今日は僕達が主役である卒業式。
席に着いて、式が始まる。
校長である近藤先生の話。
近藤先生は僕に剣術を教えてくれた、僕が最も尊敬している先生。
そして近藤先生の話が終わり、来賓の紹介やらが始まる。
・・・半分寝てたからあんまり覚えてないや。
「卒業証書授与」
そして、遂に卒業証書が渡される。
柄にもなく、少しだけ緊張している。
「沖田総司」
「はい」
近藤さんは涙を目に溜めながら僕に卒業証書を渡してくれた。
隣に陣取る教頭の土方さんは無愛想な顔で僕を見ていた。
こんな日ぐらい笑った顔が見たかった、なんて僕の我儘かな。
そりゃそうだよね。
普段から衝突してばかりの僕に笑いかけるわけないか。
席について座ると一君の番になっていた。
涙目の近藤先生から卒業証書を渡されている一君は少し照れながらも嬉しそうに微笑んでいる。
そして隣の土方先生に少し・・・本当に少しだけ笑っていた。
これは土方さんをずっと見つめてきた僕だから分かったこと。
あの人のことは気に食わなかった。
僕が望んだ『近藤さんの隣』という地位を容易く手に入れた彼が。
でも僕は“嫌い”にはなれなかった。
それどころか彼のちょっとした優しさに惚れていたのだと思う。
最初は威嚇していた。
僕に近付く者は全て敵―
そう思っていた僕を助けてくれたのは近藤先生。
そして、土方先生だ。
そして段々と土方先生の人となりが分かってきて、彼の優しさに気付いたときには―
―僕は土方先生に惚れていたんだ。
でも、きっと叶わない。
土方先生はきっと、一君が好きだ。
どうして僕じゃなかったんだろう・・・
出会ったのは僕の方が先なのに。
なんて、恨み言は言えない。
僕が、悪いんだから。
悲しい思考回路になっていると、式が終わって卒業生退場になる。
体育館を出て、教室へ戻る。
すぐにHRが始まる。
「卒業は終わりじゃねぇ。始まったんだ。頑張れよ。俺が言いたいのはそれだけだ」
原田先生は笑いながらそう言ってくれた。
これで最後なのにあっさりとしたHRだな、と思った。
それから僕はクラスの皆で打ち上げをして家に帰ろうとするとき、あることに気が付いた。
「(学校に携帯忘れた)」
今から行けば、まだ誰かいるはず。
そう思って僕は学校へ向かうことにした。
幸いなことに打ち上げ会場から学校までそんなら遠くなかったのですぐに学校につくことが出来た。
職員室に行こうとした時―
「総司」
聞き覚えのある声に呼びとめられた。
「土方先生・・・」
「もう卒業したんだから前みたいにさん付けでいい」
「・・・土方さん、僕に何か?」
「あぁ。お前の探しものはこれだろ?」
そう言う土方さんの手には僕の携帯があった。
「あ!ありがとうごさいます」
「やけに素直だな」
「たまには素直になりますよ。・・・最後ですから」
「お前に伝えたいことがある」
「?何ですか?」
「卒業したら言おうと思ってた。・・・好きだ」
「・・・は?」
「好きだって言ってるんだ」
「じ、冗談、じゃない、ですよね?」
「俺が冗談でこんなこと言わないのは分かっているだろ?」
「そ、それは・・・」
「返事なんか聞かねぇ。お前の気持ちは分かってるんだよ」
「なっ!?」
「お前の気持ちには気付いてはいたが、俺はお前が大人になるまで・・・せめて高校卒業するまでは我慢しようと決めてた」
「土方さん・・・」
「付き合ってくれ」
「ぼ、僕でいいなら・・・よろしくお願いします」
桜が舞い散る季節、僕達は付き合うこととなった。
これからもきっと喧嘩することが多いと思うけど、笑って過ごせるといいな。
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