04
―――状況を整理しよう。
ここはボクの部屋だ。家具の配置も、この位置・この向きで寝た時にちょうど真正面に来る壁の染みも同じ。それは間違いない。
そしてこれは夢じゃない。夢に次いでまた夢を見ることはそこまで珍しいことでは無いし、あまりにもボクに都合がいいシチュエーションだから、一瞬『そういう夢』なのかもしれないとも考えたが、多分違う。何回か経験があるけど、『そういう夢』だったらもう少し進展した状況から始まる。……例えば名前さんが服を着てない、とか……。『そういう夢』は展開が進むのも早いので、こんな風に膠着状態が続くこともないだろう。
――まあ、それはいい。『そういう夢』を見ると翌朝の『処理』が大変だし、その日一日罪悪感で名前さんの顔をまともに見られなくなるからな……。
あとは単純に、感覚がリアルすぎる。腕で支えている彼女の重さとか、柔らかさとか……。だ、ダメだ、これについてあまり意識すると正常な思考ができなくなる。それも時間の問題な気もするが……とりあえず今は考察に戻ろう。
だとすると、これは一体どういう状況なんだろうか。ボクの部屋であるということはここは箱根学園の男子寮であり、名前さんが絶対にいるはずのない場所で……ましてやボクの腕の中で寝てるなんてもっとあり得ない。
…………いや、待てよ。
大事なことを忘れていた、ボクは風邪を引いて高熱を出し、寝込んでいたんだ。
そして―――
(眠る前の記憶が、全く無い………!!)
それに気が付いた時、ぞっと血の気が引いた。そうだ間違いない、ボクが高熱を出して意識がはっきりしてない間に何かあったんだ……!
――そういえば、先程の夢。何の脈絡もなくユキが出てきてた。名前さんとあまり接触がないはずのユキが。
寝る前に起こった出来事が強く影響してあの夢を見たんだとしたら、多分ここに名前さんがいることに、ユキは何らかの形で関わっている。いや、関わっているというか、ユキが彼女をここに連れてきたのか? そうだ、自力で来れるはずがないからな。では何のために? そこまでくれば結論は簡単に出せる、ボクを見舞いにきたんだ。そして、気を利かせたユキが部屋を出て行って……二人きりになって………。
―――二人きりになって、何が起こった?
何が起これば彼女がボクの腕の中で寝るなんて状況になる。
(ま、まさか………高熱で理性が飛んで、名前さんを…………!?)
一瞬その最悪の想像が頭を過り、ボクは小さく頭を振った。いや、そんなはずはない!! 名前さんもボクもちゃんと服を着てるし、乱れた様子もないし、そんな感覚も残ってないだろう。突飛な妄想に囚われるな、冷静になれ塔一郎……!!
と、その時。
「……んん………」
規則正しく可愛らしい寝息を立てていた彼女が、小さく呻いて身をよじったかと思うと、その目をうっすらと開けた。
「………あれ、塔一郎くん……?」
「!! ……う、うん……」
「起きたんだね……おはよう、塔一郎くん………」
「………ッ! お、おはよう………」
「体調どう………?」
「え、と……もうすっかり元気だよ……」
「そっか……良かった…………」
「………うん………」
「…ふふ。…………――――すう。」
「あっ………!」
(しまった、また寝た…………ッ!!!)
