足りない何か


何かが足りないんだ。

何かが、抜けている。
・・・それが何なのかがわからない。

足りない何か



「触るな!!」


彼女―蒼井ゆき―を拒絶した時、胸がきりっと痛くなった。

どうしてそんな思いを彼女にするのかわからない。
ただわかったのは、彼女と僕は以前にも会ったことがあると感じたこと。


「小さい頃、僕は土方さんと一人の男の子と3人で遊んだ。それが誰なのかわからない。
僕が体調を崩した時、代わりに1番組組長をやってくれた男の子がいた。それも誰なのかがわからない。

僕が死ぬ直前、誰かに頼みごとをした・・誰にしたのかわからない。

蒼井さんに言われて、その子の存在を思い出した。」


前世の記憶については話すことは初めてじゃない。
現に左之さんや平助とかとは何度も話したことがある。

新選組にいてよかった、とか

剣の稽古をまだ続けたい、とか


緋色大学に来てからは、ぽっかりと何かが抜けてる気がしてならなかった。

今まで知らなかった記憶も最近思い出してきた。
それは全部”ある少年”に関する記憶ばかり。

どれも僕の知らない男の子が出てくるんだ。
顔はぼんやりとしているし、誰もその子の名前を呼ばない。

このことを左之さんに聞いたけど、左之さんは知らなかった。
ただ一言、こう言ったんだ。


『まさか・・・本当に、蒼井があの時代にいたのか?』


「私、あと一つ言いたいことがあるから・・聞いてくれる?」


蒼井さんの怯えたような声が聞こえて僕は意識をはっきりとさせた。


「何。」

「前世の私からの伝言だから。」


彼女はそう言うと一度目を閉じた。


「『総司、
最後の約束聞けなくてごめん。名前を呼べなくてごめん。もっと早くに総司の異変に気付けばよかったよね。
それと総司には言ってないけど、僕は男装してたんだ。
何でも鋭い総司だし、昔からの馴染みだから気付いてたと思ってたんだけどね。

あと、最後に言い忘れたことがあるんだ。

”私”、


総司が好きだ。』」


言い表すなら、シャボン玉が弾けたみたいな感じ。

無くなっていたピースが埋まってパズルが完成した、そんな感じ。


「それとこれは今の私から。
前世で出会ったことがあったから、じゃなくて。

・・・純粋に沖田くんのことが好き。
好きっていうか、惹かれてる。」


僕は気付いたら彼女の手を握っていた。


2011/10/25






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