でもちょっと本当は
「ねぇちひろ」
『あん?何だチキン』
ここは応接室。
入学式を明後日に控え、書類などの事務処理をこの学校の統治者は忙しくやっている最中。
ペンを忙しく走らせている彼に、私はいろんないたずらを仕掛けていたが、どうも面白い反応を示してはくれなかった。
ネタも尽きかけたのでちょっとお菓子でも食べよう。
そんな休憩中の私にむけて、思い出したかのように口を開いた。
「今日は何の日か、知っているかい?」
4月1日―――春休みも今日で終わり、明日からまたくそだるい学校生活という一日が始まる。
溜りに溜まった――そう、宿題デーだ。
『だが今回の私はいつもとは違う、担任に宿題を出さないよう直接交渉し、見事説得したからな!!ホームワークはナッシングなのさ!!』
ドヤ、と胸を張れば、彼はハァとため息をついた。
「無い胸を張ったって全然見えないよ。まったく無駄な事をしてるね。」
『灰になれ。』
ピシャリと言い返せばヒバリはペンを置いた。
「……僕は君に言いたいことがあって、ちひろを呼んだんだ。」
『いや、知ってるけど何か?』
呼ばれなきゃこの場所にはいねーよ。
おっと、呼ばれなくてもいつも暇なときはココに来てたか。メンゴリラ!!
はて、今日はなんの用だ?説教か?クッキーならやらんぞ、コレはママンの手作りだからな。命がけで守ってやる。
「僕は、」
そこで彼は言葉を切った。
何でだろう、その間が妙に寂しく感じる。心が、ザワザワと揺れていく。
心臓に草なんて生えてたら、ビビるけど。
「君が嫌いだよ」
『?!』
おっとォ、思いもよらない言葉。
予想外にもほどがある。
例えて言うなら…そうだな、ザワザワとしていた心の中のススキが、急に山火事によって激しく燃え始めた…そんなとこか。
「大嫌いだ。―――わかったかい?」
てめーなんざっ、と言いかけたが、すぐに私は言葉を飲み込んだ。
待て、4月1日と言えばなんだ?―――別名、エイプリルフール…
まさかとは思うが、奴が私を嫌いになることなんて今まで………ねェな。うん。多分無いとは思う…きっと。
そう解釈して、私は向き直る。世の中ポジティブが一番だからな!!
まあいい、それにしてもチキンにも程ってもんがあるんじゃないか?
こんな日にしか、素直に言葉を伝えることができないなんてな。
言い返さない私を不思議に思ったのか、ヒバリはムッとした顔でこちらを睨んできた。
しかし、全然怖くない。プークス!!
――――ああ、そういや
言い返してやろう。
『私も、てめーが大嫌いだ。』
―――私も、同じだったな。
チキンと、大差ないね。
机の上にあるママンお手製のクッキーをパキリ、と噛み砕いてヒバリの座る、高級そうな黒い革製のクルクルと回る椅子へと歩み寄る。
相変わらず抵抗しない彼の膝の上によじ登って、もふっと体をヒバリに預ければ、温かい体温を頬に感じた。
「ちひろなんか僕の目の前から消えてくれればいいのに。」
『テメーなんざお菓子の存在さえなきゃ私だって一緒にはいねぇよ』
―――ずっと僕の傍にいて
―――お菓子を持ってなくても、てめーとは一緒にいてやらァ
『大嫌いだからな!』
「死ねばいいよ」
―――大好きだから
―――――愛してるよ
「ああ、胸がないのはホントだから」
『やっぱりこのパターンか!!ちくしょう!!雰囲気の欠片もねェな!!!』
4月1日――エイプリルフール。
一日だけしか素直になれない―――これはそんな不器用な二人のお話――