CIEL MAIL
▽ 神々の郵便ポスト [9/20]
リコルは、ウラノスの元に帰り、不幸の手紙について聞いてみることにしました。
「誰かが、手紙を書き換えているのかもしれないね」
ウラノスは、そう言いました。カモメ姉さんも、同じことを言っていたような気がします。
「やっぱりそうなの?」
リコルにはまだ、信じられない気持ちでいっぱいです。
「リコルさま、再び調査開始ですね!」
わたぐもは、また探偵ごっこをしたいようです。いつの間にか、頭には探偵帽を被り、手には虫眼鏡を持っています。
「お! わたぐもは、はりきっているようだよ」
ウラノスは、能天気にそう言いました。あまり気乗りしないリコルは、なんだかなあ……と思いつつも、不幸の手紙の謎について、解明することにしました。とは言ったものの。なんの手がかりもなしでは、探りようもありません。いきなり、大ピンチです。
「どうしよう。ウラノス、何か知らない?」
「少し、昔話をしようか。不幸の手紙しか送られてこなかった郵便ポストの話を」
 ウラノスは、空の神様でしたが、いつもひとりぼっちでした。神様は神様同士で、互いに干渉しあったりはしませんでした。だから、ウラノスは、地上の人間たちが羨ましかったのです。そうして、ウラノスは、人間たちをたびたび空の世界へ招き入れ、遊んでいました。あまり許されることでは、ないのかもしれません。
 ある日、ウラノスは、海に行きました。そこで、初めて自分と同じ神という存在に会ったのです。彼女は、海の神様でした。自分の他にも、神という存在が確かに存在していることに、ウラノスは驚きました。ですが、ふたりは空と海と、住む世界がまるで違っていたのです。そして、ふたりは、文通することにしました。会えなくても、とても幸せだと感じました。
 そして、ウラノスは考えました。人間たち、死者たちも、もしかしたら自分たちのように、会いたくても会えない、そんな連絡をとりたい誰かがいるのではないか。そう考えるようになったのです。

 そして、ウラノスは考えました。空と海ーー地上を結ぶ郵便ポストをつくろう、と。そこで、2人の神は、互いに郵便ポストをつくり、手紙を管理することにしたのです。
 しかし、空の神、ウラノスの白い郵便ポストには幸せな手紙が届くのに対し、海の神、マソの青い郵便ポストには不幸な手紙ばかりが届きました。マソは、ウラノスに嫉妬し、恋仲だった2人は絶縁状態になってしまったのです。マソは、誰も信じることができなくなってしまいました。
 青い郵便ポストは、次第に紺色になり、どんどん黒く染まっていきました。そして、真っ黒になってしまったその郵便ポストは、灰となり、消えてなくなってしまいました。
 ウラノスは、マソに何度も会いに行きましたが、マソがウラノスの前に顔を見せることは、ありませんでした。
「不幸の手紙を送る郵便ポストがなくなってしまった」
「じゃあ、あいつへの恨みはいったい、どこに向かえばいいんだ?」
「しかたがない、あの白い郵便ポストへ……」
「やめておいたほうがいいですよ」
「なんだ、お前は!?」
「神や死んだ者たちに、手紙を送るのは、おかしなことだ。死んだ者は、決して蘇らない。お前たちのことなんて、忘れているだろうさ」
「なんだと!? もういっぺん言ってみろ!」
「そんなに会いたいのなら、この世から消してあげましょうか。それが嫌なら、このポストには指一本触れるな。……汚れてしまうだろうがよぉ」
「なんだこいつ……。やばいやつなんじゃねえか? も、もういい! あんなやつのことなんて、どうでもいい、とっとと忘れてしまえ!」
「……ふん。それでいいんだよ、クズどもが。まあ、これ以上、汚れても汚れなくても、どのみちお前らは地獄行きだろうがな」

***

 そんなある日のこと。マソが珍しく、ウラノスの元へやってきたのです。
「幸福か、不幸か、どちらが勝るか、勝負をせぬか?」
突然のマソからの言葉に、ウラノスは首を傾げました。
「はて。久しぶりの再会という感動のシーンなのに、どうして君はいつもそうなんだ」
「はぐらかすでない! わらわは本気じゃ!」
「幸福であること以上の幸せがどこにある?」
「幸せなんていつかは必ず壊れるもの。そんな思いをするくらいならば、不幸であるほうが良かろう?」
「君のその考え方には、昔からイマイチ共感できないな。つまりは、幸せな者を僻んでいるだけなのではないか?」
「……お主には一生わからぬ。わらわの気持ちなどは、どうでもいいのじゃろう……」
マソの後半の言葉は、とてもか細い声でウラノスは聞き取ることができませんでした。
「何か言ったかい?」
「うるさいのう。何でもないのじゃ!」
「わかったよ。勝負なんてするまでもないと思うし意味もないとは思うが、それで君の気が済むなら可愛いおままごととでも、思っておくよ」
「ふ、ふん! 余裕ぶりおって! 絶対に後悔するぞ。覚悟するがよい。勝敗はいたって簡単じゃ。不幸の手紙か、幸福の手紙。より多くの手紙を配り人間たちの感情を支配した者が勝ちじゃ。手紙を配る、互いの“玉梓”は、人間からひとりだけ使者として使いに出すことができる」
「私が勝ったら?」
「不幸の手紙を配達するのをやめてやろう。その代わり、わらわが買った場合、お主にはわらわの下僕となり、人間である使者もまきぞいとなり不幸の国を作るのじゃ」
「わぁ。それはそれは。考えただけでもゾッとするね。私が君に負けるとは思わないが」
「わらわだって、お主になぞ、負けてたまるものか!」
こうして、ウラノスはマソからの勝負を引き受けることになったのです。幸福か、不幸か、どちらが勝るのか。ふたりは互いに地上に住まう人間から使者を選び、手紙を運ぶ使いを出そう。そういう話になり、ふたりの神は、その場を解散したのであった。
「ーーそうして、選ばれたのが、君なんだよ。リコル」
そこで、ウラノスの昔話は終わりました。

神々の郵便ポスト

あとがき








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