book長 | ナノ


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斎藤の献身的な働きにより、広間には直ちに幹部全員が集められた。

そこへ肩に総司を担いだ土方が入ってきたものだから、一堂の驚きも一入だ。


「お、おい、土方さん。それ、何だよ?」

「あぁ?だから、何で皆そこを聞くんだよ。見りゃあ分かるだろ、総司だ総司」

「もー!みんな見ないでよ!恥ずかしいんだから!」

「いい気味だぜ。俺の句集を人前に晒して、散々馬鹿にしてきた罰だ」


顔を真っ赤にしている総司と、怒っているようでどこか嬉しそうな土方を見て、幹部一堂は唖然とした。


「………土方さんよく持ち上げられたな」

「いやいや、突っ込むところ違う!いや、そこもか!?」


藤堂が原田に突っ込んだ。


「もういい加減降ろして、おーろーしーて!」


皆が口々に勝手なことを言い合う中で、総司だけが退っ引きならない状況に一人焦っていた。

あまりにも暴れるので流石の土方もとうとう抱えきれなくなり、その場に些か乱暴に―――しかし怪我には響かぬように慎重に総司を降ろす。


「なぁ、一体何があったんだよ」


原田が半ば呆れたように、土方と総司を見やった。

その視線を受けて、土方が眉間に皺を寄せる。


「……その様子じゃ、お前ら全員総司の声が戻ったのを知ってたみてぇだな…ちっとも驚かねえじゃねえか」

「悪いな、土方さん。お先に知らせてもらったよ」


原田がにやけながら言う。

原田の言葉に、土方の眉間の皺は益々深くなった。


「ったく…いい大人が人のこと出し抜いてんじゃねぇよ」

「まぁそうは言ってもさ、総司の願いとなっちゃ聞かないわけにはいかねえだろ?なっ?」

「あのなぁ平助……お前だって、俺が心配してた、なんて余計な事を散々総司に言いやがったそうじゃねぇか」

「なっ……余計なことってなんだよ!俺は、二人に早く仲直りして欲しかったから…」

「それより副長、何故急に皆を集めたのですか」


あわや終わりの見えない口論が始まりそうになったところを、いつも冷静な斎藤が取りなした。

先ほどからむっすりと黙り込んでそっぽを向いている総司の様子が気になったというところだろうか。


「あぁ……こいつはだな、いくら言い聞かせても、今回の件は自分が悪いの一点張りで、終いには処罰されて然るべき、なんて言いやがったんだ」

「な………」


斎藤はぽかんと口を開けた。

いや、斎藤だけでなく、当事者二人を覗くそこにいた全員が、呆気に取られた顔になった。


「だから、俺だけじゃなく皆に叱ってもらおうと思ってな」

「何でそれが悪いことなんですか。怒られるなんて筋違いです!」


どっかりと腰を下ろして不服そうに言う土方と、これまた心外だとでも言うように声を荒げる総司。

その、どこか懐かしいようなやり取りに、一堂はそれぞれ思い思いの顔をしてそれを見守った。


「怒られて当然だろうが!ったく…お前はいつになったらその自己犠牲的な考えを改めるんだよ!」

「自己犠牲的って……僕は当然のことを言っているまでです!」

「はいはい、二人共そこまで!」

「そーだよー、せっかく仲直りしたのに、また喧嘩することはないじゃんよ」


永倉が過熱してきた総司と土方を制すると、藤堂がそれに同調する。


「あ、あのなぁ、別にこれは喧嘩じゃなくて………」


土方がそこまで言いかけた時。

不意に廊下の方が騒がしくなって、どたばたという物凄い足音が聞こえてきた。


「お、近藤さんが帰ってきたみてぇだな」


土方は一人静かに呟いた。


「き、局長、……?」

「近藤さん?!?!」

「着くのが早くねぇか?!予定じゃあ今晩のはずじゃなかったのか?」


