<1>

ロメオ・クーパーはいつにも増してほがらかだった。

からし色の毛糸でざっくり編んだセーターに、ちょっとくたびれて色が褪せかけたブルージーンズ、胸に抱えるのは全米小売業ナンバーワン・ウォルマートの紙袋。

そんなカジュアルないでたちで、ビートルズのハード・デイズ・ナイトをハミングしながら渡り廊下を行く姿は、どこから見ても休日になるとセントラルパークで愛犬とフリスビーを楽しんでいそうな若者である。

もしも訓練生が今の彼を目にしたならば、寒冷地訓練用のジャンプスーツに身を包み、セルバから尊大に自分たちを見下ろすクーパー教官…
ひよっこどもにとっては格別に近寄り難い存在である、あの天才的タンク乗りと目の前の脳天気そうな男が同一人物だとは、にわかには信じられないに違いない。

そんなクーパー、やがて官舎のドアの一つの前で足を止め、なにやら紙袋をごそごそやっている。
そして「よしっ、割れてない」と呟くとひとつ小さな咳払いをしたと思ったら、コンコンコン......とせわしないリズムでドアをノックした。


すると数分の沈黙の後、ドアから眠そうな目をこすりながら現れたのは......

色白という点においてはミロのビーナスをも嫉妬させそうな美しさ。
だがそれ以外の点においては、マダム・タッソーの蝋人形館でモンスター像と並べて展示されたとしても、ちっとも違和感がなさそうな容貌の男…
ミッヒ・ハーネマン。

寝起きのドイツ男は、自分より一回り背の高い若造を不機嫌極まりない顔で見上げると、爽やかな目覚めの挨拶を一言。

「このろくでなしの糞ライミー野郎、俺の睡眠の邪魔しやがって。
ショットガンで便所に脳味噌ぶちまけたろか」

けれどクーパーはびくともしない。
そんな台詞も気まぐれな恋人の愛情表現とでも言いたげに、満面に笑みをたたえたままスカイブルーの瞳を輝かせた。

「ヤッホー!今日は11月第3木曜だぜミッヒ!」


だが、11月の第3木曜日がなんであるかなんて、全くもって心当たりのないハーネマン。
相変わらず苦虫を噛みつぶしたような表情で、頬をぼりぼり掻きながら毒づいた。

「......それがどうした、クズ」
「あらら、今日が何の日なのか知らないの?」
「ああ知ってるさ。お前の命日だ」

するとクーパー、さも嬉しそうに紙袋からルビー色の液体に満たされたセクシーなボトルを取り出すと、眉間に深いシワを寄せた男の前にかざして見せた。

「じゃーん!本日はボジョレ・ヌーヴォー解禁日!」
「......アホが......いっぺん死んどけや」

そう言うや否や勢いを付けて、ドアを思い切り閉めようとしたハーネマン。

しかし残念ながら、俊敏さにおいてはウォートランでは彼と1,2番を競う白い彗星・クーパーの方が、0.2秒ほど早かった。

つま先に非金属製セーフティカップを仕込んだタクティカルブーツを、素早くドアの間に差し入れたクーパーは、マフィアのガサ入れをする刑事さながらに体を器用にねじると、次の瞬間には殺風景極まりない部屋の中へと滑り込んでいた。


<2>につづく


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