1~5



1、上田と下関@
「下関と言います」
「…はあ」
「宜しくお願いします、上田さん」頭を下げると困ったように、くしゃりと彼は笑んだ。
「うん、あのね。僕は、りりちゃんと違って教えるのが、苦手なんだ。だから」
「はい」
「君、四大卒、でしょう?仕事出来そうだし勝手に仕事の仕方とか、盗んでってくれ、ないかな。それ、から」
「…」

「五秒以上、見詰めないで、欲しい。イケメンって、苦手、なんだ」

 そう言って彼は苦しそうに怯えた瞳で微笑んだ。宜しくね、と差し出された手はとても温かい。

***
上田(37)
下関(23)
先輩と新人。


2、亀山と下関@
「世の中上手くいかないこともあるのだと知りました」
「ほーですか」ふがふがと口いっぱいに餡まんを頬張る栗鼠のような亀山りりの姿。
「冷たいですね、亀山さん」
「はっ。自分こそ冷たい容貌してて何を言うか、と反撃するけど。減らず口を作業の効率UPに回してください」金の亡者は言い放ち、店内奥深くへ消えると箒と塵取りを持って戻ってきた。
「貴方の上手くいかないってのは」
「はい」
「上田さんでしょう?」
「…」その通り。

「上田さんは。貴方を嫌ってるわけじゃないよ下関サン。しかし好きでもない」

 私は因みに。まだ、貴方が好きかは分かりませんが。
 そう籠った険の鋭い一瞥を投げて、ジャージ姿の彼女は去る。「清掃作業」だそうで。


3、上田と亀山@
「上田さんって」
「うん」
「下関サンを避けてますよね」
「う、うん」
「嫌いなんですか?」
「あ…う、そんなことは無いよ…」
「イケメン病ですか」
「…うん」なんだかね、と彼は笑う。過去も傷も総てを覆い隠して、彼は秘密を背負って仕方無さそうに笑う。
 だから、情けない先輩に。私も黙って新作チョコレートを渡すのだ。
「奢りです」
「え、でも」
「黙って食べましょう」
「有り難う、」

「そうだ、上田さん。今度デートしましょうね」
 それでチャラで、言えば彼は照れたように笑った。


4、上田と下関A
「上田さん」
「は、う、うん」
「商品、詰めましょうか」
「いや、その」
「もう覚えましたし」見よう見まねで。悔しいから。
「うん、優秀だね。でも、そうじゃなくて」ね、と彼は深呼吸を一度。珍しく俺を見詰め、こう囁いた。

「そこから、動かないで欲しい」

 邪魔になるから。それだけ言って直ぐに目を逸らす。きっちり五秒以内。これの要因は、
「……」俺目当てに集まってくる女性客の群れ。
 取り敢えず伸ばされたいくつかの手を振り払った。カウンターより出れば仕切りも無くなって確かに、厄介だ。
 けれど少しだけ、彼の言葉がちくりと刺さった。

***
下関で女性客を釣ろう、―兎店長の策略。気の毒に思いながらもパニックが起こるためカウンターから出る許可を出せない上田。


5、兎と下関@
「下関といいます」
「採用」
「はい?」
「面白い反応するね下くん。もっと喜んだら良いじゃない」
「…」トントン拍子過ぎて怖い。
「疑り深いね。じゃあ、何故かって言うと―どうしようも無いことって世の中あってね」と言いながら経歴を舐めるように一瞥する兎。大学名の辺りでますます破顔し全開の笑顔。
「それは容姿、学歴、性格。特に容姿は努力しても天性のものには追っ付けない部分が多い」
 不快に思ってもいいよ、と狡兎。長すぎる前髪の隙間から鋭い瞳を覗かせて。

「俺は君を利用するから」

 採用ね、と決まったものに納得はしていたのに。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -