book長 | ナノ


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寒い雪の日だった。

街を行き交う人々は皆足早に家路を急いでいる。

駅前のスクランブル交差点をそこはかとなく眺めながら、土方はロータリーの植え込みに寄りかかって座っていた。

クリスマスが近いため、街はどこもかしこも赤と緑で埋め尽くされている。

BGMは、winter wonderland。

木々に飾り付けられたイルミネーションが優しく光り、夜の帳が降り始めたことを告げている。

陽気なことだ。

ちらちらと舞い落ちる雪は、それほど酷い降り方でもなく、見ていてとても美しかった。

まるで都会の喧騒を覆い隠すように、しんしんと振り続けている。

酒で火照った身体を冷ますには丁度いいくらいの寒さだ。

土方は正常な思考回路を失いつつ、ゆっくりと立ち上がった。

立ち上がって、ふらふらと交差点に足を向ける。

そろそろ家に帰ろう。

あんなところ、帰りたくもないけれど。

かと言って、他に行くところもないわけで。


信号が、青に変わる。

一斉に歩き出す人の波にワンテンポ遅れて、土方も歩き出した。

意味もなくはしゃぐ男女、学期末で浮かれている学生、仕事に追われるサラリーマン。

見ていて何だか滑稽だ。


いっそのこと、死んでしまおうか。

死ぬにはなかなかいい日だと思った。

ビルから飛び降りたとしても、死体を雪が優しく覆ってくれるだろう。

まぁ、それにしたってここでは無理だ。

死ぬなら、なるべく人目に触れないところで、誰にも迷惑をかけず、一人きりで……


その時不意に、当たりに甲高いクラクションの音が鳴り響いた。

土方はハッと顔を上げる。


「きゃあああああっ!!!」


誰か、見知らぬ人の叫び声が聞こえた。

それでもまだ、土方は何が起きたのか微塵も理解していなかった。

油の切れたような、耳を劈くブレーキの音、誰かの怒鳴り声。

そして、物凄い衝撃。

次の瞬間には、体が宙に浮いていた。


「……っ…」


そこで、土方の意識は完全に途絶えた。




―|toptsugi#




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