顔色を変えなかったのは土方ただ一人で、あとの者は皆動揺して銘々に反応している。

すると、間髪入れずにスパーンと綺麗に襖が開いて、出張帰りの近藤が姿を現した。


「局長!」

「わぁ!近藤さん!」

「近藤さん、出張ご苦労だったな」

「おおトシ!!ありがとう、と言いたいところだがそれどころではないだろう!留守の間に屯所が襲われたという知らせをもらったぞ!皆は無事か!?」


近藤には、総司の声のことや土方が殺されそうになったことなどの詳細は伏せたまま、取りあえず屯所が襲撃されたことだけは伝えておいた。

御上から報奨金も出ることだし、近藤には絶対に知らせなければなるまいと皆で判断したからだ。


「あぁ、出張中に心配させて悪かったな。だが、見りゃあ分かるだろ?こっちは一人も死人は出してねぇよ。帰ってそうそうそんなに慌てねぇで、ちったぁ腰を落ち着けたらどうだ」


淡々と言う土方に、近藤は焦れたように大声をあげた。


「いかん、いかん!そうじゃない!大体、総司はどうした!あれは足を怪我していたはずでは……」

「近藤さん、いいから少し落ち着いてくれよ。そんな大事じゃねぇんだから。総司は見ての通り、ぴんぴんしてやがるぜ」

「近藤さん!お帰りなさい!」


総司はぱあっと顔を明るくして、近藤に駆け寄る……とまではいかなかったが、すぐに立ち上がってひょこひょこと歩み寄っていった。


「総司!元気そうで何よりだな。足はもうよくなったのか?」

「はい!もう歩けるようになりました!僕、近藤さんがいなくて寂しかったですー!」

「そうかそうか、俺も総司に会えなくて寂しかったぞ?」


機嫌の良い猫のように近藤にじゃれつく総司と、それを甘やかす近藤を見て、土方は深々とため息を吐いた。

まだ歩けない、なんて言っていたのは一体何時の話だったか、と内心毒づく。


「ていうか近藤さん、着くのは今日の夜中じゃなかったのか?」


原田が驚いて近藤に尋ねると、近藤は総司の頭を撫でながら笑顔で言った。


「あぁ、予定が一つなくなったものでね、早く着けることになったのだよ」

「な……そんなこと一つも知らなかったぜ?」

「っていうか、何で土方さんだけ近藤さんの帰りが早くなったことを知ってたんだよ!」

「そうですよ。僕だって近藤さんのお出迎え、ちゃんとしたかったのに」


相変わらず近藤にじゃれついたまま、総司が藤堂に相づちを打つ。

それを尻目に、土方は得意気に言った。


「そりゃあ、山崎が知らせてくれたからな」

「はぁ!?!?は、一君!土方さんから全部仕事を取り上げたんじゃなかったのかよ!」

「それは……全て没収したはずだが、しかし…山崎の動向までは管理していなかった」

「す、すげぇな山崎……」

「御療養中申し訳ございませんが、局長が予定より早く御帰還なさるとのことでしたので、報告させていただきます……とか何とか言ったんじゃねぇの?」


山崎の声真似をして、永倉が盛大に笑う。

すると、近藤の眉がぐっと寄せられた。


「待て待て、トシが療養とは、一体どういうことだ!」


その言葉に、永倉を始め、全員がその場に固まった。


「ぅ……そ、それは……」


皆が真相を言い渋る中、口を開いた強者がいる。


「それはですね、土方さんは副長だからって命を狙われて、敵に散々痛めつけられて、体中傷と痣だらけになっちゃったからですよ」

「な、何だと!?」


みるみるうちに顔色を変える近藤に、土方は気まずくなって目を逸らした。


「まぁ、危ういところに僕が助けに入って、見ての通り助かっちゃったんですけど。あー、近藤さんにもあの不細工な土方さんの顔見せてあげたかったなぁ!酷かったんですよ?こぉぉんなに腫れ上がって」