――完全に起こすタイミングだったのに馬鹿かボクは何してるんだ! いやでも、微睡んでる名前さんが尋常じゃなく可愛くて……! あんな、へにゃりと力の抜けた笑顔で「おはよう」だなんて言われたら、誰だって思考が停止してしまうはずだ。……しかし、いいな、すごくいい。毎朝こんな風に一緒に起きられたら、こんな風におはようと言い合えたら。どんなに幸せなんだろう……。
って、未来の妄想に耽ってる場合か。早いところ、彼女を起こさないと。
そう思って、そのあどけない寝顔に改めて目を落としたボクは、―――声をかけようとして開けた口を噤んだ。
(名前さん、疲れてるんだな………)
彼女はくうくうと熟睡している。ちょっとやそっとのことでは起きそうにない。正直、この状況でここまで無防備に眠られてしまうのもボクとしては複雑だけど、きっと彼女はそれほどまでに疲れていたんだろう。
そう、つい先日、彼女は県大会を無事乗り越えたばかりなのだ。通過点にすぎないよこんなの、まだ喜んでられない、なんてさらりと笑っていた姿が思い出される。だけど、ボクは知っている。3年生が抜けて新体制になってから迎える初めての大会で、彼女がどれだけのプレッシャーを抱えていたのかを。直接そう言われてはないけど、大会の一週間前あたりから、どこかピリピリとした緊張感を常に纏ってたから肌で分かった。多分、この感覚は何か競技をやってる者じゃないと伝わらないだろう。
彼女はまだ……ボクに、弱いところを曝してくれない。
彼女は強い人だ。弱さを人に見せず、いつも笑ってる。それはそれで美しい生き方だと思うし、彼女の魅力の一つだ。
だけどボクの前では弱音を吐いてほしい。ボクの前だけでは、取り繕うことを忘れてほしい。辛い時には辛いと言って、すがり付いて、時には泣いてほしい。
そうしてくれたら……ボクはあなたの望むようにしてあげる。思う存分優しくしてあげるし、たっぷり慰めてあげるし、もういいって言うまで甘やかしてあげる、尽くしてあげるから。だから弱いところを見せてほしい、頼ってほしい。そしてあなたのそういう部分を知っているのは……ボク一人だけでいい。
いつになれば、ボクは名前さんの一番脆くて柔い部分に触れられるんだろうか。それを許してもらえるんだろうか。
「………お疲れ様、名前さん」
小さく呟いて、起こさないようにそっと彼女の頭を撫でた。
―――でも、今はこれでいい。ここまで熟睡してくれるということは、ボクにある程度気を許してくれている証拠だ。今はそれで十分だ。これから時間をかけて、彼女の最深部まで、ボクという存在を浸透させていけばいい。じっくり、じわじわと、着実に。
だから……今はこのまま、もう少しだけ、眠らせてあげよう。休ませてあげよう。
彼女の寝顔を見てたいだけだろ、と言われたら、完全に否定はできないけど。でも本当にあともう少しだけにするから。それぐらい構わないだろう? アンディ・フランク。
……にしても、本当に可愛い寝顔だ。撫でていたら何だかたまらない気持ちになってきた。というかこの状況で変な気分になるなと言う方が無理がある。……どっちにしろ、あんまり長時間は寝かせてあげられそうにないな……。
「………ううーん………アンディさん……そんなに食べれませんって……むにゃ……」
(彼女は一体何の夢を見てるんだ……!?!?)
*
〜〜同時間帯、泉田自室前〜〜
(……遅ぇだろ………)
もう何回こうやって塔一郎の部屋の扉の前を往復しただろうか。ケータイを開いて時刻を確認すると、20時30分。あいつらを二人きりにして既に1時間半も経った。
――いやいや、ちょっと見舞いに時間かかりすぎだろ。どんだけ話が盛り上がってんだよ。塔一郎だってまだ全快したわけじゃねーんだぞ。苗字さん、居座りすぎだろ。それに音楽室だってそろそろ閉まる頃合なんじゃねーか? もう帰らないとやべェだろ……。なにやってんだよ。
(…………。いや、まさか、な)
ないない。ありえねーから。先程から妙に脳裏に浮かんでくる、あまりに荒唐無稽なその可能性を、オレは一笑に付してそのまま揉み消した。
ふう、ちょっと落ち着け? オレ。いやまァ深夜は勘弁しろとかハッスルすんなとか言ったけどもちろん冗談だったわけで。絶対起こり得ないと思ったからああいうことを言ったんだ。だってあの塔一郎と、苗字さんだぞ? 間違っても間違いは起きない組み合わせだろ?
