流れない涙


涙は出ない。

もしかしたら心の奥底で予想していたのかもしれない。


流れない涙



「平助も覚えていなかった。」


平助のところに行って、左之先輩に対して言ったのと同じことを話した。


『その呼び方・・なんか懐かしいんだけどなぁ。でも俺の中には新選組の奴等と鬼の奴等のことしか・・』

『”懐かしい”?』

『前さ、珠紀先輩にも言ったんだけどさ。なんか初めてな気がしないんだよな。
左之さんも言ってたけどよ。それと総司もそんな気がするとか言ってたし。』

『そっか。』

『あのさ、辛いかもしんないけど。総司にも会ってみたら?』


平助の言い方は左之先輩に比べれば優しいもので安心した。
けれど沖田くんに左之先輩と同じことを言われたら立ち直れない気がする。・・・いや、立ち直れないとかそんなレベルじゃないかもしれない。


「沖田に会うの?」


薫とは前に比べてよく話すようにもなったし、会うようにもなった。
それはやっぱり昔の記憶があるから、というのが一番の理由。


「まだわかんない。」

「でも、・・昔のゆきは沖田が好きだったんだろ?」

「みたいだねー。昔の私はそう言ってたし。でも私は考えられないや。私なら薫の方がいいと思うけどな。」

<ボト、>


薫と話していると鈍い音が聞こえた。まるで何かを落とした音。


「薫?」


それは薫が自分の荷物を落とした音だった。
落とした本人はというと、頬を微かに染めて私をじっと見ている。ついでにいうと、彼の瞳はゆらゆらと揺れている。


「そんなこと言うなよ。」


その台詞に私は少し胸がきゅ、と痛くなった。


「な、そんなことって・・」


自分の頬も赤くなっていく気がする。
思わず頬を手で押さえながら薫を見ると、彼は私の後ろを見て呟いた。


「沖田があそこにいる・・」

「え?」


後ろを振り向くと沖田くんが少し離れたところにいた。
彼は私達の方を見て立っていた。


「行って来たら?」


薫の言葉にはっとなり、私はなぜか急いで沖田くんの方へ歩きだした。

その後、薫が呟いた言葉なんてもちろん知らない。


「ずっと、好きだった・・でも、ゆきを幸せにできるのは沖田しかいないんだ。」


2011/10/23




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