「なー、名前の初恋ってどんな奴だった?」
「またその話?んー。よく覚えてないっ」



にまにまにまにまにやけを抑えられてないエースが名前を覗き込む。
名前は少し呆れたようにしながら、ペンを動かす手を止めなかった。



「ほんっとに覚えてねぇか?」
「うんんー…」



引き下がらないエースに、仕方がないと言うように、名前は手を止めてペンを置いた。
そのまま手を口元にやって、斜め上を見る。
その様子を興味津々に見つめるエースを横目で見て、頬を赤くして視線を逸らす。



「いつも笑ってて…、一緒にいると楽しくて、その時にわたしが欲しい言葉をくれる人…だったかな」
「それで?」



ゆっくりゆっくり話す名前をキラキラした目で見つめるエースは、もっともっとと名前を急かす。その視線に居た堪れなさそうにしつつも、「んー…」と頭を捻る名前。



「エースにすごく似てた気がするんだけど…、でもそれは今のわたしがエースが好きだから重ねちゃってるのかなぁ…って思うんだけど……。??」
「……」
「エ、エース…?」



黙るエースに名前が不思議そうに言葉を止めた。

プシュッって音がして、エースの顔が真っ赤になる。
自分で聞いといて、こうなるかね。

心配そうに名前が覗き込めば、その身体はあっという間にエースに包まれた。



「名前ッ!!」
「わっ!」
「おれも名前が好きだ」
「えぇっ、う、うんっ」



名前も耳まで真っ赤だ。
エースは満面の笑みで名前を抱きしめ、噛み締めるように好きだ好きだとつぶやく。

あわあわとしていた名前もだんだんと力が抜けていったようでヘタリと腕が落ちた。



「ねっ、エース、もう、やめて…」



ぷしゅー。と気が抜けた風船のように名前が縮こまっていく。



「恥ずか死ぬ…」
「あぁっ!?」



死ぬなー!!と今度は名前の体をぶんぶん揺する。


ここは食堂

なんともまぁ微笑ましい光景に、おれ含めその場にいた奴ら全員がその二人に釘付けになっていた。

ちっちゃくなってた名前に初恋だと言われて、大人に戻った名前もそのことを覚えてるとなればエースが舞い上がるとは思ったが。

ほんと、この二人はここが海賊船だってことを忘れそうなくらい甘ったるい空気を流してくれる。まぁ、不思議とそれを嫌だとは思わないんだけどな。



「一体なんの騒ぎだよい」
「おっ、マルコ」



相変わらず眠そうな目を携えてきたのはパイナップルで、愛娘とエースのやりとりをちょっと冷めた目で見つめていた。



「エースの名前の初恋はどんなやつ?から始まって、今は惚気タイム」
「ははっ、そうかい」



二人を見るマルコの視線は優しい。でもちょっと寂しそうな気もする。
ちっちゃくなってた名前はやっぱりマルコにくっついてたから。

戻ってからはやっぱ親離れしちまってるもんな。あと、常にエースがくっついてる。



「あっ、マルコッ!」
「ん?」



マルコを見つけたらしい名前が手を上げて笑顔で左右に振る。
そのままエースから逃れてこっちに向かってトタトタと早足でやってきた。



「これっ、描いてみたの!どうかな?」
「おぉ」



パッと顔を明るくさせて、両手で差し出したのは海図
操舵室に置いてあるようなデッカいのじゃないけど、線や島がしっかりと書き込まれてる。
マルコはそれを受け取ってまじまじと見ていく。



「上手くなってきたねい」
「ほんと?よかった…」



ぽんとマルコの手が名前の頭に乗せられて、名前が嬉しそうに顔を綻ばせた。
その様子の可愛いのなんのって。
おれの表情筋も仕事をしてないくらいにゆるゆるに緩んだ。



「また大きいので練習してみたいんだけど…」
「もちろんだよい、おれの部屋行くか」
「うん!!」



マルコと名前が並んで食堂の出口に向かう。
そういやエースは…と、さっきの方向を見たら、エースもなんだか嬉しそうにその二人の後ろ姿を見てた。

マルコと名前が楽しそうなのがエースも嬉しいんだろうな。


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