book短A | ナノ


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土方さんが大学教授?
とにかく学者














夢と現実の狭間でうとうと微睡んでいると、不意に隣でもぞもぞと動く気配がした。

あれ、起きちゃったのかな?なんて思いつつ、ごろりと寝返りを打って、土方さんに向き直る。

眠くて重い目蓋を無理やりこじ開けると、土方さんがむくりと起き上がって、眠そうに欠伸をするのが見えた。

それから頭をかいて、前髪をかきあげる。

別に、出掛けるまでにはまだ何時間もあるんだからもう一度寝ればいいと思うのに、土方さんは何故か二度寝というものをした試しがない。

二度寝をするくらいなら、………と彼がいつも取りかかるのが、カビの生えたような古書を引っ張り出してきて、ひたすら分析する作業だ。

根っからの学者気質なのか、本人曰わく、古書に没頭している時が、一番穏やかな気持ちでいられるらしい。

そういうことを、恋人の僕に面と向かって堂々と言っちゃうんだから、本当に無神経だと思う。

今日も例に漏れず、土方さんはごそごそと起き出すと、横で寝ている僕には目もくれずに、かったるそうに机の方へ歩いて行った。

せめてここで頭を一撫でするとか、おでこにキスを落としてから古書と戯れに行くならまだましなんだけどねー。

パジャマも着替えず、顔も洗わないまま早速本と睨み合いを始めた土方さんに、僕は何も言えないまま、目を閉じた。

今、何時だと思ってるんだろう。

若干広くなったベッドの上を転がって、今まで土方さんが寝ていた場所を占領する。

仄かに香る土方さんの匂いと、残る温もり。

僕は再び眠りに落ちた。











数時間後、耳障りな目覚ましの音で、僕は再び覚醒した。

今度こそ、起きなければならない時間だ。


「総司、目覚まし鳴ってる」


諦め悪く、布団の中でふんばっていると、不意に土方さんがぼそりと呟いた。

僕は薄目を開けて、未だに机に向かったままの土方さんを無言で眺める。


「起きてんだろ?うるせぇっつの。早く止めろ」


不機嫌そうに髪をかき混ぜる土方さんを睨みつけて、べーっと舌を出してから、パシッと力任せに時計を叩く。

それからまた、不貞寝よろしく布団に潜り込んだ。

あそこはさ、うるさいとか鳴ってるとか言うんじゃなくて、土方さんが自分で止めて、優しく僕を起こすべきところでしょ?

この朴念仁め。


「……って総司、何でまた寝てんだよ。さっさと支度しろ」


土方さんは、ようやく立ち上がって、僕の方に向き直ると、僕から無理やり布団を剥がした。


「早く起きろって。遅刻するぞ」


僕は手を伸ばして、土方さんの腕を掴んだ。

何だ?と不思議そうな顔をする土方さんを引き寄せて、そのままぎゅーっと抱きついてみる。


「わ、ちょっ、おま、何しやがるんだよ」

「土方さん、ぎゅー」

「離れろ!ベタベタすんな!暑苦しい!」


土方さんは慌てて僕を引き剥がすと、ブツブツ文句を言いながら、リビングへと歩いて行ってしまった。


「………………」


僕はブスッと頬を膨らませて抗議してみたけれど、もちろんそれに気付く者は誰もいない。

何なの、あれ。

僕たち恋人じゃないの?

