たった一人の君を探す旅

 035 しゅうげきって漢字は意外と使うけど書けない場合が多い




035 しゅうげきって漢字は意外と使うけど書けない場合が多い

ドゴッ!!バキッ!!ガッ!!

真っ暗な部屋に、錆び落ちたパイプや壊れかけのコンクリートの柱が散らばり埃が舞う中、その天井には場違いなほど美しい桜が咲き誇り、ヒラリヒラリと絶えず花びらが散っていく。
まるでその下で起こっている、一方的な暴力を覆い隠すかのように。

「おっと」

強い一撃を鳩尾に入れ地に伏せそうになったその顔を、無理やり上げさせるように彼の黒い黒髪を少年は掴んだ。

「なぜ桜に弱いことを知っているのか?って顔ですね」

言葉こそ敬語を使ってはいるものの、その手つきは優しさの微塵も感じられないような乱暴なものだった。

桜によって太陽光が反射し、その明りが一方的に攻撃を受けていた彼の顔を露わにさせる。
それは普段の彼からはとても想像ができないほど傷だらけで、いつものような返り血ではなく自分の傷口からその血は滲んでいた。

「さて、なぜでしょう」

彼―雲雀恭弥は自分をこんな風にした一人の少年に殺意に満ちた瞳を向けた。

「おや?もしかして桜さえなければと思っていますか?それは勘違いですよ。君レベルの男は何人も見てきたし、幾度も葬ってきた。」

スクッと立ち上がる少年からは怪我はおろか、何一つ塵さえ付いていない。

少年の名を――

「地獄のような場所でね」

――六道 骸。

「おや、誰ですかね…あれは」

ヒバリを殴ろうとしたその瞬間、骸の視界に人の姿が目に入った。
部屋の窓から見てとれる、一心不乱にこちらに向かって走る――それは。

「学ランにスカート…風紀委員、ではありませんね。腕章には風紀…!!いや、あれは“睡眠”の文字?!」

どうでもいいところに着目する、征服…ではなく制服コレクター骸。

目をよく凝らしてみると、確かに風紀委員の証とでもいえるリーゼントではない。

スカートを履いている女子の中、唯一学ランを着用する人間。
そして、ヒバリのよく知る人物。

「!!」

骸の言葉を聞いて、立ち上がろうとするヒバリだったが、桜クラ病にかかりあばら骨を数本折っているであろう彼は体に力が入らず、ガクリと膝をついてしまう。

「もしや、お仲間ですか?それとも…よほど大切な人物か」

「…黙れ。」

「クフフフ、まぁいいでしょう。先に君からです。」

では続けましょうかと骸は微笑み再び部屋の中を、耳を塞ぎたくなるような音が響いていった。


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