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「さあ、それでは順次伺っていくことにしましょう」
相手と向かい合う形で腰を下ろすと、事務的な口調でターナーは言った。
その口元には人当たりのいい笑みが浮かんでいるものの、マリンブルーの瞳の底には、米陸軍尋問学校で専門教育を受けた尋問官にふさわしい、なんともいえず不気味な迫力が潜んでいる。
「あ、リラックスしていいから。
さて、まずはそのラッキーな人とアナタとの関係は?家族?お友達?それとも恋人?少なくとも相当に大事な人なんだとは推測できるけど」
警戒心たっぷりの表情を浮かべつつ、必死であたりさわりのない言葉を探していたらしい相手は、やがて不自然なほど慎重に口を開いた。
「...強いて言うなら親しい友人」
その回答に、ターナーとオデッサのシックスセンスが一気に花開いた。
二人はポーカーフェイスを崩さないよう、必死で奥歯を噛みしめながら考える。
匂う、プンプン匂う。この警戒っぷり、ただごとじゃない。
この様子からすると、問題の相手は単なる「友人」以上の存在に違いない!
「なるほど、『親しい友人』ね。ふむふむ、了解」
好奇心のハリケーンが暴れ回る心の中を気取られぬよう、限りない平静を装いながらターナーは言った。
「それから年齢なんだけど、今度のバースデーでいくつ?」
「ね、年齢?とし?あー、ちょっと自信ないんだが...その、確か...24才だったかと...ははっ...ひゃははっ...」
言い訳がましい笑顔を浮かべようとしたらしいが、その企ては見事に失敗している。
「あらまぁーっ!そんなに年下なのっ?うっわー!意外っ!」
一方、プロの尋問官はどこへやら、 ふたつめの情報を引き出した時点ですでに歓喜の叫びをあげてしまったターナーの、後をオデッサが冷静に引き継いだ。
「...コホン...ではタイプ的にはインテリオタク系?それともアウトドア肉体派?」
「まぁ...アウトドア派かな」
「じゃ趣味はスポーツなのかしら」
「あ、ああ...スケボーやスキーがどうとか言ってたような気がする」
「ふぅーん、アナタのお友達にしてはずいぶん普通っぽいコなのね。で、お仕事は?」
その瞬間、一気に強ばったハーネマンの表情。
「はぁあ?なんだよ、そこまで言わなきゃならんのか?ケッ、アホくさ。やっぱもうヤメだヤメ。じゃ俺はこれで失敬。悪かったな、貴重な時間をとらせて。あとはどうぞバウムクーヘンを楽しんでくれ...ちょ...ちょ、やめろ!離せ!引っぱるなって!伸びる!シャツが伸びちまう!」
腹を立てて椅子から腰を浮かせたはいいものの、またしてもアメリカハクトウワシとヨーロッパオオワシの鋭いかぎ爪でシャツを掴まれ、ドスンと椅子に引き戻された。
<4>につづく
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