………だが、そう頭で分かってるというのに、オレは部屋に踏み込む勇気が出ない。
ちなみに、二人のケータイにはもう何回か電話してる。が、揃いも揃って出やしねェ。自分の部屋から壁に張り付いて聞き耳立ててみたりもしたが、喋り声どころか物音ひとつ聞こえてこなかった。
そうしてまた、あーでもないこーでもないと意味のない自問自答を繰り返しながら、塔一郎の自室前を徘徊しようとした、その時。
「あれ、黒田。そんなところで何してんだ?」
ハッと顔を上げると、前方にはパワーバーを咥えた新開さんが立っていた。お疲れ様です、と挨拶すると、新開さんは片手を上げて応じてこちらに歩いてくる。
「新開さん、もしかして塔一郎に用ですか?」
「ああ、そうなるかな。もう少し正確に言うなら、泉田と苗字ちゃんに用があって」
「なるほど」
本命はそっち(苗字さん)だな。っかしこの人達も懲りねェな、何回塔一郎に怒られれば気が済むんだか。……つーか噂回るの早くね?
「中、入らないのか?」
「いや、それがですね……」
仕方なくオレが事情を話すと、新開さんは「ヒュウ!」と楽しげに口笛をふかした。
「それは間違いなく何かあるな」
「何かって、なんすか」
「そんなの『ナニか』だろ。泉田もなかなか隅に置けないな」
「………いやいや」
オレは失笑しながら首を振った。
「ありえないですよ、あいつらに限って」
「ありえない、なんてことはないさ。だって泉田、熱出してるんだろ? 熱にうかされて獣になっちゃってもおかしくない」
「そんなヤツじゃ……無いですよ」
……なんで今、塔一郎が告白する時に脱いだことを思い出したんだオレ。あの時とは全然状況違ぇし。うん。
「いくらなんでも熱出したからって無理矢理襲うようなクズじゃないですアイツは。新開さんだって分かるでしょ」
「確かにな。でも無理矢理じゃない可能性だってある」
「え?」
「苗字ちゃんがノリノリで応じたとか」
「……まさか。そんなキャラじゃないでしょう。すげー清純っぽいし」
「ああいう子のほうが意外と性知識豊富だったりするし実際エロい。っていうかそういうのすげえ興奮しないか?」
「いやそれアンタの願望ですよね!?」
新開さんは「はは、まぁな」と悪びれもなく笑う。正直、分からなくもないが……それを苗字さんで言う勇気がある新開さんすげぇな。怖いもの知らずかよ。オレは塔一郎が恐ろしくてそんなこと想像すらできない。
「……でも、やっぱり無いですよ。だってアイツ風邪引いて熱出して寝込んでるんすよ。いくら苗字さんが乗り気だって、そんな体調じゃ……ねェ。厳しいでしょう」
「それは程度にもよるだろ。あとは……そう、泉田が動けなくても苗字ちゃんが主導になって動けば全然いけるな」
「え」
苗字さんが……主導になって動く?
と、一瞬その光景を想像しそうになって、オレは慌てて脳内で再現されかけた映像を打ち消した。あっぶねぇ……!!
