られている為、追い込まれる追い込まれる。全く容赦ない。

遡ること修行開始当日。

「いいかい。今日からお前には、午前中は山の中で鬼ごっこをしてもらう」

「鬼ごっこ、ですか?」

厳しい修行を想像していた私は、玄海さんの言葉に拍子抜けしてしまっていた。「そんな簡単な事でいいの?」かと。

ただし、ルールが尋常じゃ無かった。
この山2つ3つ使って良いとの事と、魔界からお取り寄せしたらしい青い鬼との鬼ごっこであると。鬼に捕まったら一日中はリアル鬼ごっこが夜まで続くらしい。午前中1回も捕まらずに逃げ切る、又は鬼に攻撃出来て1つでも傷を付ければ勝ちらしい。午後の話は聞いてない。

「後は頭ん中でどしたら反撃できるのか、逃げ切れられるのか、考えながら動いてみな」

スパルタ。
いや、ちょっと、···山2つ3つ?。鬼って何だ。え、ちょっとアドバイスそれだけ···。

そんなこんなで修行3日目。
何と、青い鬼と絶賛リアル鬼ごっこ中である。
初日の頃に比べればだいぶマシになった気がする。慣れない山道(道などほぼ存在しない)中をひたすら走り、ひたすら転んで何かの枝で切り傷を作り、痣を作ったり、直ぐに転んでいた。息を切らして、気持ち悪くて吐いたりもした。

けれど初日に比べれば、だいぶマシにはなったと思う。太い木の裏に隠れて、ジャージの上着をパタパタと扇ぎ様子を伺う。鬼はキョロキョロ周りを見渡し、私の気配を感じてはいるようだけれど、居場所まではつかめないと言った感じだ。

どうしよう。
距離が近過ぎて動いたら直ぐにバレてしまいそうだ。足元をジリジリ動かし、小枝を踏まない様に気をつけて。ちなみにこれ、何度もやって一昨日と昨日は一日中鬼ごっこだった。地獄のような2日間。今日こそは何とかしたい。

攻撃してみる?
でもどうやって?
主人公である浦飯幽助は指に霊力を溜めて霊丸を打っていたけれど、出来ればパクリたくは無い。一瞬だけでも隙を作れればいい···。

何かいいの無いかな。
足元を見たけれど、木の枝しかない。

「···ッッ!!?」

パッと顔を上げれば、目の前にいたのは女郎蜘蛛。虫が大嫌いな私は叫びそうになる口を咄嗟に覆った。

(ビックリしたー···)

いつの間に上から下がって来たのか、おしりから糸を出しながらスー、スーと地面に着地した。何と器用な···蜘蛛の糸か···。

糸、糸、糸···。
糸を操るキャラクターって結知ってた。
もしかしたら行けるかも知れない。

「ふー···」

細く長く息を吐いて、指先に意識を集中。
粉を作った時のようなイメージを、糸に変換するように。人差し指と親指に糸を引くイメージをする。2本の指を軽く擦り合わせて、ゆっくり開けば···。

プツン。

まぁそんな簡単に行くはず無いよね。
直ぐに切れてしまった糸を見て、口元が引きつった。せめてピアノ線くらいには固くて頑丈な糸が出したい。でも、どうすれば?

「ミ···ツケタ」

「うわぁっ!!」

3つの目玉がギョロりと動いて、ぶっとい化け物のような腕ではたかれそうになる。マジで冗談じゃなくてぶっ飛ばされたらひとたまりもない。

慌てて避けて、後ろの木の枝を掴んだ。
掴んだ?はい?

「うそだ···」

プラーンとぶら下がった枝は、地面から遥かに遠く。数メートル下に鬼がいる。···何だか、3日で人間卒業したようです。私。何これ。トリップ転生効果?そんな特典いらない。本当にいらない。私の脚力どうなってんだ。

「フンっ!」

「ひっ!」

今はそんな事思ってる場合じゃ無かった。
鬼から逃げなければ、最悪この修行だけで終わってしまう。後はもう、やけくそだった。
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