07
「うまそうだ」

「うまそうだ、持って帰ろう」

「帰って食べよう」

(···、これは、彼女の)

暇つぶしになりそうな適当な本を借りて教室へ戻る途中で、ふと、知っている霊気が何故か化学室から漂って来ていた。窓の外から化学室を覗けば、小物の妖怪達が流しに集まっていた。ただ、気になったのは本人の姿が無いこと。

オレは霊力が気になって、化学室に足を踏み入れた。流しから漂って来る霊気を頼りに中を覗けば、オレの強い妖力に気がついた小物の妖怪達は蜘蛛の子が散るようにいなくなった。

「···これは、何だ」

流しの中をよく見ると、硝子を粉々に砕いたような、砂のような物がキラキラと光を反射して輝いていた。人差し指で埃を掬うように取り、観察するように親指の原で軽く擦った。

「···霊気の、結晶?」

流しや指から感じられるのは、確かに橘 ゆかりの霊力だった。しかし、どうしてこんな物がココに?それに、彼女が使ったであろうビーカーも気になる。図書室から帰る途中で、どうしてわざわざ化学室に寄る必要があるのだろうか。

濡れているビーカーを見るに、ココへ来て何かをする必要があったのか、又は、何かを試したかったのか···。最も近しい答えとして、考えられるのはこの二点か。図書室いた時からの彼女の言動から見て、急ぐと言う動作や仕草は見当たらなかった事から、後者である何かを試したかった、と考えた方が自然だろう。ただ、何を試したかったのかはわからないが、霊力を結晶に変えられるだけの強い力を持っている、と言う確認は出来た。

「仕方がない···」

一応証拠にと、教卓の引き出しから実験に使う薬包紙に結晶を包んだ。それから、橘 ゆかりの霊力の存在を消すために、魔界の花を咲かせて花びらを流しにばら蒔いた。下手をすれば、霊力につられて妖怪の巣窟になりかねないやもしれない。花は水に濡らせば紙のように溶けていき、やがてそれは霊気ごと完全に透明になった。

彼女の霊気と言い、人を遠ざけて行動する事や、不思議な雰囲気に、もしかしたらオレと似たような境遇なんじゃないかとたまにおかしな事を考えてしまう時がある。

オレのような存在など、なかなか居ないだろうに。レアな体験に等しいだろう。
さぁ、どうやって彼女を呼び出そうか。彼女の為にも、二度と同じような事はしないようにと言わなければならない。だが、何故だろう。いざ呼び出しをしたら、嫌そうに表情を浮かべる彼女の姿が想像出来てしまい、からかいたくなってしまうのだった。
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