125 明日やろうは馬鹿やろう
「タイムワープスタート!」 メガネがポチッとボタンを押した瞬間、視界は暗転する。 ヴンッという耳障りな音と浮遊感を味わった後、ハッと目を見開けば暖かい黒い布地の上。あっこれヒバリの膝の上か。ゴロンと首をひねって見上げればチキンの顔は思いの外すぐ近くだった。 あれ、なんかこれ見た事あんな……えっとアレだ、デジャヴ
『ここ10年後?』 「どこを基準に言ってるのか知らないけど、多分そう」 『オイ適当に答えてんじゃねーぞナメてんのか』
なんだ10年後って過去に帰るって言ってんだろうが! バシッと頭を叩けばされるがままのヒバリ。どうした、いつもなら避けるのに。 は〜んこれが絶対零度の力か…
「違うけど」 『うるせ〜!何度目だよこの気がついたら目の前にいる感じ』 「さあね…それよりも退いてくれる?そろそろ疲れたんだけど」
それじゃあしょうがねえや、としぶしぶ体を起こせば今度はチキンが横になり私の膝の上へと頭を載せる。あ〜重… ヒバリの顔へと視線を落とせば、うつらうつらと瞼を上げ下げしていた。彼にしては珍しい、何時もだったら目はガン開きもしくはしっかりと閉じつつ実は心の目は開けている的な…お昼寝に関しては極端な男なのに…
『もしやお疲れ?』
そう問いかければ何やらふにゃふにゃした聞き取れないような返事が返ってくる。オイオイガチ寝じゃねーの…
もふもふの黒髪に手を伸ばしてするりと撫でる。 縁側から入る夕日を浴びてじんわりと暖かい。もう一度、撫でつければその熱が掌に伝わって何やら溶けていくような、ホッとした気分になるのだった。
ふと投げ出された彼の指に光るボンゴレリングを見つけて、なんとなく指先で転がしながら遊んでみる。あのシンプルなデザインが随分ゴツくなったもんだ。ヒバリの少し長めの指にごついのはどうなんだろうと思ったけど意外と馴染んでいるのが不思議だった。てか周りの装飾ゴツすぎて引っ掻いたら痛そうだなオイ。 ボンゴ…ラ?読めんわ…イタリア語知らん…リングに飽きたのでヒバリの手でキツネを作って遊ぶ。これもダメだ。つまらん。ぜんぜん面白くない。
…やっぱり気分が乗らない。ほんとは考えるのは苦手なんだけど。 『そろそろ私も動かないとな』
ずっと先送りにしてきた壁は、もはや私一人の問題ではなくなってきたようだ。
…今日は疲れたし明日から本気だそう。そう、明日の私に乞うご期待!!よろしく!明日の私。頑張れ!明日の自分!! ヒバリを膝に乗せたまま、もう一度ごろりと畳に寝転がる。下の方で「動くんじゃなかったの」とかいうチキンの声がしたが知らんぷりだ。起きてんじゃねーか!
『おならするからな』「したら殺す」『冗談だってそんな怒んなよ』「今のは本気だったでしょ」
さすがわかってんじゃねーか、さすがヒバリ、略してさすチキ! 重なっていた手に指を絡める。ヒバリも応えるかのようにキュッと握り返してきた。
…腹をくくらなくては、ヒバリと手を取り合って一緒に未来へと進めない。
――未来編 Fin――
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