あんなのツンデレとは言わないよ。ただの酷い人だよ。


僕は何もかも嫌になって、大の字でベッドの上に寝っ転がった。

そのままじーっと天井を睨みつけていると、ひょっこりと土方さんが顔を出す。


「おい、いつまで寝てる気だ。今トースト焼いてやってるから、食って学校行けよ」

「ヤだ」

「ああ?」

「今日は休みます」

「具合悪いのか…?」

「土方さんに傷つけられた心がズキズキします」

「はぁ?俺がいつお前を傷つけたんだよ。訳わかんねぇこと言ってねぇで、さっさと学校行け。俺はやることがあるんだよ」


土方さんは腰に手を当てて、また髪をかきあげた。

土方さんの癖なのかな。


「やることって?」

「それ…そのレポートの採点して、大学持ってって、」


土方さんは、机の隅に追いやられたレポートの山を顎でしゃくった。

まったく、せっかく早起きしたなら、採点を先にやればいいのにさ。


「それって要するにお仕事じゃないですか」

「そうとも言う」

「じゃあ、僕は邪魔しないでここから見てるから、どうぞ?」

「んな、見てるためだけに休んで、お前は何がしてぇんだよ。俺の大学に来てぇんだろ?サボってばかりだと、進学できなくなるぞ」

「そんなこと言って、僕まだ高2ですよ?いいじゃないですかー、土方さんとベタベタしたいんですぅ」

「ベタベタって何だよ、気持ち悪い」

「……………」


言い合いをしている間にも、刻一刻と時間は過ぎていく。

僕は仕方なく起き上がると、派手な寝癖を軽くとかして、土方さんには目もくれずに寝室を出た。

焼き上がったトーストを食べて、つきっぱなしのテレビを眺めて、左上の天気をチェックする。

10%か………じゃあ傘はいらないや。

着替えを済ませて、ほぼすっからかんな鞄を担いだところで、ようやく土方さんが僕の傍まで歩み寄ってきた。

僕の機嫌が悪いことにやっと気付いたのかな。


「総司」

「はい何ですか」

「何でそんなに怒ってるんだ?」


はぁ、怒ってることは分かるのに、理由は分からないなんて。

学者先生は、もう少し頑張って僕を読解してみた方がいいと思う。


「気持ち悪いって言ったのを、怒ってるのか?」

「さぁ?僕もう行くんで、どいてください」

「さぁ、じゃわからねぇだろ」

「古文とは四六時中ベタベタしてるくせに、僕とはベタベタしたくないんでしょ?ならもう用はないです」

「おい、こら。ベタベタしたくねぇっつってるんじゃなくて、学生の本分は勉学なのに、学校サボってどうするんだって言って……おい、総司!待てよ!」

「嫌です。僕、学生の本分を全うしに行かなきゃならないんで」

「総司、」

「土方さんは古文とイチャイチャベタベタしてればいいじゃないですか。どうせその内、俺の恋人は古書だ、とか平気で言うようになるんでしょ?」

「おい………」

「いいですよね、古文は生身の人間じゃないから、文句も言わなければ我が儘も言わないですもんね」

「……………」

「もう知らない」


僕はぷいとそっぽを向くと、呆気に取られたままの土方さんを置き去りにして、家を出た。


先に好きになったのは、僕の方だ。

優しくて、とても暖かい人だと思った。

告白したのも、僕の方。

男同士なのに、すんなり受け入れてくれた土方さんに、かなり驚いたものだ。

しかも、俺も好きだよ、だなんて。

僕はその日以来、土方さんから離れられなくなった。

けど、最近の土方さんはつまんない。

ずっと文献と睨めっこで、僕のことなんか、きっとただの同居人だと思ってる。

ほんとに好きなの?って、そう思うのも仕方ないと思う。

あの人は、あの無粋さで、ルックスはいいから、昔からモテまくって、沢山の女の子を泣かせてきたらしい。

だからきっと、僕のことなんて一時の気の迷いだったんだ。

どうしても、そう思ってしまう。


「はぁ」


学校について、自分の席で落ち込んでいると、平助がひょこひょことやってきて、にやっと笑った。


「当てて見せようか?」

「いいよ」

「その溜息は、土方さんだろ?」

「余計なお世話だよ」

「いぇーい!当たり!」


