さて、誰もが忘れているであろう(私も色々あって忘れかけていた)「東堂くんの腰を砕く作戦」だが、ここだけの話かなり行き詰まっていた。

まず、思ってたよりネットに情報が乗ってない。キスの種類とか名前とかを紹介しているサイトはあっても、実践的なことが書いてないのだ。
それに、キスはキスでもディープな方となると、情報の閲覧に年齢制限的な問題だって出てくる。ぶっちゃけエロいことに対する恥じらいとかは無い(年頃の男兄弟を持つと自然とそうなる)けど、お姉さんから貰った大切なパソコンの履歴をエロで汚したくない。あと、一応入れておくと、18歳ではあるけど高校生なのでね。

というわけで、いつもなら心強いフレンズの電脳世界の力は得られなかったので、私は古典的なやり方で行くことにした。まぁ、実践的な方法はわからなかったけど、知識は入手した。あとはそれっぽい動きを身につけるだけ。

「あれ? 冷蔵庫にさくらんぼある。どうしたんだよこれ」
「さくらんぼ食べたくなったから買ってきただけ。明日のお弁当に入れるよ」
「へー。キスの練習でもすんの?(笑)」

勘のいいガキ(弟)は嫌いだよ。
そんなわけあるかバカと適当にいなしたが、まさか光も図星だとは思ってなかっただろう。
「さくらんぼのヘタを口の中で結べたらキスが上手い」……昔は意味不明だったこの俗説、今ならなんとなく分かる。つまりは舌を柔軟に使えという意味だ。
というわけでさくらんぼを買って練習してみたわけだけど、非常に難しい。途中から、何で私こんな思春期男子中学生みたいなことしてるんだろうという正気が邪魔をして真顔になったが、小顔の体操だと思って乗り切った。
そんな感じで、それなりに頑張ったが、結局一回も結べることはなかった。が、舌を細かく動かすという部分については身についたと思う。

というわけで──いよいよ実践だ!
見てろよ東堂くん……もう安易にやられたりはしないんだから!





さて、私はその好機をじっと伺っている。イン彼の自室。
時は放課後。須藤の一件以来、私は名誉図書委員の肩書きを剥奪され、もうカウンターに入り浸れなくなってしまった。そうなってしまえば、図書室で二人きりになれることもない。というわけで、最近はもっぱらこうして男子寮の彼の自室にお邪魔して、勉強をさせてもらっている。
二人とも苦手教科と得意教科が見事に反対なので、それぞれ教え合ったりしながら、基本的にはいつもとても真面目に受験勉強に勤しんでいる。浮ついた空気になることはほとんどない。

「……そろそろ休憩するか」

1時間ほどもくもくと勉強したところで、数学の参考書を開いていた東堂くんがそう切り出した。うん、と返事をして、私はくぅーーっと伸びをする。した、ところで、ピキーンと来た!
これ……今じゃないか? 作戦を決行するとしたら。座卓の向かい側で、お茶の入ったマイ湯のみに口を付けている東堂くんを、虎視眈々と見据える私。

「……冷めてしまったな。何か温かい飲み物でも買ってこよう。苗字さん、何がいい?」
「え、あ、うーん。じゃあココアにしようかな」
「わかった」

そう言って立ち上がった彼につられて、私も立ち上がる。東堂くんがそんな私に「オレだけでいいぞ、苗字さんは待っていてくれ」と言ってくれるけど、私は首を振って。

「東堂くん、ちょっと……こっち来て」
「? どうした?」
「いいから。……じゃあ、口開けて」
「……?」
「うん、もうちょい閉めて。……オッケーそのままで。で、ちょっと屈んで。あと目、閉じて」

頭の上にはてなマークを浮かべながらも、私の言われるがままにして、東堂くんはベストポジションに収まってくれた。……よし。
私は心の中で覚悟を決めると、東堂くんの肩にそっと手を置いて、唇めがけて突撃した。

