ヤカケ2



「そう言えばお前は私を抱いたことはないな」
かつて同じクラスだっただけの、名字の同じ彼女が言う。九条六子。何の冗談だとぼろぼろの身体横たえて目を見張った。朝から酷い軽口だと笑いは漣のように迫る。
「なんで?」
聞き返せば軽い返事。
「あのコンビニの、」
「うん、」
「伊藤という」
「うん、」
「彼が慰められるように、恋をして、幼馴染みと寝ていた、と微かに聞いてな」
さらりとえげつないことをいうものだと彼女の顔色を窺ったけれど至って平生で、何処吹く風。九条六子。オレ好みの髪型で、服装で、全てを開花させた我が委員長様。その彼女が金糸揺らしてこちらを見る。
「お前はないな」
「抱いて欲しいの?」
「別に」
どこまで優しいんだか、と思ってな、そう告げる口調は柔らかい。ぎりぎりと後始末しきれなかった内臓が傷んで笑ってしまいそうだった。
「だって、六子さん、やだよ、オレ」
「うん、」
「あんたを抱くなんて、やだよ、オレ」
「うん」
「目の前にいても、あんたを傷付けたくないもの」
「そうか」
少し寂しそうに彼女は笑う。
「あんたは特別だよ六子さん」
「うん、」
「凄く特別だから、駄目なんだ」
心臓がどくどくと煩い。耳鳴りが轟轟と奥底で責め立てる。確かに目の前の彼女に手を出せば長く病むことは無かったと、誰かが言う。
でも、そんなことをしたくない、とも思う。いつかオレと同じように肉親に恋してたその涙。思い切り吐き出して、露出させた時に、傍に居たのはオレだったからこそ。
「分かった、もう眠れ」
ごめん、変なこと言って、と背中を合わせた義理の姉がいう。撫でられた手つきに離れない体温。
優しい手。擦り寄るように身体を丸めて、九条六子を、想う。何時だって仕事や、自らへの戒めでおっさんに抱かれて汚れた身体を、臆することなく触れてくれるのは彼女だけだったと甘える心地。はじめから、謗らなかった気高い貴女へ。ーー大好きです、声に出すことは無いけれど。
「湊、」
「ん、」
「おかえりなさい。有難う、帰って来てくれて」
そんなこと、わざわざ言う貴女が好きだ。「こちらこそ」むつこさん、そう紡ぐと眠気が一気に降りてきた。するる、と足を引かれて沈む。海の底、君の隣、ただ一人の、本当の家族。水面上の、本当の家族なんて比較にならない。
いつだって、隣を空けておいてくれると貴女へ。


(バイの友人と九条六子)


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