「悪いな姉ちゃん!もうこれだけなんだ」
「う、うそ……」


どうしよう……。

左手にある袋には1kgほどのお肉たち。


「足りない…」


今日は我が弟ルフィの誕生日だ。
前々から、お肉料理をたくさん作ってあげようと計画していたんだけど…、甘かった…。

今日は午前中だけの授業だったし、お昼にお肉屋さんに買いに行こうと思っていた。
しかし、こどもの日だからと、よりにもよって今日が大安売り日。わたしが行った頃にはお肉はほとんどなくなっていた。

その後も隣町のお肉屋さんやスーパーを回ったんだけれど、あまり収穫はなく、全てを合わせても1kgほどにしか至らなかった。

普通の家庭なら1kgって結構な量だと思うけど、うちでは全く足りない。肉好きで大食いという両刀の弟たちがいるからだ。


「はぁ……」


ルフィ、がっかりするかなぁ…。折角の誕生日だし、お腹いっぱいお肉食べてほしかったなぁ。


「名前?」


突然背後から声をかけられ、聞き覚えのある声に振り向いた。


「こんなとこで何してんだ?」
「エース」


わたしを不思議そうに見たエースは、まだ制服姿で、そういえばここはエースの学校の近くだったなと今頃気が付いた。


「買い物か?おれが持つぜ」
「あっ、うん、ありがとう」


すかさずわたしの持っていた袋を奪ったエースだけど、すぐに発した、そんな重くねぇな。の言葉にわたしはガーンと肩を落とした。


「おい名前ッ、どうしたんだよ?」
「じ、実は……」


エースに今の状況を説明した。エースはふんふんと話を聞いてくれて、わたしが話し終わったと同時に、よし。と一言呟き、すぐに携帯電話を取り出した。


「エース?」
「任せとけって」


なんだかよくわからないけど、こんなにもエースが頼りになるなんて初めてじゃないかと思う。

誰かはわからないけど、誰かに発信したエース。本体を耳元に持って行き、不安気に見るわたしに、グッと親指を立てて笑いかけてくれた。ちょうどその時、その相手が電話に出たらしい。


「あぁ、マルコ?おれおれー!」


マルコさん?マルコさんはわたしと同じ大学の4年生だ。どこで知り合ったのかはわからないけど、エースが仲良くさせてもらってる人たちのうちの1人。見た目が少し怖いけれど、とても優しい方だ。


「それじゃ頼むわ。ん、じゃあな!」


ピッ。と通話を終了させると、また次の相手へ掛け始めた。


「おーサッチか!今バイト終わりか?」


サッチさんもエースの知り合いのひとり。少し時代遅れのリーゼントを貫いているお茶目な人。マルコさんとサッチさんに何を頼んだんだろう…?


サッチさんとの通話を終えたらしいエースは、わたしの手を取り、行くぞっ!と歩き始めた。


「いっ行くってどこに!?」
「サッチのバイト先!こっから家の方面にあるからよ、すぐだぜ!」



















エースに引っ張られ辿り着いたのはとても高級そうなレストラン、敷居の高そうな外観にわたしは後ずさるがエースはなんの躊躇いもなくそのレストランの裏口へ向かった。


「サッチ!」
「おっエース!それに名前ちゃんも来たのかぁ!」
「こっ、こんにちは…」


裏口付近で壁にもたれ煙草を吹かしていたのはさっきエースと話していたサッチさん、彼はわたしたちに気が付くとすぐに手を振ってくれた。


「ほれ、用意しておいたぜ!」


サッチさんが大きな発泡スチロールの箱を担いでエースに渡す。


「サンキューな!サッチ!」
「あっ、あのっ、これって…?」


何を頂いたのかわからないわたしが不安な声をあげるとサッチさんは、あぁ。と声を出した。


「店で出せねぇ部分とか切れ端集めたやつだから、気にすんな」


発泡スチロールの蓋を指で開け、中身を見せながら言ったサッチさんはわたしの頭にポンッと手を乗せた。
箱と蓋の隙間から覗いてみると、箱いっぱいに赤い塊が。


「お肉…?こっ、こんなに!?」


悪いです!と返そうとするもいいからいいから。と人のいい笑顔を向けられてしまっては断れない。ならせめてうちに来て一緒に食べましょうと言えば、いいのか!と喜んでくれた。


「名前ちゃんの手料理食えるなんてラッキーだぜ!」





サッチ先輩からお肉をいただき、なんとかルフィの誕生日会の料理は完成しそうだと一安心。

サッチ先輩も参加することになり我が家へ向かったのだけど、もうすぐ到着というところで我が家の前に人集りが見えた。


「なんだろあれ…?」


足を止めたわたしとは反対に、エースは、おおっ!なんて声をあげ、そちらに向かって走って行った。


「マルコー!!」

「マルコさん?」
「あいつも来てんのかー」


人が多すぎて全然見つけられないけど、エースは一ヶ所目掛けて飛んで行った。


「こいつらにいろんなとこから肉かき集めてもらったよい、これだけありゃ十分だろい」
「うおー!ありがとなー!ルフィ喜ぶぜ!」


慌ててそちらへ向かうとこんな会話がなされていて、わたしは驚きで声をあげた。


家の前に積まれている箱、箱、箱。箱の種類も様々で全て違うところのものだとわかる。


「こんなに……!!」
「おお、名前か、久しぶりだねい」
「マルコさん…みなさん…、本当にありがとうございます…!!」


わたしが頭を下げると、ワハハ!と大きな笑い声が上がった。


「エースの家族のためだよい、当然だ」


ポンッと頭にマルコさんの手が乗って、ニコリと優しい笑顔を見せてくれた。

わたしが買えたのはたったの1kgだけ、なのに今はこんなにも…。エースって凄いなぁなんて改めて思えた。

グイッ

その時強い力で腕を引かれ、わたしはわっ。と驚きに声を出してしまった。気付けば肩にエースの手が回っていて顔と顔がとても近い。


「名前、はやくしねぇとルフィ帰って来ちまうぞ」
「あぁっ!そうだね。みなさん、良ければ上がってって下さい。ルフィも騒がしい方が喜びますから」

「だったらみんなでルフィのやつ驚かせてやろうぜ!」
「いいな!それ!」
「よっしゃー!やるぜー!!」






















「ううぉおおおおおっ!!!?なんだお前ら!」
「「「ルフィ!!誕生日おめでとーーー!!!」」」


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