CIEL MAIL
▽ 浄化された手紙 [14/20]
「決着が、つくことなんて、ない。」
 地上へ行くリコルを見送った後、空の世界にひとり残ったウラノスは、ぽつりと呟きました。ウラノスが、幸福のために手紙を配達をしようと思ったのは、別に幸福だけの国にしたいとか、そういう意味ではありませんでした。
 この世界では、自らの不幸に嘆き、苦しむ人が大勢いる。そんな人たちを少しでも減らそうと、そして、そんな人たちにこそ、笑顔に、幸せになってほしい、救ってあげたい、そんなふうに思っていたのです。ウラノスの願いは、果たして、不幸だと感じている人間にとって、ただの余計なお世話だったのでしょうか。そんなふうに、延々と考え続けているウラノスの背後には、ピンク髪の、天使の少女が歩いてきました。
「ウラノス様」
 少女のか細い声が聞こえ、それが自分のことを呼んでいると気付くのに、ウラノスは何秒か、時間がかかりました。ウラノスが慌てて振り向くと、そこには、天使のアンジュが立っていたのです。
「あの子、わたしに、ひどい手紙を送ってきたんですよ」
 そう言って、アンジュは、その手紙をウラノスに差し出しました。手紙は、黒く、いかにも、という感じでした。その手紙を見ると、とある細工がされていることにウラノスは気が付きました。ですが、それは、力ある者でないと、気付くことができないほどに、高度な魔法のようなものが、その手紙には、かけられていました。
「この手紙には、海の神の呪いがかけられている」
 だから、こんなにも、黒いのだと、ウラノスは言います。ウラノスがその手紙を持つと、たちまち魔法陣が現れ、ウラノスは、何か、呪文のようなものを唱えました。すると、真っ黒に染まっていた手紙は、真っ白になり、それを見ていたアンジュは、ただ茫然とするだけで、目の前で何が起こったのかわからず、腰が引けてしまいました。
「ウラノス様、あなたはいったい、何をしたというの?」
 思わず、その場に座り込んでしまったアンジュは、ウラノスに言いました。
「なに、本来あるべき姿に戻っただけだよ。さあ、これが、君宛ての、本当の手紙だ。読むといい」
 ウラノスは、優しい笑みを浮かべ、アンジュに、真っ白になった手紙を差し出しました。ですが、アンジュは、なかなか頷こうとはしませんでした。
「嫌よ。もう、わたし、傷付きたくないもの。どうせ、私のことなんて、みんな嫌いなのよ。そんなの、聞かなくたって、わかっているわ。誰も、本当に思っていることを口にしないだけなの。嘘でも、いい言葉を使って、わたしを操ろうとしているのよ」
 アンジュは、とても被害妄想が激しい女の子でした。ちょっとのことで、びくびく怯え、すぐに泣き出してしまう。そんな彼女の前にいたのは、いつも、それを面白がる人たちと、それを傍観する人たち、可哀想にと偽善者ぶって、近づいてくる人たち。そんな人たちばかり。
「目の前の真実から目を逸らすな」
 ウラノスのその声は、優しさからくる厳しさでした。
「君のまわりには、本当にそのような人間しかいなかったのか? 死んでもなお、関係を切りたくない、大切に想う誰かがいたのではないのか」
 ウラノスはアンジュに語りかけました。
「いたわ。本当は、みんな、なんて嘘よ。私が、手紙でやりとりをしたいと想うのは、ひとりだけよ」
「君の大切に想う、そのひとりの子から、手紙が届いているんだ。その子を、君は、信じられないのか。自分から、その子を裏切ってしまうのか」
 それを聞いたアンジュは、ハッとし、立ち上がり、ウラノスから、その手紙を受けとったのです。
「別に、今すぐ見ろ、なんてことは言わない。君の心が決まったら、読んでみればいい。大丈夫。君は、悪い子じゃない。君を大切に想う誰かは、この世界のどこか、必ず存在しているんだ。そのことを、どうか忘れないで」
 そして、どうか幸せに。そう言い残したウラノスは、地上の世界のほうに降りてしまいました。残されたアンジュは、どうして、空の神様は、こんなにも優しさであふれているのか、自分はどうして、今、涙が止まらずにいるのか、不思議で仕方がありませんでした。
 手紙を読んでみると、そこには、”大好きな●●へ”と書かれた手紙が綴られてあり、わたしも大好きよ、と誰に答えるでもなく、心の中で呟きました。そして、早く手紙の続きを書かなくてはと、紙と万年筆を探し始めたのですーー。

浄化された手紙




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