CIEL MAIL
▽ 調査開始 [2/20]
 翌日の朝。リコルとわたぐもは、とある空港を訪れました。
「すみませーん! 空宛の手紙はありませんかー!」
「はいはい。なんですか。朝から騒々しいわね」
 現れたのは、通称カモメ姉さん。リコルの地上でのお友達でもあります。彼女は、キャビンアテンダントの大人のお姉さんです。数年前、亡くなってしまった恋人と文通をしているのです。
「あら、雲居の玉梓のリコル」
 【雲居の玉梓】というのは、リコルの役職名みたいなものです。空の上から手紙を配達する使者ーーそんな意味があります。
「悪いわね。手紙を書くのは、もうやめたのよ」
「そんなー! どうしてー!」
「誰かが、こんなことを言ったのよ」
『神や、死んだ者たちに、手紙を書くのは、おかしなことだ。死んだ者は決して蘇らない』
 それを聞いたとき、カモメ姉さんは、お前になにが分かるんだと、怒ってしまいました。けれど、そのあとに、その者は、こんなことも言ったのです。
『そんなに会いたいのなら、この世から、消してあげましょうか。それが嫌なら、もうこのポストは使わないこと。空宛に手紙は書かないこと』
「そんなの、デタラメよ」
 リコルは、その言葉を信じることができませんでした。誰かを疑うなんて、リコルには初めての経験でした。わたぐもは、肩を落としているリコルに助け船を出そうと、カモメ姉さんに聞きました。
「そんなことを言う者は、いったい誰なのですか。この世から消せる、そんな力がある人間なんて……」
 カモメ姉さんは、答えました。
「それが、死神だと言うのよ。あんな子どもだというのに」
「どうして、その話を信じたのですか?」
「だって、私の彼が他界してしまったのを、あの子は知っていたのよ。彼と手紙のやりとりをしていたのも」
「そんな……」
「もう、あの人はこの世にいないの。それは紛れもない事実だってね。気付いてから、なんだか手紙を書くのも虚しくなってしまったの」
 カモメ姉さんは泣いていました。
「カモメ姉さん……元気出してね」

 空の世界に帰ったリコルは、泣いている女の子を見かけました。なんだか今日は、泣いている人をよく見かける日です。
「どうして、泣いているの?」
 リコルは、女の子に尋ねました。羽が生えた、天使のような女の子です。名は“アンジュ”と答えました。
「手紙を送ったのに、返してくれないの。死者のことなんて、忘れてしまったのよ」
 この世界では、空と地上で手紙のやりとりをするのは、普通のことでした。死んだ者たちは、また、空から地上へ生まれ変わるからです。死んでも、地上の人々に必要とされれば、何度でも蘇るのです。けれども、その手紙が返ってこないということは、彼女は、必要とされていない、ということなのでしょうか。
「それは、誤解しているよ。アンジュ」
「どういうこと?」
 アンジュは、首をかしげました。
「そうですよ。さっき、カモメさまが言ってた、あの死神のせいです!」
「そこまで言うのも、ひどいような……」
 リコルは、わたぐもの決めつけた言い方に、少し苦笑いしました。そう、リコルたちは、聞いたのです。地上の者から、手紙を送らなくなった理由をーー。
「手紙を書くのをやめろ、という死神がいるの。あなたは、その話を、どこかで聞いたことない?」
「初耳だわ。でも、空の神様、ウラノス様なら、何か知ってるかもしれない」
「ウラノスさまー! さすがです!」
 わたぐもは、目をキラキラと輝かせています。主であるウラノスの話となると、いつもこうです。
「うーん。そっか。じゃあ、とりあえず帰ろっか」
 リコルは、興奮するわたぐもを連れて、ウラノスの元へ帰りました。

「おや、そんなにあわてて、どうしたんだい?」
「ウラノス! 聞きたいことがあるの」
 リコルたちは、今までのことを、ウラノスに報告しました。そして、死神を名乗る者はいったい誰なのか、聞いてみました。
「あの子は、不幸しか知らない少年さ」
「不幸しか知らない?」
 リコルは、ウラノスの言葉に首を傾げました。そんな人なんて、本当にいるのだろうかと。
「その昔、あの子は人間だった。若くして、この世を去った。 でも、今は死神として、永遠に生きることになった。クルス・モノクローム。それが、彼の名前だよ」
「どうして、ウラノスは、それを知っているの?」
「それは、私が神様だからだよ。あの子はいつも、神様に祈りを捧げ、救いを求めてきたんだ」
「ふーん」
 なんだか、よくわからないなあとリコルは思いました。ウラノスが神様だというのなら、彼を救ってあげればいいのにと。
「まあ、詳しいことは、本人にでも聞いてみたらどうだい?  彼はよく、地上の墓場にいるんだ」
 空の神様は、まだ何か知っていそうです。どうやら、もう話してはくれなさそうです。
「リコルさま。行きましょう! そして、犯人を問い詰めるんです!」
 わたぐもは、何故だか探偵気取りです。最近ハマったとかいう、アニメの影響でしょうか。
「うーん。だからまだ、彼が悪いと決まったわけじゃないんだけどなあ」
 リコルとわたぐもは、空の世界をあとにし、地上の世界の、とある墓場まで出かけることにしました。死神の、少年に会いにーー。
「行ってらっしゃい。気を付けるんだよ、リコル。お前は幸福しか知らず、育ってしまった。彼の闇に耐えられるか、不安ではあるが……」
 ウラノスは、どこからか、2人(?)の動向を見守ることにしました。

調査開始

あとがき




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