「な、なんてこと言うんですか新開さん!」
「お? 想像しちゃったか?」
「してないですよ!! つかそんなこと言ったの知られたら塔一郎に殺されますよ!?」
「オレもそう思う。黙っておいてくれよ」
「あのね……!」
と、オレが新開さんとの不毛な応酬にストレスを感じ始めた、その時。
「アァ? ンだてめーら、廊下でうるせェぞ」
「あ、荒北さん…!」
「おっ、靖友」
振り返ると、そこには首にタオルをかけた荒北さんが立っていた。多分風呂からの帰りだと思われる荒北さんは、怪訝そうな顔でオレ達に近づいてくる。
「なァにやってんだよこんなとこで」
「聞いてくれよ、靖友。お前の意見を知りたい」
そして新開さんは今までの事情を荒北さんに話し始めた。いやぁ、話が大きくなってきたな。これはあとで塔一郎に怒られそうだ……。
と、聞き終わった荒北さんは「ハン!」と馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「考えすぎだ、あの二人がそんなことするわけねェだろ」
――おっ。まさかのここで荒北さんと意見が同調するとは。
「やっぱりそう思いますよね」
「えー、何でだよ。もう付き合って5ヶ月以上経つんだぞ? 逆に何で泉田は我慢してるんだって思うよ。オレなら絶対無理だね、あんな可愛い彼女相手に」
「てめェの基準で考えてんじゃねーよ! あの泉田だぞ? あんな堅物真面目チャンがそんなほいほい簡単にヤれるわけねェだろ。おめーとは脳の構造が違ェんだよ、脳のォ!」
荒北さんは新開さんの頭をびっと指差す。そして新開さんが「ひどいな、男なんてみんなそんなもんだろ」とぼやくのを無視し、塔一郎の部屋のドアへと向き直り、忌々しそうに舌打ちすると。
「あーもーたりィな、こんなところでぐずぐずたむろってねェで入りゃいいんだよ入りゃ!」
「あっ!」
なんと、塔一郎の部屋のドアを勢い良く開けて、ずんずん中に入り始めた。マジかよ荒北さん、プライバシーへの配慮とかねーのかよ、…まァねーか。
「入んぞ泉田ァ! そろそろ苗字チャン…………を…………」
慌てて、オレも荒北さんに続いて塔一郎の部屋に入る。と、……あれ?
苗字さんは部屋のどこにもいない。
「あ、荒北さん……!? ユキ!? 新開さんまで……!!」
そして突然入ってきたオレ達を見て素っ頓狂な声を上げる塔一郎。さっきは真っ赤になってた顔が今は真っ青だ。すげーな信号機みてーだ、赤と青しかないやつな。この分じゃ熱は下がったらしいが………ん?
そして、オレはその時やっと苗字さんがどこにいるのか気が付き、愕然としたのだった。
「と、塔一郎……おまえ……」
「ヒュウ、やっぱり事後じゃないか」
「マジかよ……いや、邪魔したなァ」
「――ちっ、違うんです!! 変な勘違いをしないでください!! 違うんです!!」
「………んん………フランクさんまで……いくらチョコ味でもその量のプロテインは………むにゃ……」
*
それからの事の顛末は、簡潔にこのオレ、黒田雪成が語らせてもらおう。
あの後、塔一郎と目覚めた苗字さんから一連の騒動について聞き、二人がただ仲良くすやすや寝てただけと知って、オレ(と多分荒北さん)が心より安堵したのは言うまでもない。いや別にあいつらがヤることに文句はねぇよ。塔一郎に童貞卒業を先越されるのはちょっと不本意だけどな。でもそれをこのタイミングでやられたらショック大きいだろ。このタイミングでやるのもだいぶ頭おかしいだろ。本当に何もなくて良かったよ。
で、オレは苗字さんを音楽室まで送ってこうとしたわけだが。まァ塔一郎が「ボクが送ってく」って言い出してゴネるのなんの。もう熱も下がったから大丈夫だって、ンな訳ねーだろ。さすがに苗字さん本人に諭されたら引いてくれたが。で、何故か妙に必死に自分のジャージを着せたがってな。一瞬、オレが苗字さんにジャージ貸したのがバレたかと思ったが、そういうことでもないらしい。苗字さんには口止めしといたし、バレる訳がねーんだが、アレにはヒヤッとした。そしたら塔一郎のジャージを着た苗字さんが所謂彼シャツ…この場合彼ジャーだけど、要するにかなりあざとい格好になり、新開さんがぬけぬけと「苗字ちゃん、可愛いね」とか言うもんだから顔を赤らめた塔一郎が「見ないでください!」とか怒って、もーてんやわんや。オレ(や、多分荒北さん)はショージキかなりうんざりしていた。アイツ苗字さん絡みになるとホント面倒くせェよな。その苗字さんが、「まあまあ塔一郎くん」なんてアイツを鎮めて、そーしてやっと寮から抜け出した。
