ついに名前を遊園地に連れて行こうの日がやって来た。
甲板では大勢の奴らが二人を見送るために集まっている。
小さな名前はノースリーブに白のスカートを着て、愛用していた茶色のバッグを持っている。そしてハルタとイゾウに最終確認と言わんばかりに身なりを整えられていた。


「楽しんできな」
「お土産よろしくね」
「うん…!ありがとう」


ポンポンと軽くイゾウの手が頭に乗る。
二人に名前も小さく微笑んだ。
二人は顔を上げると船室への入り口を見た。



「しかし、エースはまだか?」
「張り切って準備してた割に遅いね」


そうだ。名前の準備は万端。船員が梯子も降ろしてくれていつでも出発できるってのに肝心のエースが来ていない。
何やってんだあいつは。と数人が呆れた溜息を吐いた時、扉が開いて笑顔のエースが飛び出してきた。


「悪い!遅れた!」


何の悪びれた様子もなくエースは名前に駆け寄って手を握る。


「行くか!」
「うん!」


エースに手を引かれながら梯子のかかっているところへ行くと、名前は振り返って控えめに笑った。


「行ってきます…」


と、小さく手を振る。
そんな名前に、わかってたことけどかわいさを再認識させられたおっさんたちが途端にデレッと表情を変え行ってらっしゃいと手を振った。

梯子を下りて姿が見えなくなると甲板では我先にと船縁へ男共が駆け寄る。

下を見ればまた振り返った名前がこちらに手を振っていた。
そんでその小さな手をエースが握って歩いていく。
なんとまぁ。


「なんか何年か前のこと思い出すね」


ハルタがそう呟いて、みんなの脳裏に浮かんだのはきっとあの日。
エースと名前が初めて二人で出かけてった日のことだろう。
あの初々しい二人をまた見ることになるなんてな。


「もう行ったのかよい?」
「あぁ、二人ならもう行ったぞ」
「そうか…」


遅れてきたのか、マルコは二人の後ろ姿を眺めて小さく微笑んだ。


「エースに任せて大丈夫だったかねい」
「ま、楽しくやるだろ」
「そうだな」


マルコは慈しむような目で名前の後ろ姿を見つめていた。

赤髪のナワバリであるこのゼイン島に到着したのは今日の夜中だった。
赤髪にはオヤジから上陸することを伝えてもらっているが、平和な街らしくあまり大勢で押し掛けるのはやめておいてくれ。とのことだったらしい。
だから、今回はエースに名前を任せ、おれたちは船で留守番だ。


「名前、楽しめるといいな」
「あぁ」










マルコが買って来てくれていたというチケットを受付のお姉さんに渡すと、確認し半分に折ってピリピリと切られていく。ドキドキと胸の緊張を感じながらその動きを見つめていた。綺麗に切られたチケットの半券を渡され、それを受け取る。


「再入場の時必要になるのでなくさないでね」
「はいっ」


少し声が上擦ってしまうとお姉さんは小さく微笑んでくれた。

受付を抜けるとエースが待っていてくれて、行くぞ。と手を引いてくれた。

“ようこそ!ファンシーパークへ!!”

そうカラフルに装飾されたゲートをくぐり抜けるとそこにはずっと憧れだった世界が広がっていた。


「うわぁっ!」
「すっげぇなぁ…!!」


聞いているだけで気分が楽しくなってくるようなBGMが鳴っている。
近くではカラフルな風船をたくさんもった人が小さな男の子に風船を渡していた。


「おれ、こんなとこ初めてきた」
「うんっ…、みんなすごく楽しそう…!」


見るもの全てが初めて見るものばかりでどこを見ればいいのか視線が迷ってしまう。

その時キャー!!と悲鳴が頭上から聞こえ、驚いて頭を抱えた。

その悲鳴が遠ざかっているのがわかり見上げると、線路のようなものがあり、その線路に沿って人を乗せたコースターがもの凄いスピードで進んでいくのが見えた。きっとさっきわたし達の頭上も通って行ったのだろう。

聞こえた悲鳴と言ってもそこに恐怖の感情はないことがわかる。
みんながみんな楽しんでいる。それが瞬時にわかった。


「おれもあれ乗りてェ!」
「わたしも…!」


表情いっぱいにワクワクとしているエースはさっきみた速い動きの乗り物を指さしあれ乗りたい!とわたしの手を引いて走り出した。

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