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東堂くんに膝枕される


「膝枕をしてやろう!」

………と、彼氏に言われてから数秒。さて、ツッコみ所がわんさかあるこの発言にどう切り返したもんかと考えこんでから、私は口を開いた。

「えー…と。……何で?」

何故。WHY。一番大事な要素だ。まずはこれを聞くべきだよね。

「そりゃお前。安静にしてなくてはダメだろう、さっきあんなに派手にすっ転んだのだからな」
「まあそれって主に尽八くんのせいなんですけどね」

尽八くん、私の切り返しに「ウッ」と言葉に詰まる。さて何があったのかを説明すると、こうだ。体育の授業中、この私の彼氏である東堂尽八くんが投げたバレーボールが私の頭にクリーンヒットしました。同じ体育館でも男子と女子とじゃ距離がだいぶ離れているというのに、狙ったんじゃねーかと思うほどまあ見事に直撃しました。そして私はリアクション芸人も真っ青なぐらいに綺麗にすっ転び、念のためということで保健室に行けと体育館を追い出されました、with尽八。「オレも一緒についてきます!!」と言って、彼は半ば無理やりついてきました。

そしてそして、今私達がいるのは保健室では無く、屋上です。だってこんな絶好の機会逃がせられないでしょ。何の機会って? そりゃーサボりのですよ。例のごとく尽八は「ならん! ならんぞ名前、サボりは!」とかうるさかったけど、先程のボールをぶつけられた件を持ち出してやんわりと責めると何も言えなくなっていました。

以上、説明終わり。

「本当に……アレは、すまなかった……」
「あはは、もういいよ。いきなりぶつけられたから、死ぬほどビックリはしたけど、でもそこまで痛かったわけじゃないし。にしても、あんなところから当てるなんて、尽八私のこと好きすぎじゃない?」
「う……」

尽八くん、今度は顔を赤くして言葉に詰まってしまいましたね。はは、可愛いヤツめ。

「と、とにかく! 痛くないと言っても当たったのは頭なんだからな、お前は横になって安静にしてろ!」
「だから膝枕?」
「そうだ。屋上に他に枕替わりになるものはないだろう」
「えーと。普通膝枕って男がするもんじゃないと思うんですよ」
「ワッハッハ! この山神東堂に常識など当てはまらん!」

そうか、尽八って神様であって男じゃないからその辺は考える必要無いのか……ってそんなわけあるか。

「男の膝なんてやだよ。筋肉質で固そうだし。寝心地絶対良くないでしょ」
「そんなことはない。幾多の山によって鍛え上げられたオレのこの太ももの上質な筋肉……そう! オレの膝では森さえ眠る!」
「森? ……ああ、7組の森くん? えっ尽八森くんに膝枕してあげたことあったの」
「ちがーーーう!! その森ではない!! 馬鹿か!!」
「いやあなたね、膝の上で文字通りの森が眠るってそれ相当意味わかんないよ…」
「細かいところにツッコむんじゃない。お前のそーいう揚げ足を取るとこ、よくないぞ!」
「ええー……」
「ホラ、ここ!」

と、いうと、尽八は正座になり自分の膝をパンパンと叩いた。顔が真剣なところを見ると、どうやら冗談ではなく本気で言っているらしい。こうなった尽八は頑固でなかなか譲らないことを、もう付き合って長い私はよぉーく知っている。本気で言ってるのかぁ……。

「………大丈夫?」
「? 何がだ」

………やっぱわかってないな、この男。

「予言してあげよう。東堂くん、君はきっと数分も立たずに膝枕に耐えきれなくなる」
「どういうことだ? ……まあいい、ほら、早く寝なさいっ!」

お前は私のオカンか。と思いつつ、私はよっこらせと身体を倒して頭を尽八の膝の上に預けた。髪の毛をささっと整えて彼の顔を見上げると、逆光の中でも満足げな顔をしているのが分かる。言っていた通り、確かに彼の太ももは思っていたほど固くなくて寝心地はよかった。……まあ、このまま大人しく寝たりはしないんですけど。当然。

私は心の中でほくそ笑むと、行動を開始した。





「う、名前、その、だなぁ……」
「なぁにー、尽八……?」
「あんまり動くな……頭を移動するな……!」
「どーして? うぅん……いいポジションを探してるの……」
「くっ……、お前絶対わざとやってるだろ!」
「何の話かな?」
「〜〜〜っ、も、もう……く、くすぐったいから……」
「ギブアップしますか?」

片目をあげてニヤリとここぞとばかりに口角を上げて見せる。と、頬を朱く染めた尽八がぐぬぬ……と心底悔しげに頷いた。まあそりゃ、膝の上で寝返りうちまくったりすれば、そーなるよね。思う存分尽八の屈辱顔が堪能できて満足した私は、またよっこらせと呟いて起き上がった。

と、その時だった。後ろを振り返った私の視界に、尽八はいなくて。アレ? と思った瞬間、私のすぐ背後にある、飛び降り阻止のためのフェンスに乱暴に手がつかれた。ガァン、とフェンスが揺れる音。それは誰の手かって、当たり前だけど、尽八のもので。私を追い込んでこちらを見下ろす尽八の顔は、逆光のせいもあるかもだけど、なんだかすごーく怖くて。

「え、えーっと、尽八くん……?」
「こうなることが分かっていたのなら、当然責任も取ってくれるんだよな?」
「え、あ、ちょ、ちょっと」

彼の口が歪むのが見えて、その笑顔に「あ、これもう逃げられないやつだ」と、私は悟ってしまった。そして次の瞬間、私の唇は塞がれていた。激しいキスに酸素の供給が追い付かなくなって、思考はふわふわと地に足が着かなくなっていく。全く、いきなりボールをぶつけられるよりよっぽどこっちの方が心臓に悪いよなぁ、と、もはや抵抗を諦めた私はぼんやりとそう考えた。


【リクエスト:体育の授業中にハプニング→東堂くんに膝枕される】

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