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6、上田と下関B
「煙草、吸うんだね」
「…はい」
 ローソンは他のコンビニとは違い朝7時から夜10時までの営業。然らば確りと確保された時間帯に帰ることが出来るし、無理することも少ない。
 もこもこに着膨れた彼は、両手に廃棄の弁当の包みを持って寒さに鼻を赤く染め、囁いた。
「慣れたかな?」
「まあ、それなりに」
「大変でしょう。精神的にも、身体的にも」
「…」確かに、疲れはある。女性に囲まれ追い掛けられ、働いている以上逃げることは出来ない。―その心境を見透かすように、彼は苦笑した。
「下関くん。…逃げて良いんだよ」
「え」
「辛いことから、逃げてもいいんだよ。今ならまだ、りりちゃんと店長と僕でどうにか出来る」真っ直ぐに、彼が俺を見詰めていつも以上に真摯な瞳で紡ぐ。

「けれどもし、続けたいと思ってくれるのなら。辛いときは頼ってね」

 そうしてくれたら、僕は嬉しい。そう早口で言ってお疲れ様と去っていく。
 きっかり15秒、煙草の火を消して項垂れた。明日も、頑張ろう。


7、上田と亀山A
「近頃は。何か、変わったかな」
「そうですね」長い間、とても長い中。兎と彼(上田さん)と私(亀山)でずっと三人だけでこの店を営んできた。しかし新たに入った下関。それを指すのだろうと、思いつつの点検作業。最早慣れた作業に指は少しの会話で止まることは無く小銭を詰めていく。
「あちっ」その横で、おでんの補充をしながら彼が私の言葉を待ち、具をつゆに落として身じろいだ。
「…やるだろうと思ってタオル置いておきました。使って下さい」
「う、準備、いいね」
「まあ」一緒にやってきた分、貴方のことは分かっているつもりです。途中から言葉を飲み込んで。
「…下関サン」
 中々。踏み出さない彼の背中をそっと摩ってやる。若い私には、若輩者の私には。それしか出来ないだろうから。
「奴が来てから、女が煩くて敵いません。お陰でこそこそしなきゃならない。しかし、仕事面では評価出来ます。―此処には必要な、人材かと」

 兎の狙いは分かっている。
 上田さんの戸惑いは知っている。
 下関の、疲れも分かる。
 私は「今のところは、後ろから奴の頑張りを見せて貰おうかと」そう素直に紡げば彼は微笑んだ。
 私の性格。変わらないものに対する安堵のようなものだったのかもしれない。

***
下関と同じ職場、異性。集中する同性からの嫉妬や謗りを心配した上田と、特に気にしないりり。


8、世界の外:亀山
「店を辞めなさいよ」と罵倒。近頃の習慣となりつつあるそれに、嘲笑。しかしながら深く刻む眉間の皺に、上田さんは見たら苦笑、或いは泣き出すかもなあなんて。
「聞いてるの」聞いてるよ。―下手に反応したら調子付かせるので睨むだけ。眼鏡と前髪で覆い隠しているものをさらけ出せば、煌めく長い爪が頬を引っ掻いた。痛い。呆ける暇もなく、上田さんの顔が脳裏に浮かぶ。
 あ、やばい。これは心配される。
「…」てかこいつら馬鹿だ。
 下関が見ているのは一喜一憂するのは上田さんの言葉だけで反応だけで。
 亀山りりなんて、奴が見ているものか。

「辞めても良いけどさあ」

 不敵に笑う。イケメン狙いのお姉様方。私は貪欲だけど満足させてくれるのかな。
「十億、くれたらね」
 気付かぬまま精々足掻け。嫉妬に狂った単細胞生物め。
 あの二人は互いに気付いていないけれど、きっともうすぐ。優しい上田さんが傷付かないならば、こんな役割も悪くはない。

***
と綺麗に締めてもただではやられないのが亀山りり流。


9、兎と下関A
「うちのリリーがさ」
「はい」
「君の追っ掛けにびしびしーとやられちゃいまして」
「は」初耳ですが、言えば。―シフトわざと被らせてないの、と飄々と狡兎。
「リリーだからね。ただでやられた、わけじゃあない」
「でも」
「そのことについて特に、リリーは君に気にして欲しくないと思うよ」
「はあ」確かに気にすればキモッ、と言われるだけな気がする。
「まあ、だけど」

「上田さんには迷惑かけないように」

 目を、見開いた。
 兎はにやにやと笑うだけ。長い前髪の下、怠惰する。彼の城の内、《LOWSON》その意味は店長の兎を指し示す、人としては欠陥品の―息子。



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