015 …やっぱりバカって最初に言われた奴が本当のバカ
ココは並盛町にある唯一の総合病院である“並盛中央病院” 真っ白な建物の中、同じく真っ白な壁と天井に囲まれ蛍光灯に照らし出された通路の中を同系色の服を身に着けた男女が慌ただしく行き来している。
そんな中で色が同調しているのにもかかわらず周りの人間より異彩を放ち、すれ違う人々から注目を集める人物がいた。
シャラシャラと棒の先端についている紙が擦れ、棒を肩に担ぐ姿。その音が廊下を歩くたびに響きわたり、他人の着ている服よりも異様に長い袖をパタパタとはためかせながら彼女はある部屋の前でピタリと止まる。
すぅ、とドアの前で息を大きく吸い込むと手に持っていたあの紙を何枚も重ねて作られたお祓いに使う棒に、思いっきり力を込めて―――ドアに、叩きつけた。
ベキベキィィィィィ、となんとも耳をふさぎたくなるような音が部屋中に伝い、当然木製のドアは真っ二つに折れ、吹っ飛んでいった。
そんな事ができる人間は、ここ並盛では数えるほどしかいない。 肩にもはや武器と呼べる代物を担ぎ直し、満足したようにニヤリと不敵に笑う人物。その名も――並盛ちひろ
『はろーヒバリン!!バカは風邪を引かないっていうのは嘘だったんだね!!…あり、何してんの?』 「バカなのはちひろの方でしょ。そのままそっくりそのセリフを君に返してあげようか、何してんの?何ドア壊してドヤ顔で立ってんのさ。」 『私はヒバリが呪われたんじゃないかなーと思って、お祓いに来ましたーわざわざ巫女姿で来てやったんだぜ。感謝しろよYOU』 「帰れ。」
どんなにきつい言葉を言われても私は負けない!!なぜなら彼の近くにある紙袋からは、プリンの匂いがするからな!! するとヒバリは持っていたトンファーをしまい、眉をひそめながらもプリンを出してくれた。流石ヒバリ、以心伝心だね!!
ひゃっふい、チョコプリンだ!!
「用が無いなら、さっさとプリンを食べて帰ってくれる」 『それはアレですか?私に自分の風邪をうつしたくない、という事を遠回しに言ってるんですか―?』
冗談でプリンを口に運びながら言えば、いつもの白いヒバリの顔にほんの少し赤みが差した。 マジでか、適当にいったのに。
「バカじゃないの?…ほら、アレだよ、その、僕にバカが移るから」 『なに言葉に詰まってんだよ。どうした、いつものポーカーフェイスは。これはキャラ崩壊への道まっしぐらですな!!』
何でもないような顔を気取ってはいるものの、動揺は全く隠しきれていない。 それがとても面白くて、新鮮だった。
例えれば、タコ焼きにされる直前まで、グニョグニョと足を動かしていた捕れたてピチピチの生ダコのように新鮮…
「やっぱりバカだね、君はここにいても何も問題はないよ。」 『だったらお祓いを折角だし受けてもらおうか、その為に私は来たんだからな!!』 「馬鹿にしたのに急に生意気になったね」
バッと勢いよく立ち上がり、手にしていた棒を思いっきりヒバリの頭上に振り下ろした。
ガキィィィィン!!
トンファーがすんでの所でそれを受け止める。彼の額には柄にもない冷や汗が伝っていた。
瞬間、棒の先端部分にあった紙のヒラヒラがポフッとヒバリの頭にかかる。
『はい終わりー。これが我が並盛家に伝わりし古の妖しの業!!その名を“ヒラヒラの紙に力を全力でグッと入れて、相手の頭にかぶせてみよう。悪いところが治るよ!!ただし、相手が死なないように気を付けてね☆”だ!!』 「なんで治療するのに死なないようにしなくちゃいけないの。ツッコみ所あり過ぎるんだけど。」 『使う相手が限られてるってことなんだろーね。よかったじゃん、死ななくて。』 「ほんとにね」
カチャッとトンファーをしまうヒバリを横目で見ながら私は彼のベッドへと潜り込んだ。 うん、病院くさいのは気になるけどフワフワしてて気持ちがいい。
「ちょっと、なに人のベッドで本格的に寝ようとしてるの?」 『いーじゃん、私とヒバリの仲だろ』 「この前の僕のセリフ、とらないでくれる」 『気にすんなよ、減るもんじゃあるまいし。ちょっと力みすぎて眠い。じゃーなヒバリ、アディオス』
そう言って、ふかふかのベッドに身をゆだねながら、私は意識を手放していった。
後日、ハルに呪われていると告げられた獄寺がなぜかヒバリの病室に入ってしまい、咬み殺されてその挙句、天井が崩れ落ちて瓦礫が降って寝ていた私も死にそうになっていたという話をハルのメールの報告で知ることになるのだった。起きなかったので!
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