日も暮れて特訓が終わりシャワーでも浴びようかと部屋に戻る途中ブリーさんと会った。


「名前さん船長が呼んでましたよ」
「エースくんが?」
「はい!えっと…」


ブリーさんはエースくんの居場所を教えてくれたのだけど、そこはさっきまでミハールさんと訓練をしていた林の中の開けたところだった。
場所がわかり、ブリーさんにありがとうと伝えそのままさっきの場所に戻った。

しかし、エースくんの姿は見当たらない。

昼間と違って日が暮れてしまえば林の中なんて月明かり以外に照らすものもなく真っ暗だ。風が草木を揺らす音にすら敏感になってしまう。
本当にエースくんが呼んでいたのだろうか。だけどブリーさんが嘘をついているとは思えない。
もう少し待ってみよう。


ヴヴゥゥ……


「えっ…」


どこからか聞こえた唸り声、そこでミハールさんとの会話を思い出した。
この辺りは夜になると猛獣が出るらしいという。
途端に身体が硬直した。


ドシッ…ドシッ…


ゆっくり、でも確実に近づいてくる足音

ぎこちなく振り返ればそこにはわたしよりも二回りは大きい熊がいた。
慌てて銃を構えるけどガチガチと手が震えて引き金を引けない。

その間にも熊はわたしを標的にしたようで今にも襲わんと構えていた。


『自分には敵わないと思ったら逃げることです』


ミハールさんの言葉を思い出しすぐに逃げることに頭を切り替えた。
そのまま熊に背を向けて一心不乱に足を動かした。
木の中なら昔たくさん駆け回った。きっと熊くらい撒くができるだろう。

最近筋トレも頑張った多少なりとも自分の体力がついているはずだ。
全身から汗が吹き出てくる。手の震えは収まらない。だけど、自分で何とかしなきゃ。

林を抜ければ…誰かが…

そこまで考えてハッとした。林を抜けてもそこには島の人たちがいる。
ダメだそんなところにこの熊を連れて行ったりしたら島の人たちが襲われる。

どうしようどうしよう!!

あっ…。

最悪だ。

地面に飛び出ていた木の根に足を引っかけてしまった。
そのまま地面に身体を打ち付ける。


ガヴゥゥゥ……


振り返れば熊が目を光らせて目前に迫っている。
右足がジンジン痛む。もう走れない。

もうダメだ…。

そう思った時、熊の身体に火が付いた。


ウオォォォ!!!


それに驚いて慌てた熊は地面を転がり始め、火が消えると林の奥へ去って行った。
乱れた息を整えていたら地面に見覚えのある黒のブーツが写り込んだ。


「これでわかったかよ」
「ハァッ…ハッ……」
「お前なんかがちょっと訓練したくらいで戦えるわけねぇ」


なかなか上がった息が戻らない中、彼の言葉は心にグサグサ突き刺さった。
目の前が歪む。涙が溢れて来て地面に染みを作った。


「だからもうやめろ」
「ハァッ……ンッ…」


何も返事をしないわたしをエースくんが抱え上げた。
何も言い返せないことが悔しくて、あんなにもわたしのために協力してくれたデュースさん達にも申し訳なくてわたしは顔を隠して泣いた。





「名前!?一体何があったんだよ!」
「熊に襲われた。足を挫いてるから手当してやってくれ」
「熊だ!?エース、お前がいてなんでそんな…!」


エースくんに抱えられて船に戻ってきて、デュースさんのところに連れて行かれる。
何も言わないわたしを心配してくれていたけど、わたしはすみませんとしか言えなかった。足の方はただの捻挫で安静にしていれば一週間もすれば完全に治るだろうとのことだった。








「「特訓を止める!?」」


デュースさんとスカルさんの声が重なる。
後日足が完治して特訓再開するかと言ってくれたみなさんにもう特訓はやめることを伝えると当然、とても驚かれた。


「それはエースさんに何か言われたからですか?」


だけどミハールさんにだけは本心を見抜かれている気がした。


「いえ…自分の限界を感じたからです…」
「名前がそういうならいいけど…」
「才能を感じていたので残念ですけどね」


わたしから戦えるようになりたいと言っておいてとても失礼な話だが、三人ともとても優しく受け入れてくれた。
戦える可能性を捨てたくはなかったけど、エースくんにあそこまで言われればもう、自分の頑張りなんかで戦闘に出てしまったらみんながわたしを庇わないといけなくなってしまう。優しい彼らに迷惑をかけるのは嫌だった。

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