045 黒曜編番外・五歳の小さな嫉妬心
拝啓 お師匠様
今日はお師匠様にそっくりなヒバリさんについてまた書きたいと思います。 ヒバリさんはフウキイインというお仕事をしていることは前に書いたと思います。
沢田さんがボロボロになって病院に入院したと聞いたので、私はビアンキさんやランボとお見舞いに行きました。
でも、その途中で売店にいるヒバリさんを偶然、見つけてしまったのです。顔には幾つもの傷がついていました。 恥ずかしくなるのを我慢して、私はそっとヒバリさんの後について行きました。
ヒバリさんはアイスを買っていました。
緑色と茶色いのを二つです。 それを手に取っているときのヒバリさんは、見たことのないような優しい顔をしていました。
私はほんのちょっとの好奇心で、ヒバリさんに見つからないようについて行ってしまいました。
沢田さんのお見舞いに行ったのは、その後です。
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ちひろは一向に目を覚まさない。 僕が起きた後も、ずっと。
時々、ニヤけたりうなされたりしているから大丈夫だとは思うが、やっぱり気になってしまう。
同じ病室に二つ仲良く並んでいる、ベット。
こんな状況にしておいて、変な気を起さない方がおかしい…とは言わない。 ちひろの事なんか別になんとも思っていない。
…いや、何とも思わないわけではないが変な気というものは無に等しい。
そんな事よりもこの小動物が愛しい、と思うような感情が僕の心の中には渦巻いている。 小さいながらも(主に身長)自分という肉食動物についてきた、その儚いながらも一段と光輝く存在。
……アイスでも買ってきてあげようかな。
自分が無理やり見回りをして来いと言ったばかりに巻きこんでしまった、黒曜での出来事。
僕は謝罪の言葉なんて言ったこともないし、彼女も直接的には何もしていないけれど。 ほんの少しのお詫びと感謝の気持ちを込めて――
ベットからヒバリが立ち上がったとき、後を引かれるような気持ちになって、もう一度寝ているちひろを振り返った。
ジクジクと胸の辺りが痛み出す。
それを振り切るかのように、ヒバリはその病室を後にした。
胸を針に貫かれたように鋭く、そしてかすかに残る痛み。
それが骸に折られたアバラ骨の痛みではないことに、彼が気づくのはまだもう少し先の話――
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