ヤカケ4



ごめんね、絞り出すよう彼が言う。そのオレンジ色の頭をそっと撫でて、九条六子はため息を吐いた。何を謝ることがあるだろうか。彼は何を悔いているのだろうか。帰ってから抱き締められたその腰、そろそろ痺れてきた足をそっと崩して彼を抱き締めたまま床に腰を下ろした。
頭を膝に乗せてあやすように撫でていれば、腹に顔を埋めて抱き締めた腕が震える。
「六子さん、」
「ん、」
「ただいま、」
「おかえり」
どうしたのか、言ってもらわないことには。お前ほど私は鋭くないぞと茶化す声音に嗚咽。何を、と思いながら髪を梳く。身体を売るの止めるんだと言った姿。
髪を切ってそう宣言した時にも結構な衝撃を受けたものだったけど、はて、と泣きじゃくる同い年の兄弟を抱き締めれば、ようやく、涙滲んだ顔が、私を見た。
「恋人が」
「ん?」
「恋人が、出来たんだ」
そうか、と言えば彼はキャラメルの甘い色に水を讃えて尚しゃくり上げる。
「ごめんね」
「なにが、」
「ごめんね、」
「どうして、」
「置いていきたくないよ、」
相手が出来るということは、彼は昔から踏み出したのだろう。茹だる暑さのあの季節から、お互いの愛する人が旅立った雪解けの春から。だから。ーー気付かれないように唇を噛んだ。大丈夫。
彼を見送る家族は、もう、私だけなのだから。
「大丈夫」
幼子のように泣く君へ。
「大丈夫、馬鹿だな湊は」
今まで有難う。
「私のことなんて気にするな。おめでとう」
そう確かに告げたのに、震えた音に鋭く彼は気付く。そして、眠ってしまうまで、謝罪は続いた。

「こちらこそ、ごめんなさい」

あなたの門出を笑顔で見送りたかった。

(バイの友人と九条六子)


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