それを見て泣いていたのはどこの誰だよ、と土方は心の中ですかさず突っ込んだ。


「な、そ、そ、そうなのか?今は……元に戻っているみたいだが……?」

「まぁ、な……」

「ふーんだ。こんな、ろくでもないような理由で人前で僕を怒る人なんか、一回斬られちゃえばよかったのに」

「…総司てめぇふざけんな!」


とうとう堪忍袋の緒を切らした土方が、総司に怒声を浴びせかける。


「ふざけてませんよ?僕は、近藤さんに心配をかけるような人は一回斬られてこいって言ってるだけです。あぁ、ほんと何で助けちゃったんだろ」

「おい総司、そんな心にもねぇことを言うのはいい加減やめろよ。そろそろ土方さんが泣いちまうぜ?」

「誰が泣くか!!」


またもや始まった皆を巻き込んでの口先だけの言い争いを、近藤は一人困ったように眉尻を下げて傍観していた。


「ま、まぁ…総司の足も回復してきているようだし、トシも……それだけ怒鳴れるのだから元気だろうな。うん、よし!皆ご苦労だった!よくぞ屯所を守ってくれたな!」

「あぁ、だから言っただろ?留守は俺に任せとけって」

「がはは!土方さんそんなこと言ってるけどよ、昨日までずっと近藤さんに顔向けできねぇって部屋で嘆いてたじゃねぇか!」

「な…新八!お前盗み聞きしてたのかよ!」

「ト、トシ、まぁいいじゃないか。トシはよく留守を守ってくれたよ。報奨金を貰ったら、皆で飲みに繰り出そうじゃないか、な?」


近藤がその場を取りなすように言うと、そのこの上ない申し出に皆がこぞって飛び付いた。


「おお!俺ぜってぇ島原がいい!」

「新八っつぁんはまた島原かよ!」

「いいじゃねぇか!俺は飲むんだ!総司をおぶった分と、それから下戸の誰かさんの分までたんまり飲んでやるぞ!」

「下戸じゃねぇ!飲まねえだけだ!」

「土方さん、それ結局同じことだろ!そんなこと言ったら、俺だって土方さんの分と総司のお目付役をやってた分、しっかり飲むんだからな!」


永倉と藤堂が島原島原と騒ぎ始めるのを止める者は誰もいない。


「俺は既に総司から石田散薬を貰い受けている故、これ以上の贅沢は望まないが……だがしかし、たまには皆で飲みたいものだな」

「おー、斎藤が珍しく乗り気だぜ」

「ははは、それにしても皆が無事で本当によかった。遠慮はいらんぞ、皆が島原がいいようなら島原へ行こう!」

「おお!近藤さん太っ腹ぁ!」


久しぶりに皆が勢揃いし、盛り上がって賑やかになってきた広間の中、総司はこっそりと土方の傍に移動した。

先ほどからむっつりと黙り込んでいる土方を、総司は密かに気にしていたのだ。


「……土方さん」

「何だよ」

「あんなの、本気にしないでくださいよ」

「あんなのって、何が」

「だから………僕は、本当は、…土方さんが生きていてくれて、すっごく……嬉しいんですから」

「………」


土方は、総司のことを一瞥した。


「……じゃあ、言えよ」

「え?」

「お前言ってただろ?…もう二度と、俺に言えなかったらどうしようかと思ったことがあるって」

「え…それを?………今?ここで、ですか?」

「あぁそうだ」


総司は途端に真っ赤になって、どうしたものかとおろおろし始めた。


「で、でも……こんなところじゃ…」

「平気だ。あの様子じゃあ、誰も聞いちゃいねぇよ」


土方が他の幹部たちを顎でしゃくりながら言う。

総司はそれを確認してから、それでも不安そうに土方を仰ぎ見た。


「でも………」

「何だよ、俺に言いたくねぇのか?」

「ち、違いますよ!」


有無を言わさない土方に根負けして、総司は恐る恐る土方の耳元に顔を近付けた。


―――島原から始まった今回の騒動も、恐らくは島原での宴会で、幕を閉じることになりそうだ。

総司は大きく深呼吸すると、後ろに聞こえている幹部たちの騒がしい会話にかき消されないよう、土方に囁いた。


「土方さん……これからも、ずっと、…好きでいさせてください、ね」


土方は、予想以上の言葉に目許を赤く染め上げながら、満足気に微笑んだ。


「…あぁ、任せとけ」



END



(よっ、ご両人)
(な………聞いてたんですか!?)
(いや、聞こえなかったけど、見てりゃあ分かる)
(見てたんですか!?)
(いや、普通に目に入るだろ、こんなところでいちゃいちゃされちゃ)
(うぅ〜………)
(ま、末永くお幸せにな)
(おう、了解)
(っ…ちょっと!土方さん!)




*maetoptsugi#




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