「!」

まさか私の方からキスされるとは思ってなかったらしく、東堂くんの肩が驚いたようにわずかに跳ねた。
まずは重ねるだけのキスを一回、二回と繰り返す。リップクリームだろうか、東堂くんの唇からは突き抜けるような硬いメンソールの香りがした。ここでいきなり舌を入れるような無粋な真似はしない。キスに一番大事なのはムードだと、 ネットにおける伝説のナンパ師である南波照久男(なんぱ てくお)先生もおっしゃっていた。
ひと呼吸置いてから、ゆっくりと彼の口内に侵入する。歯列を舐めて、舌をその更に奥へ。意外と落ち着いてる、大丈夫。とにかく時間をかけること、力を抜いて優しく接すること、がっつかないこと。これが女をキスだけで骨抜きにするのに大事なポイントらしい。東堂くんもいつもそうだった。
そういえば、と私は思い出す。東堂くんとキスをするの、ものすごく久しぶりな気がする。最後にしたのは、えっと……。

と、そんな時、私は不意に身体を強張らせた。

「っ!?」

なぜかというと、それまで大人しく私の攻撃を受けていた東堂くんが──反撃してきたからだ!
口の中を舐っていた私の舌は捉えられてしまい、彼のと半強制的に絡ませられる。あれ、ちょっと待って、まだ私のターンは終わってない。むしろここからが彼の腰を砕く本番だったのに、

「ん、んんん……!」

あっという間に形勢逆転していて、一度深く呼吸をしたくて頭を引こうとしたら、逃がさないというように頭と腰に手が回った。薄く目を開けた東堂くんと視線がぶつかれば、その圧に怯んでしまう。今度は東堂くんの方から唇にかぶりつかれて、舌を食まれる。
しまった。苦しい。当たり前だけど、持久力だと彼のほうが上だ。なんとか食らいつこうとするけど、満足に息をさせてもらえないから、酸素が脳に行き渡らなくて、だんだんぼんやりしてくる脳内。でも、彼と触れ合っている部分の感覚だけは鋭敏で、上顎を舌でなぞられるとぞわぞわしたものが背筋を這って、目に涙が浮かんだ。
違う、こんなはずじゃ。これじゃまたいつもと同じ展開だ。腰が抜けて、そんな私を見て東堂くんが大丈夫か苗字さん、ってちょっと意地悪げに笑って、

──でも今日は、「いつもと同じ展開」にはならなかった。

がくんと力が抜けそうになった時、彼に強い力で抱き止められて、次の瞬間、私の視界は天井を写していた。膝に彼の手が回っていて、姫抱きにされていると分かる。でも、分かった途端、私の身体はベッドに下ろされていて。東堂くんがその上に覆い被さって、私の足の間に膝を入れて、肩はベットに押し付けられて、

「え……?」

何も状況についていけなかったけど、私を押し倒した東堂くんが、見たことのない、知らない男の人の顔をしていたから、私は息を飲んだ。逆光で、黒くなった顔面に、鋭い光を持つ目がギラギラとしていて。余裕がなさそうに、荒っぽく息を吐いていた。泣き顔を見たいと言ってきた時の彼ともまた少し違って。大好きな東堂くんのはずなのに、一瞬、一瞬だけすごく恐ろしく見えて、身体が強張った。

「苗字さん……っ!」
「え、っちょ、──ンンっ」

乞うような切迫した声で荒っぽく名前を呼ばれ、降ってきたのはキスの雨。ちょっと待ってと押し返そうとしても、逆に手首を補足されてしまって、シーツに指を縫い付けられられる。見方を変えれば恋人繋ぎのようだった。

組み敷かれて、押さえつけられながらするキスは、被征服感がすごくて、まるで食べられているみたいだった。いつもより切迫したような動きに、東堂くんが高揚していることがよくわかる。溢れそうになる唾液をごくんと飲み干した。どちらのものかは分からない。

