君と星とで奏でる愛の歌 | ナノ






 急遽入った仕事で、彼女との逢瀬の機会がなくなってから一週間が過ぎようとしていた。
 時差があり、せっかくの休憩や就寝までの合間に連絡を取ることは諦めざるを得なかった。前日にメールで調整できていれば問題はなかったのだろうが、どちらも都合がつく時間がなくメールのやり取りでさえ早くて半日、長ければ二日かかっていたりもした。
 メールを読み、それに返信することこそすれ、この一週間は電話をすることはなんとも難解な問題であるとさえ思っていた。そんなところに降って湧いた珍しくも昼日中の、いつもより長めの空き時間。この時間帯ならば、あちらも夕刻に入るか入らないかだろう。
 私の仕事は予定よりも早く終了したらしい。きっと日頃の行いゆえに違いない。「時間には戻るようにお願いします」と念を押して言われ了承の印しで頷く。
 時計代わりの携帯を開く。戻りの時間まではたっぷり三時間はある。
 アドレスから撫子の番号を呼び出し表示させるが、はたと今彼女がどのような時間帯で生活を送っているのだろうかと考えて手を止めてしまった。

「ふむ、もう少し後にするか」

 そうすれば撫子も丁度いい時間になるだろう、なるといい。考えながら、あまり遠くまで行くつもりはさらさらないが土産物でも探してみる事にする。
 こんなにも時間が空くことは珍しく、次の機会はないと思っていた方がいい。ここでやめてしまえばもう、次の機会は帰ってから会う時になるのだ。
 ゆっくり、マイペースに歩きだしながら視界に入る目新しい食材や道具に目移りしながら限られた時間を過ごすことにした。
 ここに着いた時点で好奇心は見るものすべてに反応していた。


……


 一段落、という区切りを自分で設けられるかは不安だったが、こと彼女に関してならば問題は特に起きないらしい。むしろ、そのことに頭が傾いて見物どころではなくなったというべきか。
 時間を確認してから一時間ほどが経つ。この一時間の間にもそわそわとしてしまい、 各々の店内に掛けられた時計に何度も何度も目がいった。
 連絡は取りたいが、彼女がどういう状況なのかを知るすべが思い付かずズルズルとしてしまう。
 いつもの私らしくない、と思っているとメールの着信を知らせる画面に変わる。


 ――――
 To:撫子
 Sub:Re:Re:お疲れ様
 ………
 おつかれさま、お仕事中ならごめんなさい。
 来週には帰ってくる予定だったわよね?それを確認したくて。
 電話ができればいいのだけれど……、なんて終夜もそう思っていてくれてるかしら?
 メールだけは何度も送っているから知っているとは思うけれど、私は元気よ。ちょっとレポートが多くて困ってるくらいかしら。
 終夜こそ何か偏ったものに依存していないか不安だわ。食べ物とか。
 ……話がそれちゃてるわね。用件は特にないの。本当に、ただメールしたくて。それだけだから。
 あと数日、頑張ってね。終夜ならうまくいくって信じてるから。
 また、メールします。

 撫子
 ――――

 メールを読んで間もなく、アドレスを開くよりも先に指が動く。
 登録してさえこの番号は指が覚えてしまった。
 その方がいくつものデータを開くよりも、早い気がしたから。

 番号を押し終えて、耳元に近づける。
 何度かのコールの後、もしもし、と聞きたかった声が鼓膜に届く。

「撫子、」
「終夜! ……今、大丈夫なの!?」

 少し驚きを含みつつも、不安そうな声が耳に響く。
 その反面嬉しそうに聞こえたのは、彼女もいつ連絡を取ろうか迷っていたからだと嬉しいのだが。

「ああ。今は休憩時間ゆえ問題はないだろう。そなたは? 今、電話にでていて大丈夫か?」
「私なら大丈夫よ……そう、なら良かった」

 安堵したように溜め息と言葉が漏れる。
 彼女は少々心配性なのだ。落ち着いて考えれば、私が仕事の合間に電話をするような輩ではないと分かるはずなのに。
 余裕さえもなくすほどに、考えてくれていたというなら話はまた違ってくるのだが。

「すまぬ。そなたを不安にさせてしまったな」
「いいえ、私こそ。考えてみたら、貴方はそんなことをする人ではないものね」

 クスクスと笑いながら、彼女は私が考えていた事を口にした。
 ほっとして緊張が緩む。やはり彼女の声に安堵しているのは私の方なのだ。

「撫子、早くそなたに会いたい」
「……! き、急にどうしたの?」
「なんだ? そなたは私に会いたくはないというのか?」
「そうは言ってないわ……そうじゃ、なくて」

 顔を見なくても、彼女が今頬を赤く染めているだろうことは予想がついた。
 ああできることなら今、彼女をそっとこの腕の中に閉じ込めてしまいたいのに。

「ふふふ、そなたは実に愛らしいな」

 例えば今、二人の距離は現実的に遠くとも、心や相手を想う気持ちはいつでも側にあるのだと、そんな些細なことから実感する。

「……好きよ……早く、終夜に会いたいわ」
「ああ、私もだ」

 目に見える距離よりもよっぽど、私と彼女の距離は近い。

 そなたが確かにここに居るのだと。
 目で確かめて、声を聴いて、そしてそなたが幸せであればいいと。


 常から願っている。


電話越しに愛を囁くカナリア




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