「あれ?土方さんだけですか?」
広間で一人昼飯をかきこんでいると、総司がひょっこり現れた。
「お前はまた、そんな薄着で出歩きやがって…」
来い来いと手招きし、素直に側までやってきた総司に火鉢を近付ける。
最近はだいぶ冷え込みが激しくなったというのに、この男はまた、風邪をひいているにも関わらず、着流し一枚で平気であちこちを彷徨こうとする。
見ている此方の肝が冷えるというものだ。
「ねぇ、何で土方さんしかいないんですか?」
更に自分が着ていた羽織をかけてやっていると、落ち着きなく総司が尋ねてくる。
「たまたまだ。皆出払っちまってるんだよ」
「近藤さんは?」
「今日は別宅にいる日だろ」
「えー、じゃあ源さんは?一くんは?平助は?左之さんも新八さんもいないじゃないですか」
「だから、巡察だったり、非番で出掛けてたり、色々だ。誰かに用があるなら、夕飯までには戻ってくるだろうから……」
真面目に答えてやると、総司は最早興味を失ったようでそっぽを向いた。
総司の飽きっぽさには心底呆れ返る。
ムッとして味噌汁をずずっと啜っていると、突然総司が振り返ってきた。
「てことは、夜までは二人っきり?」
どうやら、まだ話は続いていたようだ。
「そうなるな。まぁ、隊士は山ほどいるが」
「ふぅん」
何がおかしいのかにやけている総司を胡散臭げに横目で見ながら、一人食事を続ける。
「で、土方さんは一人寂しくご飯?」
「悪いか」
「僕のこと呼んでくれたって良かったじゃないですか」
「見に行ったら寝てたんだよ。わざわざ起こすのは可哀想だと思うだろ」
「何でそこで諦めちゃうかなぁ」
「何だよ、拗ねてんのか?」
ますます胡散臭くて抜け目なく観察していると、総司はそんなんじゃないです、とお決まりの台詞を吐いた。
「大体、何で勝手に出歩いてるんだ。風邪ひいてるんだから、大人しく布団に入ってろって言っただろ?」
「いいじゃないですかちょっとくらい。一人でいるのに飽きたんですよ」
「それで俺ンとこにくるのかよ」
「仕方なくね」
「仕方なくかよ」
「 だって他に誰もいないし 」
そうかよ、と少しだけ臍を曲げ、食事を再開する。
すると、総司がぐいっと体を乗り出してきた。
「それ、僕にもちょっとください」
小鉢の里芋を指して言う。
「ほらよ」
箸で器用に摘まんで差し出すと、総司はパクリと口に含んで咀嚼した。
何だか餌付けでもしているようだ。
「美味しい」
「だろ?斎藤が煮付けてくれたんだ」
「……」
二つ目を要求しながら、総司がじとっと睨み付けてくる。
「…なんだよ」
「どーへぼふはりょーりへたでふほ」
「行儀が悪い」
「どうせ僕は料理下手ですよ!」
「くく、拗ねてやがる」
少しからかってみたら、完全に臍を曲げられてしまった。
意外に打たれ弱いところもあって、面白い限りである。
「ほら、芋だけじゃなくて、米も食え」
虐めすぎたかなと思って再び箸を差し出してやると、総司はムッとした顔のまま口を開けた。
風邪の所為で少し赤い頬に、一瞬ドキリとする。
悪いと思いつつも、箸を置き、総司が嫌がる間もなく頭を引き寄せた。
親指で下唇を捉え、開いた隙間に舌を差し込む。
んっと抗議の声が聞こえてきたが、無視して舌を絡め、口内を舐め回す。
荒れ気味だなと確認したところで、労るように唇を吸い上げ、そっと解放した。
「たまにはいいな、誰もいねぇってのも。堂々とできる」
総司は暫く赤い顔でぶつくさ文句を言っていたが、宥めるように髪をすいていると、やがて諦めたようにコテンともたれ掛かってきた。
「僕のこと放置しないでくださいよ」
「ああ。早く良くなれよ」
「土方さんが甘やかしてくれたら、善処します」
「……しかと心得た」
お互いにクスクスと笑みを溢しつつ、手短に食事を終える。
せっかく誰もいないことだし、たまにはのんびりするのもいいだろうと、日当たりのいい縁側に出て、総司と日向ぼっこをすることにした(もちろん、総司には暑いと文句を言われるほど布団を掛けまくった)。
「治ったら、お汁粉食べに行きたいです」
「治ったらな」
「もう一回口付けしてくれたら治る」
「嘘つけ」
「やってみなきゃ分からないじゃないですか」
「それもそうだな」
適当な理由をつけては睦み合っているうちに、どちらからともなく眠ってしまった。
夕方になって帰ってきた連中に散々からかわれることになったが、そこは副長の権限を駆使して揉み消しておいた。
「総司、風邪治ったのか!」
「まぁね。お陰さまで」
「へっくちょい!!」
「で、土方さんに移ったんだな」
20131022
▲ ―|top|―