「苗字さん……っ」
「…っ、ちょ、東堂く、待っ、──っ!?」

呼吸の合間、切れ切れにそう声をかけた時、身体がピクリと跳ねた。肩を抑えつけていた東堂くんのもう片方の手が、私の身体をまさぐるように動いている。いやらしい感じはなくて、何かを探し求めているみたいな性急な動きだったけど、それでもそれが意味するところは明らかで。

そんな時、私はようやく思い出したのだ。最後にキスをした日。あれは須藤の一件があった前の日で、場所は図書室だった。それから、あのおまじないを除いて、彼は私に一切キスをしなかった。
多分、ずっと、東堂くんは我慢していたんだ。だって、ここは図書室じゃない、彼の自室だ。彼を止められるものは何もない、そういうことをしようと思えばいくらでもできる環境で。だからこそ、彼は必要最低限の接触以外、なにもできなかったんだ。私のことを、私の身体を、誰よりも大事にしてくれる彼だから。
その一線を、今日私は自分から超えてしまった。すごくくだらない理由で。彼の自室でディープキスを自分から仕掛ける、その事の重大さと、キスをした「その後」について全く何も考えずに。

ばかだ、私。なんてばかなんだろう。そうだよね、そりゃそうなるよね。OKサインだと思っちゃうよね。止められなくなっちゃうよね。

彼の唇が首筋へ降りて、そこを吸い付かれると甘い痺れに全身が震えて、小さく声を上げてしまう。身をよじっても、太ももの間に挟まっているのは彼の足だったから、擦れる感触に、今の非現実的な状況をより思い知らされるだけで。
戸惑いと、恐怖と、じわじわと沸き立つような興奮と。色んな感情がないまぜになって、ぐちゃぐちゃになる胸中で、心臓だけが必死に何かを叫ぶように動いている。どうすればいいのかも、どうしたいのかも、何も分からなくて、ただただ縋るように彼の名前を呼んだ、その時だった。

東堂くんが私を見て、それから全ての動きを止めた。
悪い夢から覚めた人のように、愕然と私を見下ろしている。

「…………」
「…………」
「……東堂、くん……?」

瞬きをした瞬間、何かが頬を滑り落ちる感触がして、私は気がついた。慌てて顔に手をやると、濡れている。私は泣いていたのだ。しまっ、た。
頭上から、すまん、と消え入りそうに掠れた声が降ってくる。

「オレは……オレは、なんていうことを……」

のろのろと、緩慢な動きで彼は私の上から退くと、ベッドに腰かけた。そしてそのまま、深く項垂れてしまう。

「須藤のことがあったから……しばらくは接触を控えようと思っていたのに、オレは……! 最低だ、我を忘れて襲いかかったあげく、怖がらせてしまうなんて……!」

そう言う東堂くんの肩は、わなわなとかすかに震えている。相当ショックを受けているようだった。
そうか、東堂くんが私にキスをしなくなった理由。自分が我慢できないからじゃなくて、須藤の一件を考慮してくれていたからなんだ。須藤に襲われそうになった時のことがフラッシュバックしないようにって、私のことを考えていてくれたんだ。
私は飛び起きて、彼の背中に向かって「違うの!」と叫んだ。

「違うの東堂くん、私、別に怖かったとか嫌だったとかじゃなくて、ちょっとびっくりしちゃっただけで……! 最近何をしてもすぐに泣いちゃうから、この涙に深い意味なんて無いの。だからそんなに落ち込まないでほしいっていうか、元々私の方から襲ったわけだし、私が悪いっていうか……」
「…………」
「……そうだよ、東堂くん、続きしよっ?」
「……は?」

彼がこちらを振り返る。私はできるだけ笑顔で明るく、言葉を紡ぐ。

「さっきは気持ちの準備ができてなかったから、ちょっと焦っちゃったんだよね。お恥ずかしながらそういう経験なくてさ〜あはは……。でも、もう大丈夫だから! 続き、しよう!」
「いや……」
「あー……やっぱだめ、かな? もう萎えちゃった? そうだよね、泣いたりなんかして重いよね〜、ごめん! 萎えるよね、」
「やめろ」

