book短A | ナノ


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バイト中のコンビニで、先輩ととある遊びをした。

レジ担当の時に、まずカゴの中身だけで客の内面や外見や生活を想像(勝手に妄想ともいう)し、最後に顔を見てギャップに驚いたり悶えたりするという、至ってワンマンな遊びだ。

しかも、ギャップがなく、ほとんど自分の想像通りの客だった場合にはゲームの醍醐味すら失われる。

僕たちはそれをハズレ客と呼び、しかしそれはそれで自分の推理力を誇って楽しんだ。

例えば、カゴの中身が「混ぜるな危険」の洗剤2つとゴム手袋だったりしたら、この人これから殺人するのかな、と考えてみる。

考えてから、顔を見る。

手配書にありそうな顔だったらハズレ客、よぼよぼのおばあさんだったらアタリ客だ。


このくだらない遊びにも、少しはコツやルールがある。

まず、店の出入り口で客の顔を見てしまったら意味がない。

客がレジに来るまでひたすら顔を見ずに頑張ることが重要だ。

レジに来たら来たで、失礼のないように誤魔化しつつ、何とか最後まで顔を見ないようにする。

年齢や性別は、手や声で判断。

ついでにこっそり財布もチェックして、人間考察に役立てる。

そうして最後にお釣りと商品を渡す瞬間を狙って顔を上げ、「ありがとうございました」と微笑みつつ、初めて客を眺めるわけだ。

その時の快感といったら。

僕よくここまで我慢したよ!という、どこまでも自己満足な快感が押し寄せてくる。

まぁ、感想は「あぁやっぱり」か「意外に若かった」か「ギャップ萌えぇ!」か「やば、ヤンキーだった」くらいしかないからどうってことない。

そう、本当にどうってことない遊びなのだ。

けれど、客にイチャモンつけられたり、何か質問されたり、話しかけられたりすればさすがに顔を見ないわけにはいかないから失敗するし、意外にリスキーだったりする。

深夜シフトの時なんかはいい暇つぶしになるし、先輩も僕も結構ハマっていた。





ある金曜日のことだ。

いつもより少し早め、ちょうど帰宅ラッシュが終わった頃のシフトに入った僕は、花金にコンビニに来る客の私情を勝手に妄想して、いつものように楽しんでいた。

それほど混んでもいない店内に、来客を知らせるメロディーが鳴り響く。

僕は咄嗟に顔を伏せて、客がレジに来るのをじっと待った。

この、レジに来るまでの時間も重要な考察要素だ。

求めるものが決まっているのか、あるいはお菓子や菓子パンで悩んでいるのか、はたまた雑誌の立ち読みでもしているのか。

じっくり考えながら客を待つ。

やがて、レジにカゴが差し出された。

ワクワクして覗き込む。

ふむふむ………成人向け雑誌とビールとさきイカ、それからおにぎり二つか。


「年齢確認の為に画面タッチお願いします」


お酒に対する決まり文句を言って、ピッピッと単調にバーコードを読み込む。

客がパネルをタッチしたのを確認してから、僕は早速考察を始めた。

多分これは一人暮らしの独身男性だな。

今日は飲み会も合コンもなく、一人で帰ってテレビでも見て、自分を慰めてから眠りについて、…おにぎりは明日の朝食だろう。


「全部で○○円になります」


商品を袋に詰め込みながら、財布をチェック。

…………財布じゃなかった。ポッケから小銭がジャラジャラ出てきた。

しかもジャージのポッケだ。

てことは、家から来たのか。

夕飯食べて、アルコールが欲しくなって出てきたパターンかな。

じゃあ出不精ではないのか。

それかよっぽどアルコールを欲していたか。

もし夕飯も買って帰ったならその時ついでにコンビニに寄るだろうから、この人今日は外出してないのかもしれない。

うーん、だったら夕飯食べる前にビール買いにくればいいのに。

あ、出たくないから我慢しようと思ったけどやっぱり我慢できなくなったパターンかな。

……しまった。

考えてる間に、お金をレジ台の上に置かれてしまった。

つまり手を確認できなかった。

仕方ない、今回はこのまま終わろう。


「○○円のお釣りになります」


パッと顔を上げると、なんと目の前には、マスクをして、胸元に赤いリボンの猫がでかでかとプリントされたジャージを着た、痛んだ茶髪の女の子が立っていた。

おおおお……!

アタリだ!アタリ客だ!

てっきり成人男性だと思ったのに!

だってポッケに小銭ジャラジャラだよ?

……まぁそんな女子もいるか。

やられた!完全にやられた!

これは多分、彼氏のお使いで来たパターンだ!

なんてヒドい彼氏だ!彼女に買わせる雑誌じゃないでしょコレ!

あ、もしかして彼氏じゃなくて友達かな?

いや、それにしてもギャップがありすぎるというかちぐはぐすぎてクレイジーだ!

早く先輩に報告しなくちゃ!

今のは超レアなアタリ客だ!

楽しい!超楽しい……!!


