<6>


やがてメイキャッパー悪戦苦闘の末、鏡の中に出現したもの、それは...

なんだかなあ、これとおんなじものをどっかで見たような気がするんだが...
ハーネマンは薄れゆく意識の中、記憶の彼方にうっそうと茂る森で必死に手探りしていた。

...あそこで一緒に飲んでたのは確かロマンスとBJとアフメットで...ということは俺がまだハタチそこそこだった頃だ。あの時は悪酔いしたBJが頭からバケツの水をかぶせられて......

そう、思い出した。あれはカスバの飲み屋のステージでヒラヒラ踊ってたピンクのドレスの...

記憶の中を漂っていた不定形の像がやがて形を結んだ時、夢から覚めたハーネマンは憤然と椅子を蹴って立ち上がると、声を裏返らせながらわめいていた

「クソッ!なんだよこりゃ?畜生!これじゃまるきりモロッコで羽根扇子振ってたオカマじゃねえか!クソッ!テメーら俺をオモチャにしやがって...畜生!ナメやがって殺す!今すぐぶっ殺す――っ!」

一方、さしものターナーとオデッサも、メフィストフェレスを召還するはずが、うっかり古代オリエントの邪神を呼び出してしまった魔術師かくやといったおももちで、予想を遙かに超えて背徳的な姿を現した創造物を前に唖然としたまま。

だが、さすが年若くしてスタッフ・サージャントに昇進しただけのことはある。
すぐさま気を取り直したターナーが、悲惨きわまりないニュースの次に、NY株価急上昇を報道するCNNキャスターのごとき切り替えの速さで口を開いた。

目を血走らせ拳をわななかせる強面男を前に、花のかんばせでにっこり微笑んだターナーは、しごく平然とした様子で言い放ったのだ。

「まぁ!びっくりしちゃったわミッヒ、アナタ思ったよりずっと化粧映えするタイプだったのね!」

えっ?......化粧映え?
表情を強ばらせて仁王立ちしたままのハーネマンの、勢いが急に弱まった。

化粧映えって...意味がさっぱり分かんねえ。この化粧はアリってことなのか?女の世界では。

同時に、真っ赤な口紅を塗りたくったまま、うら若き女性に怒鳴り散らしたのがさすがに恥ずかしくなったのだろうか。
ドスンと椅子に腰を下ろすと、「...け、化粧映えって言うのか?これ」とうなった。

だがそこへ柄にもなくお世辞を言おうとしたオデッサ、ターナーがせっかく埋め戻した墓穴を掘り返す。

「ええ...本当に似合う。ラスベガスのニューハーフショーでも立派にやって行けるわよ、お世辞抜きで」

と、途端に青筋が戻ってきたハーネマンのこめかみ。

「畜生!クソ女ども!テメーらやっぱり俺をコケにしたかっただけかよ!落とせ!撃ち殺されたくなかったらこのバケモノみてえな化粧を落とせ!すぐ!今すぐにだーっ!」

「...わ、分かったからそんなにキーキーわめかないで」
「まったく騒々しい人ね、すぐに準備するから5分お待ちなさい」

猛り狂う男をなだめすかした女性陣、素早く洗面所に撤退するや、ひそひそ声で相談を始めた。

<7>につづく


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