いつから好きなのか聞かれてもわたしに答えることはできない。
ずっと好きだったから。気付いたときには好きだったから。
この気持ちは簡単に変えることなんてできない。


〜1〜


「ほら。なまえちゃんっているだろ、隣のクラスの」

「ああ」

「なんでもお前のことが好きらしい」

「・・・は?」


噂になった原因は、噂好きの新聞部部長に話してしまったからだった。
本当は話したくもなかったけれど、借りを返すために話すことになってしまったのだ。
ことは一時間ほど前に戻る。


「なまえちゃーん!今日こそは逃がさないよ」

「げ。さくらくん・・・!今日は見つからない自信あったのに」


高校三年生になって知り合った新聞部部長のさくらくんとは、ここ最近こうして追いかけっこのようなことをしている。というのもわたしがちょっとしたミス(彼曰く”ついうっかり”)をしてしまい、それを偶然さくらくんが見ていたのだ。新聞部部長の彼にとっては逃がしたくない新聞ネタらしいが、わたしにとってはとんだ恥さらしであるため、なんとか逃げようとしているわけである。
今回は校庭だ。逃げる場所は広い分、逃げる先も丸見えである。


「さくらくんてば本当しつこい・・・!」

「嬉しい褒め言葉だね。くひひ。って、なまえちゃん前見て!」

「え」


さくらくんの声に反応して前を向いたものの、視界は真っ暗である。


「おい」

「あああごめんなさい!」


どうやら誰かにぶつかっていたようで、咄嗟に身を引いた。


「あ、お前みょうじじゃん」


ぶつかった相手の隣に立つチャラそうな男子がわたしの名前を言う。ぶつかった男子は名前を聞くと鼻で笑った。


「ああ、お前がみょうじか。生徒会長のお気に入りっていう」

「違う。それは夜久さんの方で」


生徒会長のお気に入りと噂されているのはわたしではなく、一つ下の学年の夜久月子。通称マドンナとして知られる彼女には、あだ名の通りお姫様のようで騎士の役割をしている男子もいる。
けれど、そのせいか夜久は少し世間知らずなところもある。そのため、夜久月子の代わりとして名前が挙げられるのがわたしとなる。なぜわたしかというと、ここ星月学園には女子生徒が二人しかいないからだ。


「へえ。夜久さんね。じゃあ夜久さんに何かすれば生徒会長は機嫌が悪くなるってことか」

「ち、違う!」


ニヤリと意地の悪い瞳をした男子はわたしを見て、楽しそうにしている。もう一人の方はわたしの後ろを見ていた。


「じゃあお前に何かしたら生徒会長はどうなるんだ?」


生徒会長のお気に入りは表上わたしとなっている。けれど実際は夜久さんなのだ。それは知る人ぞ知る事実。
夜久さんを守るために表向けはわたしとなっている。わたしに何かあっても生徒会長やその周りがすぐ動くことができるからである。夜久さんにも騎士がいるけれど、以前騎士の男子たちは守ることができなかったから、わたしが代わりとなって名前が挙げられている。


「まあ、生徒会長さまが動く前に俺が動くけどね」

「やっぱお前、白銀だったか!」

<ガッ>


目の前にいた男子二人はその場に崩れ落ちた。
それを隣に立つさくらくんは無表情で見ていた。


「やっぱりさくらくんに気付いていたんだ」

「それより!助けたんだから借りは返さないとね。教えてよ、なまえちゃんの好きな人」


はあ、とついた溜め息は上機嫌なさくらくんには聞こえていなかったようだ。


20140107

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