エースくんはあっという間に名を上げた。

エースくんには人を惹きつける不思議な魅力があるようで仲間もたくさん増えた。
それに伴い船も大きくなっていった。

エースくんは常にみんなの中心という感じでいつも楽しそうだった。
一緒に船出をしたはずなのに、今では遠い存在のようになってしまっていた。
顔は合わせても毎日会話をすることはない。
仲間が増えて海賊団が大きくなっていくにつれてわたしとエースくんの距離は開いていった。

わたしは航海士として操舵室で進路の決定を手伝う。それくらいしか彼の役には立てなかった。

それ以外では書庫でミハールさんと過ごすことが多くなった。
ミハールさんは元教師で世界中の子供に教養をと素敵な夢を持っている人。
それに物知りでいろいろなことを教えてもらえるし一緒の空間にいて落ち着く存在なのだ。


「やれやれ、またどこかの海賊が来たようですよ」


ミハールさんがそう言うため、部屋の小さな窓から甲板を覗くと、確かにどこかの海賊が戦闘を仕掛けてきたようで、甲板の上に次々と人が流れ込んで来ていた。

ドンッ!と大きな音がして見てみればエースくんの炎が立ち込め次々と敵を倒していく。

この数か月でエースくんは世間でも有名になった。
毎日のように海賊だけでなく、海軍、賞金稼ぎと敵襲を受ける。

戦えないわたしは船内で隠れていろと言われ戦闘が終わるまで船内でジッとしている。

ミハールさんがおもむろに銃を取り出し、甲板へ向けた。

バンッとミハールさんが引き金を引けばたった今デュースさんの後ろにいた敵が手を抑えて倒れ込んだ。


「助かった先生!」


ミハールさんは直接戦場へ出ることはないけど狙撃手としての腕が抜群で、こうして船内からみんなの戦闘を援護している。
戦闘の時はいつも、自分だけが役に立っていないことが悔しかった。






「戦えるようになりたい?」


そんな無茶なお願いをしてみれば当然デュースさんは顔を顰めた。
そりゃあそうか、戦闘どころか運動神経すら良くない。ただの女に突然戦闘を教えるなんて無茶すぎる。
やっぱり断られるかと思って落胆するもデュースさんは思ったよりも協力的だった。


「おれはいいと思うが…エースがなんて言うか…」
「やっぱりそうですよね…」


船の奥に行け、絶対に甲板に出るな。彼から言われた言葉を思い出す。
それも、まだスペード海賊団が三人だったころ、とある海賊にわたしが人質にされかけたことがあった。すぐにエースくんとデュースさんが助け出してくれたけど、あれからエースくんはわたしを戦闘の場には絶対出さないようにしていた。
わたしは戦えないただの足手まといだからだ。また人質にとられてみんなに迷惑はかけられない。それはわかっていた。


「それにしても突然どうした?」
「わたしも自分の身くらい守れるようになりたいなって思ったんです」
「まぁ、それは大事だな」


この海で生き残るにはある程度強さがいる。
わたしもこの先の海の航海を続けるなら強くなる必要があると思った。


「新世界に入ったらもっと厳しい世界になる。名前にも多少の強さはあってもいいと思うんだが」
「…ダメだ」


わたしの気持ちを汲んでくれたデュースさんと共にエースくんにお願いに来た。
しかし彼はたった一言そう言って取り合ってはくれなかった。




「やっぱりダメだったな…」
「はい…」
「あいつはお前が傷つくことを極端に嫌がるからなぁ」


デュースさんは顎に手を当ててうーん。と上を見た。
しかし、エースくんにあぁ言われてしまってはそれは船長命令、さすがにもうあきらめろと言われるだろう。それにわたし自身諦めモードに入っていた。


「おれが教えてもいいが、戦闘はあまりなぁ。おれは頭脳担当だからよぉ」


デュースさんはよく、ミハールさん、スカルさん、わたしを含めた四人をスペード海賊団のインテリチームと言う。それ以外は武闘派チームらしい。
そうやってわたしにも役割を与えてくれているのが少しうれしかった。


次に訪れたのは書庫、どうやらミハールさんに助けを求めようということらしい。


「先生入るぞー」
「おや、珍しいですね、デュースさんがここに来るなんて」
「おぉっ、デューの旦那じゃねぇですかい」
「お前も来てたのか!」


来慣れた書庫にはいつもの椅子にミハールさんと、その前の席にスカルさんがいた。
インテリチームが揃ったな。とデュースさんは嬉しそうに言う。


「名前さんが戦闘を…、エースさんがなんと言うか…」
「エースの旦那は名前さんをそりゃあもう愛し…「だぁっ!お前!それは名前の前で言うことじゃねぇだろうっ!」


スカルさんが何か言おうとしてデュースさんが慌てて口を抑えた。
と言ってもスカルさんは髑髏の仮面をつけているから手でその仮面を抑えただけ。
それでもスカルさんは「うおっ」と言って言葉を止めた。


「それにエースにはお察しの通りダメだと言われた」
「でしょうね」
「それにおれは武闘派じゃねぇし…」


一瞬沈黙が訪れる、書庫の小さな丸机を四人で囲う。
椅子もミハールさんがいつも座っているのとスカルさんが座っているものしかちゃんとしたものがなく、わたしとデュースさんは隅に置いてあった小さな丸椅子に座っていた。


「それにしても突然ですね、戦闘だなんて」
「そうだぜ名前さん、女の子は守られてりゃあいいんですよ」
「本格的な戦闘は難しいだろうけど、護身術くらいは身に着けておきたいなって思ったんです。この先みんなはもっと厳しい航海をしていくわけですし…」
「それは一理ありますね…」


さて、どうしようかとまたみんなが黙ってしまう。


「エースの旦那に許しを貰うってのは諦めて秘密の特訓をするのはどうですかい?」
「いや、おれもそれしかねぇなと思っていたところだ」
「それしかなさそうですねぇ」


きっと戦えるわたしを見ればエースくんも認めざるを得ないだろうという結論が出た。
さて、そこで問題が一体何の特訓をするかだ。それに関してはすぐに決まった。
体術や剣術の接近戦を求められるものは危険だから、遠くから攻撃が可能な銃にしようということになった。


「銃ならスカルが情報持ってるだろう、名前に合ったものを選んでやってくれ」
「おう」
「それで狙撃の上手い先生に使い方を習うといい」
「厳しく指導しますよ」
「最後に護身術はおれが少しくらいなら教えてやる」


わたしのために三人がいろいろと協力してくれることになった。


「本当にありがとうございます…!!」
「いつもいろいろしてもらってんだ、当然だろ」
「名前さんが頼み事なんて珍しいですし、これくらい可愛いものです」
「とりあえず先に合った銃を選びやしょう!」


少し涙ぐみながら感謝を伝えると三人とも当然だという返事にさらに感動する。
こんな素敵な仲間が出来たのもエースくんのおかげだ。
もっと役に立てるように頑張らなければ。

次の日から秘密の特訓は始まった。

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