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午前4時



朝早く一人誰かがゆっくり歩いている

現生徒会会長、不知火一樹だ

彼は早足で生徒会室に向かう

生徒会の前につくと、素早くドアを開ける

そうしてこう口を開く

「一体お前は何がやりたいんだ?」

「・・・・・」

相手は何も言わない。ただ生徒会長の言葉を黙って聞いている

「分かってるんだ。お前の正体だって。いい加減にしろ」

「・・・会長。じゃあ取引をしよう」

さっきまでずっと黙っていた相手が取引を申し込んできた

この声は、一樹も知っている声。もちろん月子も

「取引、か。内容によってだな」

「こっち側にこない?貴方の力が必要なんだ」

それまで表情を変えなかった一樹は相手の言葉で一気に青ざめる

それを見て相手はにこにこと笑っている

「それは・・・」

「本気だよ。早く決めてほしいな」

「・・・断る」

「本当にいいんだ」

「ああ」

「そっか。残念。会長ならもう少しわかってくれると思ったのに。でも貴方は絶対にこっちにくる。絶対に」

そう言って相手は去っていった。一樹は黙り込む














東月錫也は死んでない。あれはすべてフェイク

そして、『星月学園』の正体がどんどんわかっていく





















不気味な夢を見て、月子はまた目を覚ます

時計を見る。朝7時だ

熱も昨日ですっかり直り、いつものように体を動かす

あの不気味な夢はなんだったのだろうか。思い出すだけで吐き気がする

顔を洗い、いつでも外に出られるように支度する

ふと、机の上に飾っている写真に目がついた

羊が期間限定で星月学園にいたあの春の写真。自分も合わせ四人ともにこにこと笑っている

もうあの頃には戻れない。そう考えるだけで泣きたくなった

泣きそうなのを必死に堪え、この時間起きているかわからない幼馴染の哉太に電話をかける

誰かと話さないと、昨日までの自分に戻りそうで怖かった

だけど、哉太は出てくれない。まだ寝ているというのもあるのだろう

諦めて電話を切る。すると外から声がした

「――――・・・・い・・・・」

何を言っているかわからない。ただ自分を呼んでいるのははっきりとわかった

カーテンを開くと、そこには木ノ瀬梓と天羽翼がいた

「!!」

「おーい!月子ー!大丈夫かー!!?」

翼がそう自分に呼びかけている。心の中でこの二人は救世主だと感じた

急いで寮から出て、二人の下に向かう

月子が来るのを確認すると、翼は嬉しそうに月子にくっつき犬みたいにじゃれてきた

「おい翼、先輩が困っているじゃないか」

「ぬわーん、嫌だったかー?」

「ううん、逆に励まされた気分。翼君ありがとう」

「ぬはは、褒められたー!」

調子に乗っている翼に、梓は一つ拳骨を入れる。それに翼は頭を抱えてる

「すみません先輩。調子はいかがですか」

「大丈夫。心配かけてごめんなさい」

「いえいえ、先輩の顔少しでも見れて大満足ですよ。でも無理はしないでくださいね」

にっと笑う梓。それにつられて月子も笑顔を返す

急にふとあの夢を思い出した。人形・あの背中――――――――

「・・・っ!」

「月子?どうした?具合悪い?」

心配そうに顔を覗き込んでくる翼。「大丈夫」って言いたいのに、息が詰まって言葉が出ない

「先輩。やっぱりもう少し休んだほうが・・・」

「だい・・・じょ・・・うぶ・・・・」

「大丈夫そうじゃない!ほらここ座って、落ち着いて」

近くにあったベンチに座る。少し経ってさっきまで乱れていた呼吸も落ち着いている

「梓君。聞きたいことがあるんだけど・・・」

「なんでしょう」

「・・・日本人形とか持ってないよね?」

「日本人形?・・・うーん」

急にそんな質問をされて驚いたようだったが、それでも真剣に思い出そうとしている

翼も同然。どうしてそんな質問したか理解できないようだった

「翼・・・僕、日本人形とか持ってたっけ?」

「うーん、ちょっと待って。月子ー、それは梓の部屋にか?」

「いや、昔そういうの持ってたかなって聞きたくて。女の子の」

「女の子ですか。うーん・・・「あ!思い出した!!」

急な大声で梓と月子はびっくりする。翼は勝ち誇ったような感じで目をきらきらとさせている

「ほら!持ってはいなかったけど、お墓のところに人形置いてあったじゃないか」

「あー・・・あそこか。誰のお墓かわからないところにでしょ?」

「え、それってどういうこと?」

梓の言葉に引っかかった。『誰のお墓かわからない』という言葉に

「本当に気味が悪いところに置いてあるんですよ。そのお墓だけぽつんとね」

「名前とかも刻まれていないんだ。ここから5分くらいのところにあるけど行く?」

「うん」

あっさりと決めた月子に、梓はなんだか変な気分になった

急にどうしてあんなことを自分に聞いてきたのだろうか

そして、自分自身にも何かが起こると思った梓だった
















「確かこの辺・・・・あった!・・・けど人形がない?」

二人が言ったとおり、そこには誰のかもわからないお墓が一つだけ置いてあった

ただの石とでもいっていいくらい、何も書かれてない

「あれ?」

「どうした?」

「ごめん、ちょっと待ってて」

不思議そうな声をあげたと思うと、梓は二人を残しそのまま奥へ進んでいってしまった

その時翼はとっても嫌な予感がした。全身に寒気がする

梓を追いかけなくちゃ。そう思っても足が進まない

「翼君?」

「・・・・月子。梓を行かせちゃ駄目だ」

「え?」

「梓が死んじゃう・・・・!」

「!!?」

そんなことを言った翼に驚いた。それを言った本人もどうしてこんな言葉がでたのかわからなかった

やっとのことで足が動く。月子は翼を支える

「月子・・・」

「私も一緒に行くから。早く梓君追おう、ね?」

「うん・・・ありがとう」

梓が進んでいった方向に二人は進む。そして彼の名前を呼ぶが、出てくる気配はまったくない

「梓ー!」

翼が泣き出しそうな声で彼の名を呼んでいる。月子は心を痛めた

その時、木の陰から夢の中で出てきた人形がこちらを見て笑っていた

「っ!!!」

人形はけらけらと笑うとまた木に隠れた

月子は人形の後を追おうとし、木の後ろに回ったが――――――――――――

「きゃああああああああああああああああああ!!」

人形を捕まえるどころか悲鳴に変わった

驚いた翼は月子のほうに急いで向かう

「月子どうした――――――――」

そこにあったものを見た瞬間、翼は固まった
















木に寄りかかって倒れている自分の従兄弟

胸からは血が出ており、そして片目は刳り貫かれていた

そうして梓の近くに置いてあったあの不気味な日本人形も、顔がぐちゃぐちゃになっていた

「あずさああああああああああああああ――――――――――――!!」

どこまでもその絶叫は響く

月子と翼は泣いていた

そして木ノ瀬梓も血の涙を流していた























その様子を誰かがじっと見ていた

彼はふっと口に笑みを浮かべると消えた




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