短編 | ナノ

馬と鹿


今日も今日とて特に何もなかった。並盛の街を歩きながら、その頂点に立つ彼女は満足そうに頷いていた。最近はやれ誘拐だ侵略だなんだと物騒なのにも関わらず、並盛の人間は大して恐怖することなく何事もなかったかのように日常生活を送っている。どんな神経の太さをしているのやらと隣の少女は笑いながら、その顔はなんだか嬉しそうだ。

月に照らされたその笑顔が少し眩しい。自分よりもひとまわり小さい少女は、自分と同じように大きく、そして大切なものを常に背負っているのだ。
しんどくならないか?と問えばキョトンと目を丸くする。背負うものを自覚していないだけなのか、はたまたそれを知った上でこなしているのだとすれば、大した器だと俺は思う。
町の頭とマフィアのボス、年は違えど立場は同じ。分かり合えるところもある。だからこそ、彼女に対しては恭弥よりも少し慎重にならざるを得なかった。初対面でそれをちひろに感づかれたのは失敗だった。多分無意識だったんだろうが、そういった嗅ぎ分けるところは誰に似たんだか…

最近は出会った頃に比べたら自分に対しての態度が随分柔らかくなったもんだと、成長を感じて胸が熱くなる。今までは笑顔どころか顔を合わせればすぐ武器やら拳やらが飛んでくる始末、その原因は年相応というか、可愛いもんだからついつい構ってしまうんだよな。


「だからと言って夜に出歩いた挙句、道に迷って僕を呼ぶなんていい度胸だね。血まみれにしてあげるよ」
「やめろ恭弥!このちひろが守ってきた平和な町をまた物騒にするつもりか?!」
「秩序と頂点はまた別物さ」『正直連れまわされて寒かった。』「オイ!!肉まん買ってやっただろうが!!オンを仇で返すな」『ウオォン(笑)』
「馬鹿馬鹿しい、じゃあね」
「おいコラ!待てって」

ウオォンと深夜の町に響いたのは恭弥のバイクの音か、それとも俺たちの嘆きか。
遠くなっていく弟子を追いかけながら、今の俺と彼女はただのダチだった。

「略してタダチだな」『は?』

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