book短A | ナノ


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※オリキャラがひたすら出しゃばる話















担当の禿はどこかまだあどけなさを残していて、大変若そうに見えた。

歳を聞くと、恥ずかしそうに頬を紅く染めながら、まだ十だと答えた。


「あぁ、それなら……出会った頃のあいつくれぇか」

「あいつ?」

「居るんだよ、うちに。お前みてぇな餓鬼が」


それから、自分の失言に気付いた。


「っと、悪ぃ……お前は餓鬼じゃねぇよな」


すると禿は可笑しそうな顔をして笑った。

それを睨みつけると、禿はすまなそうに顔を赤くする。


「あ、すんまへん、つい……」

「何が可笑しいんだ?」

「だってうち、まだ一人前やあらへんのに、あんさんたら……」


禿を一人前の遊女と同じように扱うのは、やはり常軌を逸しているらしい。


「別にいいだろ。それよりお前、若ぇのに辛くねぇのか」


酒杯を傾けながら聞いた。


「辛うても、うち行くとこあらへんし」

「お前、どこのもんだ」

「生まれは江戸なんやて」

「江戸?」


思わず眉を顰めた。

江戸出身なら、何故こちらの訛りで話しているのだろう。


「でも、赤ん坊の頃に孤児になってしもて、すぐこっちに来たんや」

「なるほどな」


禿は皹(あかぎれ)の痛々しい手で徳利を掴むと、空になった酒杯に酒を注いでくれた。


「あんさんも、江戸のお人やろ?」

「あぁ、日野の出だ」

「何で、上洛したん?」


答えに詰まった。

壬生狼と呼ばれて散々馬鹿にされている身の上を、わざわざ語る必要はないだろう。

――今は、誰が敵か分からない時代だ。


「ちっと、将軍様に用があってな」

「将軍?……へぇ、ほな、あんさんは偉いお侍はんなんや」

「はは、偉い、か」


実際は偉いとはかけ離れた身分だ。

勢いだけは良かったものの、身一つで右も左も分からぬ京にやって来て、同志には裏切られ、これまた勢いよく反旗を翻し、お先は真っ暗、日々の飲み食いすらやっとなのに、侍と名乗るのも烏滸がましい。

今は芹沢の伝手で何とか会津藩と接近できているものの、これからの生活が保証されたわけではない。


そもそもが百姓の出だ。

武士ではない。

そのうちに、正真正銘の武士になるのだ。

いや、絶対なってやる。


―――しかし、そういう私情をこの禿に話す必要は全くない。

そう判断した。


「俺は、まだまだこれからなんだよ」

「ふぅん…そやかて、お侍はんはお侍はんやろ?」

「ま、そうだな」

「いいなぁ、お侍はんて、格好えぇなぁ」

「そうだな、格好いいもんだぜ」


自分は、正真正銘の侍――即ち、士道に乗っ取った侍になるのだ。

今巷に蔓延っているような、家柄や身分だけが物を言う、中身が空っぽの武士にはなりたくない。

まるでお飾りのように刀を腰に下げ、威張り散らして歩く武士の何と格好悪いことか。

左差しの重みを理解できるような、そういう侍になりたいものだ。


「あんさん、難しいお顔してはる」

「ん?…あ、あぁ………」

「あんさんて、広い世界を知ってはるんやね」


禿の言葉に、喉の奥で笑った。


「いや、世の中もっと広いんだぜ」

「うちはね、廓の外を知らんの」

「あぁ、そうか…」


禿に同情してしまったようで、何だかしみじみとした気持ちになった。


「そやから、太夫になって、身請けしてもらうのが夢なんよ」


土方は黙って聞いていた。


「あんさん、名前何て言うん?」


不意に、禿が聞いてきた。

まだ言葉遣いも躾られていないようなこの禿には、なかなか親近感が持てると思った。


「…土方だ」


名乗ってやると、禿は何度か口の中で反芻していたが、やがて改まったように話しかけてきた。


「ほな、土方はん」

「何だ」

「土方はんが偉いお侍はんになって、うちが一人前に働けるようになったら、うちのこと買うてくれる?」


土方は面食らって、ぐっと言葉に詰まった。


「は……俺なんかより、もっと偉い侍に買ってもらえよ」

「何でぇ?うち、土方はんがええ!」

「もっといい男が山ほどいるさ」


そのまま酒杯に手を伸ばすと、禿はふてくされた子供のような顔になった。

それを見て、また何となくあいつを思い出す。

幾つになっても子供らしさの抜けないところがよく似ている。


「ほな、土方はんはうちのことが嫌いなんや」

「待て待て、何でそうなる」

「女やと思うてないんやろ」

「そんなことはねぇよ」

「うちも、ちゃんと修行したらきっと太夫になるんやから!後で後悔しても遅いんよ!」


思わず苦笑した。

若くして身を売り飛ばされたにも関わらず天真爛漫そうに見える禿は、実にあどけなく可愛らしい。

これがいずれ、数多の男に穢されていくのかと思うと、少し胸が痛んだ。

がしかし、自分にはどうしてやることもできないのだ。


「何で笑うんや。うちは真剣に話してるんよ?」


笑っていると、禿は怒ったような顔をした。

実にころころと表情を変える子だ。


「いや、すまねぇ」

「ふん。うち、土方はんなんか嫌いや」

「は、大きな口が叩けたもんだな」


すると、禿はこちらを薄目で睨んできた。

一人前の遊女ならば、絶対にできない行為だ。


「どうせうちのこと、小馬鹿にしてるんやろ?」


そう言って、頬を膨らませている。


「違ぇよ。俺は、守れねぇ約束はしねぇだけだ」

「え?約束?」

「あぁ。この先どうなるか分からねぇからな。お前を買ってやる約束なんざできねぇよ」


土方は溜め息混じりに言ってやった。


「侍なんざ、いつ命を落とすか分かったもんじゃねぇからな」

「お侍はんて、そういうもん?」

「そういうもんだ」


禿はそう、と呟いて、何やら寂しそうな顔になった。


「……酷いお人やなぁ。嘘でもええから、買うてくれるて言うて欲しかったのに」

「下手に期待させたって、後で虚しいだけだろ」

「土方はんは、優しすぎなんや」


土方は驚いて顔を上げた。


「俺が、何だって?」


優しいと言われたのは初めてだ。

可笑しなことを言う奴だと思った。


「怖そうな顔してはるけど、本当は優しいんやろ」

「は、煽てても何も出ねぇぞ」

「別に、何も期待してへんもん」


それから禿はあっと声を上げた。




―|toptsugi#




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