HAPPYEDを迎えましょう
<ガラッ>
「葵ちゃん!」
葵ちゃんがいるであろう部屋の襖を思いっきり開けて中を覗くと、そこには静かに泣く葵ちゃんの姿があった。
「ど、どうしたの?」
涙を見られたくなかったんだろう。
彼女は急いで着物の袖で目元を拭うと早口でしゃべった。
「とりあえず初めまして。私は葵ゆうって言います。葵ちゃんと同じで現代からここに来たんだけど、私の場合はタイムトリップで・・」
自分の世界ではここはゲームの世界であることを話し終えると彼女は複雑そうな顔をした。
「大変・・なんだね?」
「あー、そうかな。それより葵ちゃんはこのまま現代に戻っていいの?やり残したことない?」
たぶん葵ちゃんの好きな人はこの時代の人だと思う。そして、この明治の時代にいるという選択をしないとHAPPYEDにならない人。
「誰か好きな人いる?」
私が投げかけた質問に彼女はびくっと肩を震わせた。
―――――
「・・・」
「とりあえずさっきの部屋に向かおうか」
一通り話し終え、私達は先程の部屋に戻ることにした。
しかし葵ちゃんって私の1つ下なんだよなぁ。あ、でもタイムスリップして時間を過ごしてるから・・
「18歳?」
「え?」
「確か12月生まれで、もう18歳なんだよね?」
「うん。最近なったばかりだけどね」
「同い年だねぇ」
「ゆうちゃんも18?1つ上くらいかと思った!」
(年上に見えた・・!?脱「年下」呼び?!)
――――
「私、元の世界に帰らない」
さっきの部屋に戻るなり、葵ちゃんはそう口にした。
「さっきも言ったけど、オレの剣が雷鳴を呼び、双葉葵が力を失った状態で鏡に触れればお前は来世に帰れる。それでもお前はここにいたいのか?」
神鳴さんは苦笑しているも瞳は冷たい。その瞳が少し沖田さんみたいだと私は思った。
「姫、」
神鳴さんの言葉に葵ちゃんが頷くと、鬼格さんが切羽詰まったような声を出した。それに葵ちゃんは鬼格さんを見つめる。
葵ちゃんは彼が好きだと言った。
『誰か好きな人いる?』
『好きな人・・いるよ』
『その人と一緒にいたいと思う?』
『思うよ!・・でも、帰った方がいいだなんて言われたら・・どうすればいいのかわかんないよ』
『葵ちゃんは自分の気持ちを正直に言った方がいいと思うよ。その人が好きだ、って。だから一緒にいたい、って。言わないと始まらないこともあると思う』
『・・・私、鬼格さんが好きなの。言ってみるね』
「本当にそれでいいのですか?・・・本当にここに残りたいと思うのですか?」
「うん。カクさんとずっといたい」
「ひ、め・・」
(あ。これで2人は幸せになれるかな?)
2人の世界が作られた瞬間神鳴さんは大きく息をはいた。
「お前がそう言うなら止めやしないよ。後悔なんてしないな?」
「しない。私の生きていく場所はここだから」
葵ちゃんがにこりと笑った。 その瞬間、砕けてしまっていた双葉葵が光りだした。
「どうなっているんだ?!」
「!ゆうちゃんの身体が・・」
「え?」
葵ちゃんのびっくりしたような言葉に応じて自分の身体を見ると、うっすらと光っている。目を凝らすとだんだんと身体が透け始めてきている。
「デジャウだ」
そう呟いたら周りの景色が一瞬で暗くなってしまった。
―――
「・・は?」
今度は周りが明るくなる。
すると目の前には一樹と変態さんがいた。
「おまっ、急に現れるなよ!」
「びっくりだねぇ・・」
「え?」
2人の話を聞くと、私は「とりっぷくん」を飲み終えた瞬間姿が消えたらしい。
で、今再び現れた・・らしい。
「あの薬飲むとここの世界から姿を消してトリップするってことか。・・ふーん」
「で、感想は?」
変人さん(やはりまだ呼び方未定)はいつの間にか手にペンを持って何やら色々書いている。 これはもしやインタビュー?
「またトリップしたいと思います」
「なるほどねぇ」
「また?!」
―文明開華葵座異聞録 編―終
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