はぁ。月に一回…いや、二週間に一回くらいでもいいから、思い切り甘やかしてもらいたいのにな。











放課後、昇降口を出るとザーザーと大雨が降っていた。


「なんで。降水確率10%だったくせに」

「夕立かなぁ?」


思わずお空に向かって抗議すると、斜め後ろで折り畳み傘を広げている平助から返事が返ってきた。


「……………」


じーっと平助の傘を見つめていると、平助は困ったように目尻を下げて笑った。


「入る?」

「うん」


でも、平助とは逆方面だなぁ、なんて思いながら、僕は平助から傘を奪う。


「平助がさすと、僕の首がひん曲がるから、僕がさしてあげるね」

「総司、遠まわしにチビだって言うのはやめろ」


なるべくくっついて、相合い傘で校門まで歩く。

すると、校門付近で、何やら女子がざわざわと騒いでいるのが見えた。


「何だろ?」

「有名人でも来てるのかな?」

「この雨の中、よくあれだけ騒げるよね、女子も」

「同感」


冷めた批判を交わしながら近付いて行くと、校門の前に誰かが立っているのが分かった。


「「あ…………」」


僕と平助は同時に声を上げた。

不自然に立ち止まった僕たちに気がついて、その人が顔を上げる。


「………総司」


土方さんは、はにかんだような笑みを零した。

その破壊的な顔に、周りの女子がどよっとどよめく。

次いで、沖田君の知り合いなの?何?どういう関係?みたいな不躾な会話が次々と耳に入ってくる。


「総司、よかったな!」


詳しい事情は何も知らないくせに、平助はにぱっと笑って、僕の肩を叩いてきた。


「……うん」


もう余計なお世話だとは言えなくて、僕は小さく頷いた。

それから平助に傘のお礼を言って、お礼はジュース一本でと言うのを蹴り飛ばしてから、土方さんの傘に潜り込む。

再びどよっとなる女子を振り返ることもなく、僕は土方さんに密着しながら、帰路についた。


「何で、迎えに来てくれたんですか?」

「大学が早く終わったからな」

「でも、今までは来てくれたことなかった」

「お前、今日傘持っていってなかったな、と思ってよ」


見てないようで、ちゃんと僕のことを見ていてくれたことがすごく嬉しい。

ついでに言えば、傘を一本しか持ってこなかったことも高く評価してあげる。


「……ちゃんと好きだから」

「え?」


前を向いたままの土方さんの言葉に、僕はハッと顔を上げる。


「総司のこと、ちゃんと好きだからな」

「…………………」


ズルい、と思ってもいいかな。いいよね。

それだけで、何もかも許してしまいそうになる、そんな言葉を、土方さんは的確に伝えてくれるんだもん。ズルいよ。


「騙されないですよ?僕より、古文の方が好きなクセに」

「そんなことは、ねぇよ」

「でも……」

「古文なら簡単に解析できんのに、お前はなかなかわからねぇんだ。なかなか、思い通り、自分の物にできねぇ」


そんなことをボヤく土方さんに、もうとっくに貴方の物だ、とは絶対言ってやらない。

僕で頭がいっぱいになって、少しは悩めばいいんだよ。


「だからお前は、やっぱり、特別だよ」

「〜〜〜っ!!」


やられた。

これはもう……ノックアウトだよ、土方さん。


「………ずっと放っていて、悪かった」


いいよもう、全部許してあげる。


「…あんまりほっとくと、嫌いになっちゃいますからね」

「それは御免だな」


そう言って、土方さんは優しく微笑んだ。

僕はウッとなりながらも、傘を持つ土方さんの手に、自分の手をそっと重ねた。



2012.07.24


突発的に書きたくなった、古文が恋人みたいな土方さんと総司くんのお話。

古文よりは、数学とかの方がイメージわきやすいけど、暇さえあれば問題解いてるような数学バカみたいな人、いますよね。

仕事人間な土方さんに、「僕と仕事、どっちが……」と言う総司くんでもよかったんですけど、仕事じゃなくて、学問という微妙な差を出したかったんです(願望)

たまには(モテるけど)無粋な土方さんもいいかなーって。




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