CIEL MAIL
▽ 海峡の玉梓 [17/20]
マソに言われ、手紙を書き換え続けていたカナルは、自分の行動に果たして何の意味があるのかと、少しずつ疑問を感じ始めていました。そう思い立ったカナルは、海の神様、マソに話をすることにしました。
「どうしたというのじゃ。カナルよ」
「不幸の手紙を書き換えることに、何の意味があるのか、疑問に思ってな」
「ほう?」
マソは、珍しくカナルが自分の意志を伝えたことに驚きました。
「そんなことよりも、おれには、やりたいことができたんだ。おれは、物語を書きたいんだ」
「生前の記憶を取り戻したのか」
マソの言葉に、カナルは思わず首を傾げました。
「とぼけるな。物語を生み出す神になりたいと、生前、あの娘に、誓ったのだろう?」
カナルは、何を言ってるのかわからず、目の前が真っ白になりました。そのとき、カナルは、自分が今まで神になるためにマソに従い、不幸の手紙を送り続けていたことは、全て、無駄なことだったのだと、ようやく気付いたのですーー。

***

「おれは、物語をつくりだす、神になる」
これは、カナルの生前のお話。カナルは、リコルの幼馴染であり、クラスメイトでした。リコルの生前の名前は、都鳥莉子、カナルの生前の名前は、天海樹。莉子が、空の世界に行く前の出来事のことです。
樹は、小説家を目指していましたが、とうとう自分の応募した小説が受賞することになり、小説家デビューが決まったのです。そして、カナルは、真っ先にこのことをリコルに伝えようとしました。しかしーー。
「空の神様から、手紙が来たの! 空の世界に招待されたんだ!」
そう、楽しそうに話す莉子を見て、樹はつい、カーッとなってしまい、リコルを突き飛ばしてしまいました。樹は、そのとき自分のした行動を後悔し、次の日、学校で謝ろうと思っていました。ですが、それが叶うことはなくーー。
翌日。莉子が学校に来ることはありませんでした。来る日も来る日も、莉子はどこにもいません。そう、どこにもいないのです。学校では、樹以外で莉子の存在を知る者はいませんでした。みんな、莉子のことを、忘れてしまったのです。莉子は存在ごと、この世から消えてしまったのです。それは、まるで、神隠しのようでした。しかし、樹だけは、莉子のことを覚えていました。
「なぜ、おれだけが、覚えている?」
樹は、ふと、最後に会った莉子との会話を思い出しました。
『空の神様から、手紙が来たの! 空の世界に招待されたんだ!』
空の神様。もしかすると、本当に、莉子は空の世界に行ってしまったのかと、樹は思いました。
「バカバカしい。そんなこと、あるわけがない。だが、もしも、本当にそうなのだとしたら。おれは、友人を、大切な人を奪った、空の神を一生許せそうにない……!」
樹が、そう、力強く言い放ったあと、足音もなく、青髪の、小さなシルエットが現れました。
「そこのお前。そんなにも、大事な娘を連れ去った空の神が憎いか?」
「……誰?」
「わしはのう。海の神様マソじゃ。空の神とは古くからの知人でな。あやつには、ちょっとした借りがあるのじゃ。そして、勝負をしておる」
突然、海の神様を名乗る、マソの存在に、樹は、困惑しました。
「いったい何が言いたい」
「娘は今、空の神ウラノスの元にいる。娘を取り戻すには、神にならなければ、不可能であろう。そこでじゃ」
マソはくるっと後ろを振り返り、意味深な笑みを浮かべました。
「お主も、一度死に、海の世界に来い。さすれば、わしがお前に神となるチャンスをやろう。そうすれば、お主は、ウラノスから娘を奪還できる。そして、また、この世へと蘇ることができるであろう」
カナルは、マソの話を黙って聞いていました。いつもなら、そんなこと、あるわけがないと、落ち着いて返事をしたことでしょう。けれども、莉子がいない、この世界は、樹にとって、何の価値もないものだったのです。
「もう一度問う。お主、空の神が憎いか?」
「憎い。そんな話、とてもじゃないが信じられない。だが、もしも、そんな迷惑な神が存在するならば。おれは、そいつより力の強い神になって、あいつを、莉子を、この世界に引きづり戻してやる」
決まりじゃな、とマソは再び笑みを浮かべました。しかし、そんな樹の願いは、叶うことはありませんでした。一度、こちら側に来てしまったが最後、元の世界に戻れることはなく、新たに神に名付けられた、新しい名を、刻み続けなければならなかったのですーー。
「喜ぶがいい。そなたに名を授けよう。今日からお主の名は、海峡の玉梓、カナル・アーブルじゃ」


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