「おい、聞いてんのか」
「っだよ…」
何度も繰り返される言葉に眉を寄せる。
睨んだところでこいつにはなんの効果もないことはわかっているが、ただ煩わしいという気持ちは表情に出てしまう。
「だから、お前はなんでそう名前に冷たいんだって言ってんだよ」
隣を歩くデュースはやや苛立ちを含んだ視線を送って来る。
仮面で目元を隠している奴だが、ここまで長い付き合いとなると、仮面越しであっても意思疎通はさほど困難ではない。
ましてやデュースはクールに見えて感情が出やすい性格だ。
だから今だって、おれの態度のことで苛立っているのは明らかだった。
「お前こそ名前に優しすぎやしねぇか」
「は?」
「副船長なんだからどの船員にも平等に接しねぇとだめだろ」
「はぁ…。今はおれのことは関係ねぇだろうが」
「一緒だろ」
おれの言葉にデュースが大きく溜息を吐いたのが分かった。
別におれは好き好んで名前に冷たくしてるわけじゃねぇ。
名前がおれを拒否してる。
昔からサボやルフィには懐いてたくせにおれには近づこうともしなかった。
それがやっと二人で話すことも増えて、少し強引だったがキスまでするようになった。
ってのに、最近は操舵室に籠って、おれと会わないようにしている。
この間、デュースが操舵室は部外者立ち入り禁止だとかルールを作りやがった。
そもそも名前はデュースには何でも相談して、いつも操舵室で一緒に居やがる。
デュースはそんな気はないと涼しい顔をしてるが、名前がデュースを相当信頼してるのがわかる。それもなんかムカつく。
ユマの件だってだ。ユマがおれに気があることは気付いてる。
だが、名前もユマに協力しているらしい。
ほんとはおれとユマがいるのも嫌なくせに、あんな悲しそうな顔するくせに、なんで自分の気持ちに正直にできねぇ。
「お前はへたくそなんだよ。名前を傷付けてどうする」
「は?」
不意にデュースの言葉が耳に届いて思わず奴の顔を見る。っつっても仮面だけど。
驚いた表情のおれにデュースは呆れた視線を送って来た。
「名前はお前を船長として慕ってるつもりだぞ、なんで傷ついてるのか自分でもわかってねぇんだよ、このままじゃ…」
「……」
別に傷つけたいわけじゃなくて、気付いてほしいだけだ。
名前に自分の気持ちに気付いてほしいんだよ。
いくら、無理やり出航に引っ張って来られたからって、何も気持ちがなかったらおれにここまで尽くせねぇだろ。
さっさと気付け、名前、お前はおれが好きなんだよ。
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