……んだけれども。なんと音楽室が閉まっててな。ま、9時前だったからそれもそうだよなと思った。寮暮らしが多い自転車競技部とは訳が違う。しょうがないから苗字さんはそのまま塔一郎のジャージを着て帰った。
……ここからは極秘事項。さすがに夜も遅いし一人で帰らせるのは危ねェなと思ったオレは、急いでロードを引っ張りだしてきて彼女を自宅まで送っていった。この判断は間違ってなかったと思うし、塔一郎だってそうしろって言うはずだ。でもオレはそれをアイツに秘密にしてる。理屈では分かっててもぜってー妬くと思うし、そうなったら面倒だと思ったからな。
そしてオレは、帰り際、自宅前で「黒田くんありがとう」と手を振ってくれた苗字さんの頬が林檎みたいに赤くなってるのを見て、どうしようもなく嫌な予感を覚えて………まァ次の日、それが当たっちまったわけだ。
「―――あれ、塔一郎ジャージどーしたんだよ。苗字さんに返してもらってねェのか?」
「彼女なら今日学校を欠席したよ」
「………え」
「高熱、だとさ」
「…………………」
その時の塔一郎の凍てついた横顔と、冷えきった無機質な口調に、オレは久々に虎の尾を踏むネズミの気分を味わった。
……これ、オレが悪いのか? いや、悪くねェよな。そうだろ? そういうことにしておいてほしい。そしてこれでこの話はおしまいだ。……とりあえずはな。
【泉田くんにお見舞いされる編】へつづく…
*
おまけ。
「―――そういえば、ユキ。熱を出している時になかなか興味深い夢を見てね。聞いてくれるかい?」
「ほう? (なんだ急に…)いいぜ、聞くよ」
「ありがとう。じゃあまず登場人物の紹介と行こう。ボクと、名前さんと、そして――キミだよ、ユキ。この3人しか出てこない」
「……(嫌な予感しかしねェ)」
「序盤のストーリーは割愛させてもらうとして……キミが名前さんに自分のジャージを貸すんだよ」
「……。いや割愛すんなよ、そこだけ話されても意味わかんねーよ」
「そうだろう。ボクも意味がわからなかったよ」
「…………」
「あまりに馬鹿馬鹿しいストーリーだから詳細は伏せるけど……ざっくり言うと、彼女は夢の中で危険な冒険に出ようとしていてね。そこにキミが現れて、そんな軽装備では旅は不可能だと言って自分のジャージを差し出すんだよ。どうだい? 概要を話したって意味わからないだろう?」
「…………」
「だけどね……ボクは何故かこれがただの夢だとは思えないんだ。というのも、その夢の中の名前さんの格好は昨晩と全く同じで、ブレザーを着ていなかったんだ。夢と現実がリンクしている」
「…………」
「格好がリンクしているなら、他にも夢と現実でリンクしているところがあるかもしれない。これは全くの推測だけど……例えばその危険な冒険というのが、男子寮に忍び込んだことを指しているとしたらどうだろう。昨晩名前さんを男子寮へと案内してきたのは……ユキ、キミだったよね」
「………だあーーーーっわかったよ白状すりゃいんだろ!? はいはいそうですよオレが苗字さんにジャージ貸したよだって寒そうだったししょうがねェだろ!!!」
「! ……やっぱりね。別にボクは怒ってないよ。寒そうにしている女性に上着を貸すなんて当たり前のことだし……逆に感謝したいぐらいだ」
「…………(嘘つけや……)」
「ただ……隠してたのがいただけないな。妬くと思ったのかい? そんなに心の狭い男じゃないよ、ボクは」
「……(顔がこえーんだよ顔が。お前の周囲だけブリザード吹いてんだよ)」
「―――で、ユキ。他にもボクに隠してること、ないよね?」
「………………………………」
結局黒田くんは洗いざらい白状しました。
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