静かな声が遮った。
東堂くんは怒ったような、傷ついたような顔をして私を見つめている。

「そういう……そういうとこだぞ」
「え……」
「頼むから、もっと自分を大事にしてくれ」
「………」

言葉の意味と、前に起こった出来事との関連性を測りかねて、瞬きを繰り返すだけの私に、彼は「苗字さん、いいか」と重々しい口ぶりで告げた。私はそれを、患者に重病を宣告する医師はきっとこんな感じなんだろうな、とどこかぼんやり聞いていた。

「前から思っていたが、キミは少々自棄なところがある」

じき。
時期。磁気。……自棄。
自分をかえりみないこと。やけを起こすこと。捨て鉢。

「須藤の一件の時にも伝えたはずだ。オレは苗字さんに傷ついて欲しくないのだと」
「う、うん……でも今日の件とは無関係じゃない? それ」
「無関係じゃない。一度は泣くほど怯えたのに、どうしてすぐに続きをしようだなんて言った? どうせ自責の念にかられているオレをフォローするためだろう?」
「それは……違うよ、だから、そもそも別に怖くて泣いたわけじゃなくて、」
「オレの前で嘘は通用しないぞ、苗字さん」
「……!」

冴え冴えとする彼の瞳の前で、私は黙り込んでしまう。そうなってしまえば、それはもう肯定と変わりはない。
東堂くんは、そうだな、と呟くと、「例えば」と口を開く。

「オレが苗字さんに、お願いだからヤらせてくれと頼み込んだら、苗字さんはヤらせてくれるだろう?」

東堂くんの口からヤるとかヤらないとかいう言葉が出てくるの、なんかすごい。FC会員の子が聞いたら卒倒しそう。
なんて思いながら、さして考えもせずに私は「うん」と頷く。と、東堂くんが間髪入れずに「それだ!!」と指を差してくる。

「もっと悩め! 何故そんなに即答なんだ!」
「そ、そんなこと言われても、相手が東堂くんだから、としか……。私だって東堂くん以外の誰に土下座されてもきっぱり断るよ」
「相手がオレだとしても、もっとあるだろう! 簡単に自分を差し出し過ぎだ! そういうところだぞ!」
「うーん……」

東堂くんの迷いない人差し指を見ながら、私は考える。確かに、私は無茶をする方だ。そして須藤の件でそれをとても反省した。彼を傷つけないこういう行動は控えようと思った。
でも、今回の件は、相手が東堂くんだから、なんだか怒られてることにピンとこない。東堂くんの期待に応えたいと思ってしまうのも、自棄なんだろうか。
ていうかぶっちゃけそんなに処女って大事かな? とか言ったらマジでキレられそうだけど。

「……決まりだな。今日の反省も込めて、オレは苗字さんが自分を大事にできるようになるまで、今後苗字さんへの接触を控える」
「えっ」
「苗字さんも、それを意識して行動するんだぞ。いいな! そうしないとオレと金輪際イチャイチャできんからな!」
「ちょちょちょ待ってよ!」

勝手に話を進められて、慌てて制止の言葉を挟みこむ。東堂くんはむすっとした顔で「なんだ」と聞き返した。

「そんな、急に言われても……。自分を大事にって、具体的にどうすればいいの?」
「簡単なことだ。なにか判断したり決断する時、自分を一番優先させる。そして、一人で何とかしようとせず、オレや友人にもっと頼る! それだけで随分変わるだろう」

………。
本当に簡単に言ってくれるよなぁ。私にとってそれがどれだけ難しいことなのか、分かってるくせに。

「ていうか、それ、東堂くんはいいわけ? なんていうか……身体、しんどくない?」
「オレはいくらでも我慢できる。それより、オレのことを心配するなら、早く自分を一番大事にできるようになってくれ」
「…………」
「返事は?」
「………はぁーい」
「はいは短く!」


