海に行く
今日も、空は青く澄み渡っていました。あれから、手紙の書き換えは頻繁に起こっていて、しばらくは、手紙の配達をやめよう、とウラノスはリコルに話していました。
「この問題は、私がどうにかするから、お前は気にせず好きなことでもしていなさい」
ウラノスからそう言われて、今日は天気もいいので、地上の散歩でもしながら、リコルは考えごとをしていました。隣には、相棒のわたぐもも一緒です。ウラノスは、ああ言っていたけれども、本当に自分は何もしなくても、大丈夫なのだろうかと、不安な思いばかりが膨らんできます。
ウラノスの昔話を聞いた後、リコルは自分の他にも玉梓と呼ばれる存在がいることに驚きました。それも、不幸の手紙を送り続けているなんて……。どうして、今まで気付かなかったのでしょう。たぶん、ウラノスの力で、リコルには気付かれないようにしていたのかもしれません。
リコルは、海の神様と海峡の玉梓に会ってみたいと思いました。きっと仲良くなれば和解できると、リコルは信じていました。
けれども、ウラノスは、きっと反対するでしょう。ウラノスは、そういったリコルの考えはすぐにわかってしまうとは思いますが、リコルは、ウラノスには心配かけたくないと思い、黙っていようと思いました。
「リコルさま。本当に、いいのですか?」
わたぐもは、リコルを心配そうに眺めながら言いました。ウラノスに相談せずに、海の神様らがいるであろう海に行こうとする、リコルを引き留めようとしているのです。
「いいの、いいの。きみは、ぼくの相棒なんだから、黙ってついて来てくれればいいの」
何も心配することはないよ、大丈夫だから。リコルはわたぐもに笑いかけて言いました。その表情は、少しぎこちなく、わたぐもは、リコルが少し無理をしているように見えました。
「リコルさま。僕の前で、無理をすることはないのですよ。つらいならつらい、怖いなら怖いと、言ってください」
「ありがとう。わたぐも。でも、ぼくは大丈夫だから」
正直に言うと、敵対している人たちに会いにいくのは、ちょっと怖いです。それでも、自分が動かなければ、みんなが不幸になってしまうでしょう。それはなんとしてでも、リコルは防ぎたかったのです。雲居の玉梓としての宿命を負っているからでしょうか。いえ、違います。
「だって、みんなには、笑っていてほしいから。ぼくが運んできた手紙を読んで、喜んでくれる人の笑顔を見るのが、ぼくは大好きだから」
だから、みんなには、笑っていてほしいんだ。それが、リコルの偽りのない思いでした。
そんなふうに、リコルとわたぐもが会話をしながら、地上を歩き続けていると、遠くの方で、青い、大きな水たまりが見えてきました。海です。
「わあ! すごい! 大きいんだね」
リコルは、初めて見る海の景色に感動しました。
「空から、いつも眺めているじゃないですか」
わたぐもは、はしゃぐリコルに突っ込みを入れました。
「そうだけど、遠くから見るのと、近くで見るのとじゃ、全然違うんだよ」
リコルは、空からいつも海を眺めていました。青いじゅうたんのようなものが、世界中を覆っていて、それがとても美しく、眺めるのが大好きだったのです。ですが、今まで来る用事などはなく、ウラノスからも寄り道はしないようにと言われているため、今まで海に行くことは、我慢していたのです。リコルはずっと、空と同じように広がっている海に、憧れていたのかもしれないと思いました。
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