たった一人の君を探す旅

 124 どんなアホでも時間が経てば成長する




124 どんなアホでも時間が経てば成長する

ヒバリのアジトに戻れば畳の上のちゃぶ台にお菓子が人数分置いてあった。お茶を淹れてきますねとママンはキッチンかどこかへと消えていく。今日は怒涛の1日だったと腰を下ろせばヒバリはため息をついて向かいに座った。こいつさっきっからため息ついてばっかだな…は〜んわかった

『もしかして妖怪ため息チ「君があまりにも楽観的で不甲斐ないからさ」…麩がいないって…ぷっ!味噌汁じゃん』「そういうとこだよ」
“馬鹿か…”

チェルヴォに関してはゴミを見るような目で見てきた。こいつ…鹿のくせして…

『じゃあ聞くけど、テメー不甲斐ないって言葉知ってんのか?オイ』
“何年生きてきたと思ってるんだ、それくらい知らなくてどうする”
『言ったな??じゃあタピオカってなーんだ!』
“タピ………ウム、アレだ。あのほら…ギャバから取れる、別名黒い宝石”
『……チッ!やるじゃねーの』
「ほんとバカしかいないね」

えっ違うの?と振り返れば、呑気なヒバリはお菓子をつまんでいた。その手はなぜか私の皿へと伸びている。このチキチキ野郎!油断も隙もありゃしない。

「君が寝ている間僕は働いてたんだ、少しくらい貰ってもバチは当たらないと思うんだけど」
『ウソつけ炎カッスカスだったじゃん。全部ツナが終わらせたんだろ』
「…君、あの草食動物の呼び名を変えたかい」

会話をしていても最後の干菓子を持っていこうとするこの執念深さ、感服するぜ!!!だが許さねえ!
させるか、と目の前から消えていこうとする落雁の端をつまみ持っていかれまいとする私を、ヒバリはジッと見つめてきた。が、譲る気は無いようで私とヒバリのちょうど真ん中で落雁はピタリと止まる。

『そりゃそうでしょ、誰も何もできない状態で白蘭を倒したんじゃダメツナなんて言えないっしょ』
「ふうん…ちひろは結構彼のことを眼中にないのかと思ってたけど」
『見直してやったんだよ…なぜなら私は頭がいいので!』
「何か言ってるよ」
『人間を草食動物なんて言ってるヒバリの方がやばいと思う』
「別に本当のことでしょ、群れてる人間は皆草食動物さ」

チキンの群れるの定義はどっからどこまでなのかいまだにわからない。私と一緒にいるのは群れているのか、それとも風紀委員会があるのは群れているのか…あれ?もしかして並中にいる時点で学校生活の群れの中にいることに気づいてないんじゃないか…そうなるとヒバリはアホってことになるな

「まあ僕の方が強い」
『急に張り合い出すな、強かったら私のこの怪力を超えてみせるがいい、この落雁を食べてみせろ』
「ちひろ、ここが並盛だからって調子乗ってない?」
そりゃ乗るでしょ、なんせチェルヴォが言うには私は最強らしいので!

この落雁が私のものになるのも時間の問題…と考えていたらヒバリはお菓子を掴んでいない方の手で、私の手首をぐっと掴んだ。ちゃぶ台から身を乗り出し、あ、と口を開いたかと思えば。

『ちょ…オイ!ヒバリ!』

指ごと、彼の口の中へ。指先に感じる生温かさがぞわりと私の中を駆け巡った。なんだこれ。

堪らず指を引き抜こうとすれば、もう片方のヒバリの手はそれを許さなかった。ピクリともしない…こいつ…いつの間にこんな強く…

どろりと指と指の間にあった落雁が溶けていく。ヒバリの舌が割入ってきて、指の腹のまだ残っている砂糖の塊をべろりと舐めた。そのぬるりとした感触が妙にリアルなのが嫌だ。

『やめ…クソッチェルヴォ!!!!あっいねえ!!!』

自分じゃどうしようもなくて、横にいるはずのチェルヴォを呼ぶもその姿はない。ディリテの入った匣兵器も見当たらない。詰んだ。
ヒバリはずっと視線を外さなかった、見透かすような鋭い瞳が私を射抜く。その視線と、指先の刺激で耐えきれなくなった私はぎゅっと目を瞑った。

「ごちそうさま」

じゅっと軽く吸われヒバリは口を離した。
自由になった唾液まみれの右手を握りしめ、拳を彼の顔面に叩きつける。ひょいとかわされて、拳は畳に沈んだ。

『テメェ!!何しやがる!』
「顔真っ赤だけど』
「関係ねーだろ!このばか!!』

ママンがお茶を持って襖を開けるまで、この攻防は続いた。無表情でかわし続ける割には楽しそうで腹が立つ。ヒバリ野郎どこであんな事覚えてきやがった。

「副委員長、君の菓子。よかったよ」
『本当に最高だった傑作をありがとう』
「…!!!!恭さん!ちひろさん!お気をつけて!」

お茶を飲み追加の菓子を食べ、まだ食べたいと駄々をこねるも無駄だった。過去へ戻る機械へと連行されていく。首根っこを掴まれたまま引きずられているとママンが男泣きしながら頭を下げていた。その後ろにはチェルヴォとディリテが揃っている。そうか、過去には連れていけないんだよな。

バイバイと手を振ればディリテの寂しそうな声と、フンっと鼻を鳴らすチェルヴォ。いやあんたは過去にもいるだろ、と言いたいのをぐっとこらえてまたね、と言った。

そのうちまた会えそうな気がするし。

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