……かくして、私の「東堂くんの腰を砕く作戦」は失敗に終わり、それに加え、なかなかスケールが大きい取り決めまで飲み込まされてしまうことになった。
作戦を立案した時は、まさか、こんなことになるなんて思ってなかったなー……。





その夜、私はベッドの中で今日の出来事を思い返していた。
襲うつもりはなかったけど、結果的に襲うことになってしまい、東堂くんに火をつけてしまったこと。押し倒されるところまで行って、泣いてしまったこと。……あそこで泣かなかったらどうなってたのかな、とも思うけど、東堂くんのことだし、きっとどこかで止まってただろう。
そのあと、打ちひしがれる彼を励ましたくて「続きをしよう」と声を掛けたら、自分をもっと大事にしろと切に頼まれたこと。そうできるようになるまで、彼からの接触はないということ。

「身体しんどくない?」と声をかけた時、東堂くん、「オレはいくらでも我慢できる」って即答だったな。
…………すごい。なかなか即答できることじゃなくない? その前のやり取りといい、私、大事にされてるんだな………。

私、変われるかなぁ…………。


その後、まどろみの中で、私はお姉さんに会った。
名前ちゃん久しぶり。久しぶりお姉さん、元気にしてた? ええ、おかげさまでとっても幸せよ。そっか、よかった。そんな会話を繰り広げた後、彼女は気遣わしげな眼差しを私に向けて、微笑んだ。

「……きっと。大丈夫よ」
「え?」
「あなたは変われるわ」

お姉さんはそう言って、だから大丈夫よ、と優しく繰り返す。
東堂くんとは違った方向で、この人の前では嘘がつけない。不安も迷いも、トマトを湯剥きする時みたいにつるんと、繊細な手ほどきで暴かれてしまうんだ。昔から。
私は女神様の前で悔い改める浮浪者のような気持ちになって、「でも私、怖いよ」と弱音を吐露する。

「本当にそれでいいのかな? 強い子じゃない私なんて、価値があるのかな?」

怖い。誰かに迷惑をかけてしまうこと。自分をさらけ出して、他人の優しさにすがること。弱くなって、大事な人を守れなくなってしまうこと。(だって、そうなってしまえば、私が存在している意味なんてない。
泣きそうになる私に、お姉さんは「名前ちゃん」と、子供に言い聞かせるような口ぶりで続けた。

「あなたが何であったって、私達はみんなあなたのことが大好きよ。あなたのことが大切なの」
「…………」
「あなたがあなたを守ることは、あなたの大事な人を守ることでもあるのよ」
「……うん……」
「自分を愛せるということは一つの強さよ。あなたは弱くなるんじゃないの。もっと強くなるのよ」

守られることを、愛されることを、恐れないで。
そうお姉さんは言う。

……そっか、そうだよね。私、もう東堂くんを傷つけたくない。あんな顔させたくない。私を誰よりも大事にしてくれる、優しい彼を守るためなら、私は自分を守れる気がする。それが、時に彼の行動を否定するようなことになっても。今までの私の生き方を変えることになっても。
お姉さんは、花弁が開くようにふわりと笑った。いい匂いがした。

「素敵な人と巡り会えたね、名前ちゃん」

ありがとう、お姉さん。


──ばちりと目が覚めた。
誰かの夢を見ていた気がするけど、思い出せない。
随分早い起床になってしまったので、朝ごはんを作る前に勉強しようと思い、洗面所へ向かった私はハッとする。頬に涙を流した跡があったからだ。
夢の内容は思い出せなかったけど、この涙には、なんとなく心当たりがある。

「ごめんね」

鏡の中の私に向かって、私は声をかける。
ごめんね。今までずっと、無視してきて。痛かったよね。怖かったよね。苦しかったよね。本当にごめん。
それから。

「今日から、大事にするからね」

きっと、変われる。

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