「ありがとうございました」


僕が勝手に盛り上がっているのは露ほども知らずに、女の子は店から出て行った。

店に誰も客がいないのを確認してから、ダッシュで品出し中の先輩のところへ行く。


「センパイ!センパイ!」

「何だよ沖田、アタリか?」

「アタリ!超アタリ!性別までしくじった!」

「今のキティちゃんだろ?」


先輩は、あの子が着ていたジャージから、そう命名した。


「俺はあの子がエロ本を取った時から、こりゃあお前がしくじるんじゃないかと思ってた」

「えー!サイアク!でも今の子多分家近所だからまた来るかも!」

「わかんねえぜ?恥ずかしい雑誌買うために、わざわざ遠くまで来たかもよ?」

「おぉ!センパイさすが!」


先輩はゲラゲラと笑って、次は頑張って来いと僕を送り出した。

本当に、地味でくだらないけど超エキサイティングなゲームだ。





僕がレジに戻って暫くして、また客が入ってきた。

今度はさっきよりも時間が経ってから、レジにやってきた。


「あとあんまんください」


おっとぉ……オプション付きときた!


「あんまんお一つですね」

「あ、やっぱり肉まんにします。肉まん一つください」

「肉まんですね」


わかるわかる、何まんにするかは永遠の課題だよ本当に。

気分とか直感とかでいかないとドツボにハマるね。

因みに今日の僕はピザまんの気分。

って、そんなことよりも。

声で判断するに、性別は女性で確定だな。

多分おばさん。五十代くらい。

とりあえず購入品を見る。

あ、アイスが山ほど転がってる。

それとポテチと二リットルのペットボトル。


「スプーンはお付けいたしますか?」

「えぇ、アイスの個数分ちょうだい」


てことはアレかな、これ、ご婦人方の同好会みたいなヤツかな。

それか親戚が来てみんなでワイワイか。

どっちだろう。

肉まんを包みながら考える。


「全部で○○円になります」

「あらやだ、大きいのしかないわ。ごめんなさいね」


そう言って、大きなターコイズの指輪がはまった肉付きの良い手で、福沢諭吉を渡された。

…………せめて端数分の小銭ないのかな。

まぁ、混んでないしいいけどさ。

これはもう、婦人同好会決定だな。


「○○円のお釣りになります。ありがとうございました」


顔を見る。

あまりにも想像通りすぎて吹き出しそうになった。

ケバケバしたド派手なバラ柄のセーターに、真っ赤な口紅。

分厚いメガネには、これまた想像通りに金色の鎖がついて、首にかかっていた。

……婦人同好会だ!

雀卓が家にあってみんなで麻雀でもおかしくないけど、アイスの個数的にもっと大人数でやる感じの何かだ。

何同好会だろう……ビーズ?ちぎり絵?

もしかしたら、ただのご近所世間話同好会かもしれない。

何にせよ、金曜の夜にあんなに着飾って、ご苦労なことだ。

あの年で夜遅くにあの厚化粧は、大変お肌に悪いんじゃないかな。

まぁ、今のはハズレ客だったけど、あれはあれで面白かったからよしとする。

思い出し笑いをしそうになっていると、再び客が来た。

おっと、顔見るところだった。危ない危ない。

今度の客の店内物色タイムはどれくらいかなーと待っていると、予想以上に早くレジに来てしまった。

本日最短だ。

カゴの中身……と思ったらカゴすらない。

レジ台に、カタンと商品を置かれた。

缶コーヒーと、……男性用パンツ!?

待って待って、全く読めない!

商品と人物以前に、商品間にギャップがありすぎだ!

パパパパンツって!?

女性用ならアハーンってなるけど男性用ってどういうこと?

急に友達が泊まりに来ちゃいましたとか?

友達パンツくらい持ってきなよ!!

あっ分かった!

これはきっと酔いつぶれて泊めざるを得なくなった友達用のパンツですね?

わざわざ買いに来てあげるなんて律儀な人だなぁ。それか潔癖症か。


「全部で……」

「あ、悪い、これも」


その時、台の上に新たな商品が乗せられた。

レジ横にあったチュッパチャプスだ。

しかも正義のチェリー味だ!!!

何なんだこの人!

全く予想できない!!


「あ、じゃあ、えっと、お会計変わりまして○○円です」


僕は興奮しきって落ち着きを失って内心めちゃくちゃ焦りながら辛うじて受け答えた。

缶コーヒーとチュッパチャプス?!

ホットコーヒーにチェリー味のチュッパチャプスを浸してから舐めると焼きリンゴの味になるのは僕が発見したんだけど、まさかこの人も仲間!?

あ、いや、もしかしたらチュッパチャプスはパンツの相手用かもしれない。

そうだ、その手があった!

内心ドキドキしながら袋に商品を詰める。

すると、何故かクスッと笑われた。

……な、なんなんだ!!

僕の手そんなに震えてる!?

気になる!めちゃくちゃ気になる!

この人の顔早く見たい…!

僕は財布も手も確認し忘れて、ドキドキしながらお金を受け取って、あたふたとお釣りを用意した。

ぎこちなく手渡し、顔を上げようとした瞬間、キュッとお釣りごと手を握られた。


「えっ…」

「お前、そのゲームまだやってんのか」

「ッ!?」


バッと顔を上げた。

…………土方さんだった。


「!!!!!!!!」

「バイト終わったらすぐ来いよ。それから、コイツはお前にやる」


そう言って、パンツとチュッパチャプスを渡された。

颯爽と去っていく土方さんの後ろ姿を見て、僕は、二度とこんなしょうもないゲームなどするものかと心に誓った。





総司がバイトしてるコンビニに土方さんが客として来るっていう話を書きたかっただけでした。

分かりにくくなってしまいましたが、パンツは総司の週末お泊まり用です。

チュッパチャプスは差し入れかな。

総司は推理にテンパりすぎて声をまともに聞く余裕がなかったんだと思います。

で、焼きリンゴ味はほんとです。あんまり分かってもらえないけどほんとです!

20130412




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