book短A | ナノ


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※土方さんが別人です





ただいまと言えばお帰りなさいと返ってくる。

そんな生活を、まさか自分がするようになるとは思ってもいなかった。


「ただいま」

「お帰りなさーい」

「おかえりなしゃーい」


今日は早く帰宅できたおかげで、息子も起きて待っていてくれた。

玄関まで迎え出てくれた総司と息子それぞれの頭を撫でてから、靴を脱ぐ。

どちらが先かで喧嘩が始まるので、頭を撫でる順番は日替わりにしている。今日は総司が先。

無言で差し出される手に鞄を預け、息子を抱っこしながらリビングまで歩く。


「きょうはぼくのだいしゅきなハンバーグでしゅよ」

「そうか」

「パパもしゅきでしゅか?」

「パパも好きだぞ」


ギュッと首に抱き付いてくる息子に思わず頬が緩む。

だらしのない顔になっているのを自覚しつつ総司の方を向くと、総司は何やら殺気立った笑みをこちらに向けていた。


「歳さん、今日は恋人同士の日じゃないんですか?」


それを聞いて思い出した。


「おっと、そうだった。あのな、会社でチョコもらったんだ。お前にやろうと思ってたのに忘れてた。な、チョコ好きだろう?」


息子の顔を覗き込みながら聞くと、「だいしゅきー!」と元気な返事が返ってきた。

よしよしと頭を撫でながら息子を片手で抱え直して、もう片方の手で、総司がソファに置いてくれた鞄をまさぐる。


「ほら。ちゃんと酒の入ってねぇやつだから」

「たべるー!」

「夕飯食ってからじゃないとダメだぞ」

「あぅ……」


途端に残念そうな顔をする息子をデレデレしながら見つめていると、ふと背中に刺さるような視線を感じた。


「チョコ、もらえてよかったですね」


ハッとして息子をソファに下ろし、振り返る。


「総司……」


今日は総司といちゃつくために頑張って早く帰ってきたはずだったのだが、寝顔でない息子のレア顔を見ることができてついはしゃいでしまった。

総司の冷え切った笑みを見て、すぐさま大いに反省する。


「すまねぇ……」

「何がすまないんですか?」

「パパわるいことしちゃだめでしゅよ」

「パパは別に悪いことはしてねぇぞ」

「へぇ、じゃあ何で今謝ったんですか?何か罪悪感を感じることでも?」

「うぅ……」


そのままキッチンへと去ってしまった総司を慌てて追いかける。


「なぁ、総司。構ってやれなくて悪かった。アイツが寝たら思う存分可愛がってやるからな?……な?」


もじもじしながら総司の顔色を伺ってみると、総司は突然くるりと振り返って、グイッと俺を引き寄せた。

そのまま近付いてくる顔に、おっ、これは……とキスする気満々になって唇を薄く開く……が。


「構ってやれなくて?可愛がってやる?……一体誰に向かって言ってるんですか?僕もう子供じゃないんですけど」


総司は今にも唇が触れそうな距離で、妖艶かつ思わせぶりかつ下半身にずくりと響く声でそう言うと、俺にまんまとお預けを食らわせてキッチンから出て行ってしまった。


「ほら、手洗っておいで。ごはんにしよ?」


息子にそう言っているのが聞こえてくる。


「くそ…」


俺はキッチンからしょんぼりと出て行って、食器を並べている総司の服を引っ張った。


「…そうじ」

「何ですか?早く歳さんも手を洗ってきたらどうですか?」

「……お前はチョコくれねぇのか」

「……お前"は"?」

「あーっと、だから、その、お前からもチョコ欲しい……っつうか、」

「お前から"も"?」


…何だろう、墓穴を掘りまくっている気がする。


「……あなたにあげるチョコなんてないですから。この浮気者」

「なっ!」


浮気者と言われて腹が立った。

だから子供っぽく喚いてみることにした。


「俺は浮気なんざこれっぽっちもしてねぇぞ!俺のどこに浮ついた気持ちがあるってんだ!……いや、浮ついた気持ちはあるな。確かにお前からのチョコを楽しみに、うかれてふわっふわしながら仕事してたさ!」

「と、歳さん…?!」

「俺がどれだけお前からのチョコを楽しみにしてたか分かってて虐めてんのか!?1日頑張って仕事してきたのに……お前は…ご褒美もくれねぇってのか…?」


それから、総司みたいに拗ねてみる。


「もういい……ふて寝する」

「歳さん!!」


うなだれてとぼとぼと寝室へ歩いて行くと、洗面所から戻ってきた息子が、口をあんぐり開けて「パパ…」と呟いているのが見えた。

悪いな、今パパは満身創痍なんだ。

拗ねてる真っ最中なんだ。

そう心の中で謝罪して、ベッドにダイブする。

すると、そう間を置かずに総司が追いかけてきた。

そのまま俺の背中に馬乗りになって、ねえねえと肩を揺すってくる。

知らねーと無視を決め込んでいると、ふと肩の手が動きを止めた。


「歳さん……ふて寝しちゃ嫌です…」


次いでそんな涙声が聞こえてきた。

何だとこら可愛いじゃねーか。

これだから総司は…………ちくしょ。

俺はガバッと起き上がると、驚いてベッドの上に転がった総司を押し倒し、上からキスをしようとして……ピタリと動きを止めた。

……寝室の入り口のところで、息子がハの字眉毛をしてこちらを見ていた。


「パパ…?」

「わりぃ…ちょっとだけ目ぇ瞑っててくれるか?」

「こう?」


息子が両手で顔を隠したのを確認してから、俺は総司にキス(それも舌を入れるやつ)をお見舞いした。

唾液を送り舌を絡め思い切り吸い上げ…とひとしきりチュパチュパしたところで満足して顔を上げる。

すると、指の隙間からこちらを凝視していたらしい息子が、「きゃー!」と叫んで笑いながら走っていった。


「見られた………」


総司に向かって言うと、総司は照れ隠しか強い力で俺を押しのけて起き上がった。

何となく今がチャンスのような気がして、俺は下心丸出しで総司に擦りよる。


「なぁ総司、俺は別にチョコじゃなくてもよくてだな、お前の愛が欲しいだけなんだ」

「…………」

「……くれるだろ、な?抱かせてくれよ」


しつこく強請ってみれば、総司はニコッと笑って立ち上がり、こう言った。


「まぁ、甘いものは食後ってことで」


……またしてもお預けを食らった俺は、食事の間中ずっと、息子が不思議がるほどそわそわしていた。



2013.02.14


息子の名前は何がいいでしょうか。




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